第三十話 危機的状況
夢幻のまちのどこか
人狼とアズが話をしていた。人狼が赤子を化け物にした件で尋ねる。
「なぜ、あんな子供に力を与えた…」
「それは、子供でも力が使えるか試したかっただけさ。力を得たのは良いが、暴れなかったこれはミスだね。気を付けなければ」
「そうか…」
人狼は自分の子供と化け物にされた子供を重ねた。かつては母親だった身、思う所はあった。彼女が何か思っているような素振りをアズに見せたため、アズが諭すように話す。
「何あの子供は捨て子だったんだ。気にしなくていい。それに君の子供じゃあない。君は君の家族を思い行動するんだ」
「分かっています。もう一つお尋ねしたいことがありまして」
「なにかねー、何でも尋ねたまえよ」
「エルカードをより良く使いたいのです」
「そうか、なら君が持っているカードを見せてごらん」
そう言われて、懐からカードを取り出した。
<スラッシュ>
<クラッシュ>
<モンスター>
<ポイズン> 毒を与える。
<バーサーク>
アズはこれらのカードを見て、少し考えて口を開いた。
「<モンスター>と<バーサーク>のカードはあまり使わない方が良い。もし使うとしたなら、持っている他のエルカードと同時発動するんだ」
「使っていない<バーサーク>はともかく、<モンスター>の力は戦いのときに役立ちました。これからも使用してゆくべきでは?」
人狼の疑問に彼女は椅子をくるくるさせながら話すアズ。
「私は君が使用した時の戦いを見ていた、力は増したが、単純な攻撃方法しかできていなかった。それでは、いづれ隙を突かれ、敗北するだろう。<バーサーク>のカードは自我を暴走させて、力を得るカードだ。これも先の理由と同じくだ。この二つを使うなら同時発動で、絶体絶命の時に使うんだ」
「わかりました」
「それに<モンスター>のカードは在るカードがあれば良いんだがなあ、無いものねだりしてもしょうがない」
「あるカードとは?」
「<オプティマイズ>と言うカード。これがあれば<モンスター>のカードを使いやすく出来るんだが、まあ今は気にしなくてもいい。…これで聞きたいことはもう無いか?」
「はい」
「ならば、これから力を振るい、世界が滅ぶように手伝ってくれ」
「分かっています、私の家族のためにも、望む未来のためにも…」
話が終わると、二人は闇へと姿をくらました。
―――
赤子の化け物事件から少しの時間がたった。
人里は今混乱に陥っていた。化け物が出現し、人々を襲っているからだ。化け物の姿は鶏が巨大化したような物であるが頭が二つ、ついていた。化け物はそれを使い、人の頭や体を食事をするかのように、啄んでいく。
辺りには肉片と鮮血が飛び散っていた。すると、何者かが掛け声とともに化け物に斬りかかる。
「ゼアッーーーー」
斬りかかった者は葉月であった。化け物は不意の斬撃を避けることが出来ず、首から胴体にかけて切断されてしまう。化け物は血をまき散らし、地に倒れた。何度か死体が痙攣したが、葉月が止めと言わんばかりに、何度も突き刺す。すると死体は動かなくなり音を立てて消えた。
そこには化け物の死体は無く、残されたのはただの鶏の死骸であった。彼女はそれを見て悪態をつく。
「またかックソ…」
現在、夢幻のまちは、このような化け物がいきなり現れては、人間や妖怪を襲っていた。
化け物たちは、いつの間にか現れるため対処が難しい。
葉月の予兆も怪物が出現したことを知らせるものであり、事前に防ぐことが出来ない。
また、妖怪の里及び人間の里に人狼が出現し、化け物と共に暴れている。
葉月は化け物を退治するため動くが、人狼が邪魔をするため、結果被害が増大。
菫や何かの力を持つ者も協力して、化け物退治に参加したが、化け物はここ最近毎日現れ、力を増していた。そのため多くの者が疲弊し怪我人が続出。
怪物が現れたせいで、人里は大きな被害を被った。ある怪物は天候を操り、田畑に大きな損害を与え、食生活が不安定に。また別の怪物は家々に火を放ち、灰にした。
化け物共により人心は乱れた。
ある者は飢えをしのぐため、殺人、強盗などの犯罪に手を染めた。
また以前から流布していた噂、世界の滅びが近いと言う話が、化け物の出現により真実と惑わしていた。 これにより、変な話が一部の人々に舞い込んだ。それは滅びの日が来る前に、自ら命を絶てば苦しみもない天の国に行けると言う話だ。これを信じた者が一家心中を図った。
現状、多くの者はさすがにこの話は疑っていて、まだ大量の自殺者は出てない。しかしこれは現状の話。人々の生活は、日に日に生活は苦しくなっている。
診療所には多くの怪我人でたことで、ミヅクは良く働いた。ミヅクの大変さを知り、暦も手伝うことに。暦は幻覚を操ることで、人の心の傷を癒した。
人間が怪物によって減らされたことで、妖怪たちの力も弱まった。
このことを危惧した一部の妖怪が再び人間を襲い、力を得ようと画策したが理性的な妖怪たちがこれを諫め、沈静化した。
しかし化け物によって妖怪たちは力を落とし、中には元の存在から、かけ離れた姿になった者いた。
夢幻のまちは苦境に立たされていた。




