第二十四話 終わりの始まり
葉月は気がつくと何も無い真っ暗な空間にいた。
「いったいここは何処だ、自分は家に居たはず」
と辺りを見渡すと、突如目の前に木製の椅子に座った女が現れた。
女の容姿は美しく、髪はブロンドで流れるようなウェーブを描いていた。女が突如現れた女に彼女は驚き、そして女の服装を見て更に驚く。
女の服装は黒いチャイナドレスに黄色のジャケットを着ていた。葉月が驚いたのはジャケットについてである。それは色は違えど、了やアトジが着ていた物と同じだったからだ。葉月を見て穏やかに話しかける女。
「やあ、やあ、やあ君が葉月君だね、了とあとじと面識がある」
「その二人を知っているのか……まさかお前」
彼女は、了とアトジの正体を菫から聞いており恐怖で体から冷や汗が溢れ出た。女は葉月が恐怖しているのに気づいたのか、微笑む。
「何、恐れることは無いさ。私の名はアズ、了とアトジの代わりの代行者、つまり終わりを与える者であり、始まりを与える者でもある」
「そんな奴が私に何の用だ、こんなまねして!」
真っ暗な空間に手を広げ抗議する。もし弱気を見せたら取り込まれかねないと判断してわざと虚勢を張った。それに対し穏やかに話すアズ。
「すまんすまん、お前だけに話したいことがあってな」
「態々こんな事をしてまでか?」
「そうだ、話したいことは、夢幻のまちは終末を迎え滅びることだ」
「………」
この言葉に葉月の頭は真っ白になった。その様子を見て、まあ話は最後まで聞くんだと心配そうに声をかける女。その言葉で、我に返った葉月は何故滅びると問い詰めた。
「了の役目を私が果たし、夢幻のまちは滅びを迎える、いや正確に私が直接滅ぼすのでなく、滅びの力を誰かに与え、夢幻のまちに終末をもたらす」
「勝手なことを!了の奴は滅び何て、望んでなかった!」
「それは管理所が保護したからだろう。まあいいと思うけど人間性を大事にするのは…しかし役目は果たさなければならない。この世界の掟だ」
「掟だと、お前たちが勝手に決めたもので滅ぼされてたまるかよ!」
葉月の怒りの声があずを襲う。葉怒声にあずは手で耳を閉じる動作をし、落ち着け、ワケを話すと諫めた。
「滅ぼすわけとはなぁ、夢幻のまちが複雑になってしまったからだ。人間と妖怪は社会を築き、歴史を作った。これが良くない」
「なぜ良くない。良い事だろうに!」
「それはお前たちからの視点だ。本来夢幻のまちは塵箱の世界、不要なモノ、消えてもいいモノなど価値の無い奴らの場所であり、そして再び価値を掴み生を謳歌する場所でもある」
「それがいったい何だと?」
「しかしお前たちは社会を作り、夢幻のまちを変えてしまった。もはや夢幻のまちは塵箱世界では無くなり、ただの不思議な力がある世界になってしまった。これは良くない。塵箱の奴らが何かに会い、価値を得る世界なのに、社会を作り、何事も無い様に暮らすなど許されない」
「だから滅ぼすのか。それだけの都合で!?」
「そう怒るな、もちろん私は残酷な者では無い。滅びを回避するチャンスをやろう。葉月お前は選ばれたのだ。世界を変える権利を……」
アズは葉月を指さす。すると葉月に頭痛が襲った。何をしたかと、彼女は食って掛かるが相手は椅子ごと後方へ下がり避ける。相手は殴りかかられたことで、やんわり話す。
「今私がお前にしたのは、力を与える行為だ。怒らないでね」
「なに、力だと!?」
「私が可能性を与える者として与えたのは、滅びの前兆に気付く力だ」
「…それだけか。何かもっとこう」
その言葉にやれやれといった手振りをする。葉月はその動作を見てあとじを思い出す。
「こらこら、本来、世界の滅びに気付くなんて出来ないんだから文句言わないの。葉月お前は滅びの前兆を知り、それを防ぐことで、夢幻のまちを守れる」
「どんな滅びがやってくるんだ。滅ぼそうとする奴らはどこに居る?」
「滅びの種類は色々さ、滅ぼそうとしてくる奴らに関しては言えないなあ。それにもし防げて生きていたら、また会うことになる」
そう言い宙に浮き、この場から消えようとする。何とか引き留めようとするが、結界が相手の周りに張られ近づけない。あずは最後に言い残す。
「他の者に会ってくるよじゃあね。あっ言い忘れた私と同じ存在の奴もこの件に関わってくるかもしれないから、そん時はよろしくね」
そう言い残し、消えた。闇の空間は裂け、葉月は元居た場所の自宅に戻っていた。
元の場所に戻された彼女は、この出来事を菫に伝えようと管理所に向かった。




