第二十五話 破滅を引き連れる人狼
人狼について詳しくは 第四話をご覧ください。
葉月は外に出て、管理所に向かう。夢幻のまちは夜で人里は静かであった。葉月が管理所に近づくと、突如大きな音をたて保管庫から爆発が起こった。爆発は炎となり建物を燃やす。
葉月が突如の爆発に唖然としていると、炎の中から人が現れた。葉月はその者を知っていた。
現れたのは、赤いドレスに地に着くほどの黒い髪。手に鋭い爪を持つの女性。暗闇の森に住む人狼であった。葉月を見て話しかける人狼。
「お前確か……葉月だったな。アズから話は聞いているぞ」
「お前!正気に戻ったのか!それにアズだと!?」
人狼の人間的な話し方とアズを知っていたことに驚き、声をあげる葉月。人狼は葉月の反応を見て笑う。
「そうだ戻ったんだよアズのお陰で…超能力を有したままなァ」
「それで、この爆発お前が起こしたものか!?」
その問いかけに相手は更に笑い、そうだと答えた。そして手に持つエルカードを見せた。それは管理所で保管された物だった。この爆発はそれを盗むためだと葉月は察し人狼に刀を構え、問い詰める。
「それを盗んで、如何する気だ!」
「この世界に破滅をもたらすためにッ!」
<スラッシュ>
<クラッシュ>
相手はエルカードを発動し、葉月に襲い掛かかる。
手刀が葉月の首元を狙い飛ぶ。葉月は体をそらし奇襲を避け、人狼の腹部を横に斬りつける。しかし相手は止まらず、葉月を殴り飛ばした。血反吐を吐き、ふっ飛ばされ地に膝をつける葉月。
血を流しながら人狼は葉月を睨みつける。
「アズに正気に戻され全てを思い出した。この世界の住人が私たち家族にした仕打ちを。そしてアズは、絶望と怒りに苦しむ私にこう持ち掛けた。今の夢幻のまちを滅ぼすのに協力したなら、お前が望む世界にしてやろうと」
「今ある世界を滅ぼして、どんな世界にするつもりだァ!」
<アサルト>
<ハート>
葉月もエルカードを発動し、斬りかかるが、紙一重で避けられてしまう。相手は葉月の顔面目掛け、拳を放った。拳は顔に直撃し葉月は再びふっ飛ばされる。もし葉月がエルカードを使用していなければ今の拳で顔は砕かれ死んでいた。
人狼は遠くを見つめ、地に倒れている葉月の言葉に返答する。
「…全てをやり直した、誰も傷つかない優しい世界だ。この夜の事は始まりに過ぎない。…ん?」
人狼は遠くから聞こえた音の方に目をやった。その方向にはバイクに乗った菫が人狼目掛けて、体当たりを行おうとしていた。
「死ねぇえええええええええええええ!」
「新手か……」
菫は叫び体当たりを行うもあっさりと避けられてしまい、すれ違いざまにバイクに攻撃を与えられた。攻撃を受けたことで、バイクから転げ落ちる菫。
「装着!!」
しかし、地面に叩き付けられる前にパワードスーツを装着し、衝撃を緩和する。そして、素早く体勢を立て直し、敵を睨み、
「テメェ!が管理所を爆破したのか!」
人狼に向かって怒号を発する。菫の言葉に相手はため息をつき、そうだと答えた。その態度で菫は、より怒りを燃やす。
「マキシマム!」
〔マキシマム〕
「!?」
彼女は右腕を赤く発光させ、怒りと共に人狼に飛びかかる。人狼は菫の攻撃が危険だと直感的に感じ、紙一重で避けず、大きく避けた。菫の拳は地面に当たり、大きく爆発を起こす。
「大きく避けて、正解だったな」
避けた彼女は不敵に笑い、菫をバカにした。そして、家々の屋根に飛び移りこの場を後にした。菫は大きく地団駄を踏み、消火と葉月の搬送を行った。
―――
夜は明け、人里の診療所にてベッドにて葉月は横になって菫と話をしていた。内容はアズと人狼の事である。菫が葉月に尋ね聞く。
「で、そのアズが今の夢幻のまちはいらねえ、滅ぼすと言ったんだな?」
「ああ、滅ぼすのは自分ではなく、他の者を介してと言っていたが、まさか人狼だとはな…」
「んで、協力するからには何か人狼にとって得るモノがあるのか?」
「今の世界を滅ぼし、何を得るのかはそうでしかないが、おそらく過去に関することだろう」
かつてアサキシに聞かされた、人狼の過去について思い返し、昨夜の言葉と重ねた。
彼女が人狼になってしまった悲劇を、葉月は俯き話す。
「世界のために奴は人々に生贄にされた。憎む気持ちは察せる。……全てをやり直した誰も傷つかない優しい世界、奴はそう言っていた。そしてこうも言っていた、昨夜の事は始まりに過ぎないと」
葉月の話に肩を落とす菫。人狼は世界のために生贄にされた被害者でもある。そう思うと気が重くなった二人。
「……人狼については懸賞金を出すが、アズについては伏せていた方が良いな」
「なぜだ?発表すればいいだろう?」
「発表すれば今の世界に不満を持ち、壊してしまいたいと思っている奴らの力になりかねない。恐らくはアズか、そいつ等のどちらかから、接触を図ろうとするだろう」
菫の話に彼女は納得した。現在はアサキシとの戦いから五年の年月が立っていた。人間と妖怪は嵐の被害から多少は立ち直っていたが、ある考えが蔓延していた。
それはこの世界は近々滅びると言う考えであった。大災害から数年の内に大規模な嵐に見舞われた事で、多くの者に大きな不安が生まれ、その不安から滅びが連想されたのだ。
また週刊誌などの情報媒体も、小金ほしさからか、不安を煽るような記事を書いていた。
二人は今後の事を思いため息をつく。菫は葉月に与えられた力について尋ねる。
「葉月は滅びの予兆的なモノが感じられるだっけな」
「今のところ、どう変化が起こるのか全然わからん…」
「そうかい。…これから大変だな」
「…ああ、大変だ」
二人が再び深いため息を吐いた、その時。病室に白衣を纏った女性、ミヅクが入ってきた。そして葉月に大切な話があると伝えると言われた葉月は不思議な顔をする。
「何でしょう?ミヅクさん」
「葉月、お前の体はもう限界に近い。今後戦い怪我を負っても以前の様に、完全に治らないかもしれない」
ミヅクが伝えた言葉は葉月も薄々感づいていた。封魔の頃今に至るまで無茶ばかりしてきた。体にガタがこない方がおかしいと言うもの。
「…わかりました気を付けます」
彼女は笑って返答したが、ミヅクにとってそれは信用ならなかった。昔から我慢ばかりし何でもかんでも一人で抱えてしまう子だと知っていたからだ。
ミヅクは葉月の将来が不安になった。




