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夢幻のまち 塵箱世界  作者: つかさ
第二部 殺人鬼の日常編
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第十八話 殺人鬼の新たな日常生活

しみについては、第伍話を見てください。

 しみは今、血にまみれ倒れている男の前に立っていた。男の体には刃物による刺し傷があり、傷口から血は溢れ、男の体を赤く染めていた。男のこの傷はしみがやったものだ。


 しみは過去の呪縛によって殺人をしなければまともな生活ができない者だ。そんな自身の事を彼女は男に一人呟く、男はすでに死に絶えており、当然反応なんてものは帰ってこない。しみ自身、何故呟いたのかもわからない。


 そんな呟きに声を上げ反応する者が居た。しみはそちらに目をやる。彼女は声に対し不思議と驚きなどと言った感情は湧き出ず、落ち着いていた。声の主は背後にいたしかし人では無い。居たのは人の形をした黒い(もや)であった。


「お前が人を殺すのはお前の(さが)だ…過去の呪縛なんてものは存在しない」


 靄は話す。勿論、靄に顔といったものは無いがそう語り掛けてきた。しみは靄が喋った事に、不思議と驚かず、靄が話した内容に、何を言っていると威圧的に問う。すると相手は黒さを増した。そして再び彼女に話しかける。


「お前が虐待されたのは人殺しの本性を持った化け物だったからだ」


 喋る靄の存在に心動かされなかったしみでも、話の内容にはひどく困惑した。彼女は靄の言葉を否定する。自分が虐待を受けたのは母の都合であり、私自身に問題は無かったと。それを聞いた相手は無い口を釣り上げ笑う。その笑いはしみに対し、憐れみと軽蔑といったものが含まれていた。靄はしみの言葉を否定する。


「違う…産んだ子が化け物だったから…ふつうの人の子なら…毛嫌いしない」


「ちがうッ!!」


 声を荒げて否定するしみ。もしそれなら、しみに対する母の反応は正しいものであり、何も間違っていない事になるからだ。彼女の脳裏に自分が殺し、冷たい死体になった母親がよぎる。


「過去の呪縛なんてものは存在しない…幻想だ。寺や診療所にも行ったのだろう?…なんともない。人を殺すのはお前がしたいからする…過去の呪縛なんて有りもしないものを言い訳にして」


 しみは何度も、何度も違うと靄の言葉を否定した。… そこで夢から覚めた。


 夢から覚めたしみの目に映るのは靄でなく薄汚れた天井であり、彼女は布団の中にいた。そしてなんて夢を見たんだと酷く落ち込んだ。夢の内容もいつもなら、すぐに曖昧なモノになり記憶から消えるモノだが、彼女は今日みた夢の内容をはっきりと覚えていた。

 夢のせいか体から汗が噴き出しており、しみに不快感を与えていた。汗をぬぐうために起き上がり、箪笥から手ぬぐいを取り出し体をふく。彼女の勤め先が飲食店であるから身なりを清潔なものにしなければならない。


 体を拭き終わり、顔を洗おうと水瓶をのぞき込む。水が反射し、鏡の様に顔を映す。目元が赤くなっていた。しみは夢を見て泣いたのだ。彼女は涙の分けを不思議と思い、手で水をすくい顔を洗う。そして顔を拭き、外に出る為に着替える。寝巻にしていた白装束から、清潔な印象を与える薄い緑色の着物に着替えた。

 そしてしみは大切にしているエルカードを忘れず持ち、誰も居ない部屋に向かって行ってきますと言い、仕事に向う。


 外は晴れで爽やかな風が彼女の髪を撫でた。大通りに出ると多くの人が居た。声を上げ客寄せを行う男や、何かを話しながら歩く女性たちに、団子を口にする者。中には妖怪も居たが人と仲良さげに話していた。人里は活気に溢れていた。


 全くもって平和だった。つい最近起きた、『辻切事件』どこ吹く風だ。


 そんな普通に暮らす者たちを見て羨ましく思うしみ。そしていつか自分も過去の呪縛を消し去り、あんな風になると心の中で誓う。しかし、夢であった黒い靄の言葉が頭によぎる。お前は化け物だと、過去の呪縛なんて存在しないという言葉が。彼女は靄の言葉から逃げる様に走り、仕事場へ急いだ。


 満腹屋と書かれた店にしみは居た。彼女はこの店で働いていた。他に働いている者は老夫婦で、旦那が店長を務めている。店に来たが、店内は誰もいない。


 何時もなら仕込みの作業やらで、動いている店長たちがいるハズだが居ない。これはおかしい事だった。彼女は声をあげ、自分が来たことを伝えた。すると奥の部屋から店長の妻が現れた。しみは頭を下げ挨拶をし、何故店長が居ないのかを訪ねた。


 すると妻は旦那が腰痛で倒れてしまい、しばらくの間店を閉めると伝えた。そのことにしみはとても驚いた。妻も申し訳なさそうにしていた。しみは職無しになってしまったのだ。うなだれるしみに対し、何度も頭を下げる妻。それに対し彼女は何とかなりますと言い、妻を安心させた。


 しみは店を出て空を仰いだ。何とかなると言ったが彼女に行く当ては無い。勿論金もない。金が無いのはつい最近空き巣に入られたためである。その時間は店で働いていたため、どうしようもなかったのだ。

 金がなければ働くしかない。彼女は人里を当てもなく歩く。


「さてどうするか……うーん」


 しみには頼れる友人は居ない。そして、たいした学もない。彼女は自分の何も無さに少し呆れ、辺りに在る店を見る。


 目に留まったのは魔法雑貨店と書かれた店だった。この店は異世界からやって来た魔法使いが行っているものだ。しかし人を募集していると言った事を彼女は聞いていない。魔法使いに変な噂もあったりして、そもそもしみはここで働きたいとは思わなかった。彼女は落胆のため息をつく


 彼女の頭には人里に存在する賭場で働くといった考えが生まれていたが、すぐさま否定する。賭場は働く者を呼び込んでいるが、しみは賭場の陰気な空気が嫌だった。ならば客として赴き、賭け事に賭けるか、何て下らないことを考えた。彼女は今までの人生で自分に運がない事を知っていた。


 彼女は管理所に頼るかと考えたが、管理所は、しみみたいな者を相手にしない。それにしみが超能力者であることやエルカードを持っている事が解れば確実に厄介な事になる。再び落胆のため息を吐いた。


 当てもなく人里を歩く。そしてしみはあることを思い出した。それはしみを保護してくれた教師の存在だ。教師は今も教鞭をとっており人里に住んでいる。会えば何か助けてくれるかもしれない。そんな思いを彼女は持ち、教師がいる学校へと向かった。


 昼 しみは庭付きの少し大きな木造の一軒家に来ていた。立て看板には学校と書かれてあった。なければここが学校とは思えない大きさ。

 学校といっても小さな学習施設であり、低年齢の者しか来ていない。それは夢幻のまちで暮らす上での知識量はあまり必要ない事を表している。学校に通っていない子もおり、その子は、家の手伝いが忙しいか、行く必要が無いと考えている子である。

戸を叩きしみは、人を呼ぶ。


「すみません、すみません 雪梅(シュメイ)さんはいらっしゃいませんか?」


 呼び声にトトトと足音が聞こえ、戸は開けられた。現れたのは仙人の道士服を着た凛とした妙齢の女性、可愛らしいよりも、凛としかっこいいと思える人だった。しみの顔見て笑みを浮かべる女性。


「久しぶりだね、しみ」


「ええ、お久しぶりです。雪梅先生」


 雪梅と呼ばれたこの女性は人間世界からやって来た仙人である。夢幻のまちにやって来て勉学を教える理由は、学を知らないことは悲しい事だからと言う。

 当初はこの地を知り興味本位で来て、そして夢幻のまちには学を知る者が少ない事を知った。ゆえに、学校を作り、人々へ教えた。彼女の性格は情に深く、お人好しであり、善人であった。そのため、多くの人に慕われている。

 しみを保護した教師でもあり、しみが一人で暮らす際はひどく心配していた。


 彼女はしみを自室へ通す、部屋には道徳の本、言葉の本といった教育的な物から、子供が描いたと思われる似顔絵が揃えられていた。雪梅はお茶を持ってきて勧め、暖かな笑顔を向けて尋ねた。


「今日はどうしたんだ。何でも言ってみなさい」


 しみは一時的であるが仕事を失ったことを伝えた。すると雪梅は驚き考え込んだ。しみはお茶を飲み、考え込む彼女の言葉を待つ。

 しばらくして、雪梅はしみにある事を提案した。それはこの学校で働かないか、というものだった。それを聞いた彼女はしみは驚きお、茶が変なところに入り慌てた。

 そして雪梅に自分は人に教えられる程の学は無いと伝えた。雪梅は首を振り、物を運んだり外で遊ぶ時や遠足などで、子供がはぐれない様に見たりする役割。雑用の仕事を受けてくれないかと言った。

 それを聞いてしみはなるほどと頷き、それならば自分も出来るかもしれない。そう思い、雪梅の提案に彼女は乗ることにしたしみ。

 そして雪梅に対し、深々と頭を下げて、よろしくお願いしますと仕事を受けた。

 こうしてしみの新しい生活が始まった。


 次の日の朝、しみは学校もとい雪梅の所へ来ていた。それを雪梅に早く来過ぎだと笑われ、しみは自分がいかに緊張しているのか分かった。しばらく経つと、外から子供たちの声が聞こえた。彼女たちは外に出て、子供たちを迎え入れた。子供たちは元気よく雪梅に挨拶し、彼女も元気よく返す。それを見てしみも自分もやってみようと思い、声を出して挨拶する。


「……おはよーございます」


 雪梅に比べたら声は小さかったが子供たちは気がつき、しみに近づく。そして口々にしみについて尋ねる。尋ねられた彼女は少しの間この学校でお世話になる者ですと自己紹介をすると、子供たちに学校に新しく勉強しに来た人と勘違いされてしまった。


「……違うよー馬鹿だけど、ちがうよー」


 そう否定するが、しみはこの子たちと同じ、もしくはそれ以下の学しかないと思い少しがっくり来ていた。雪梅が子供たちにそろそろ授業始めると言うと子供たちは急いで教室に向かい、去っていった。


「勉強か……」


 教室に向かう子供たちを見てしみは雪梅先生に預けられた時の事を思い出す。雪梅はしみに文字の読み方、書き方、数の数え方、など色々と教えた。しみは馬鹿なので全部理解できたわけではないが、教えは今の生活の支えになっており、雪梅に大変感謝していた。しみがそんな事を思っていると目の前に、夢で見た黒い靄が現れる。どうゆうわけか、それは自分の幻覚だと彼女は理解できた。靄は話す。


「お前を育てたのに…哀れだ…かわいそうだ…雪梅先生が育てた子は殺人鬼」


 それだけ言って消えた。


――――――――


 昼休み、食事を終えたしみたちは子供たちを連れ、人里の外にある小さな丘に来ていた。丘には草花が咲いており、爽やかな風が辺りに吹いていた。子供たちは鬼ごっこなどして遊んでいる。雪梅は外で遊ぶのも大切な事としみに話した。途中で子供たちの鬼ごっこにしみ達も参加することになった。


  しみは子供たちを見て少し羨ましくなった。何故自分はああでなかったのか、なぜ表情が豊かでないのかと。彼女はあまり表情に出さない子と言われる。しかしそれは幼い頃、母の機嫌を伺い生きてきたからだ。過去の事を思い、手を握りしめるしみ。


 時間がたち、子供たちは教室に戻り勉強に向かう。内容は国語だ。しかし教える者は雪梅で無く、ましてや人でも無い。人の形はし、雪梅と同じ道士服を着ていたが、頭に狐の耳、尻に尻尾が生えていた。教えていたのは妖怪、妖狐である。


 狐に化かされているのかと思い、急いで雪梅もとへ行くしみ。


 雪梅は物が溢れる資料室に居た。明日の授業に使うものを探していたのだ。しみは雪梅に妖狐がいることを伝える。すると彼女は笑って、


「あの妖狐はいおりといって、学を広めようとする者でここの教師でもある大丈夫だ」


「妖怪が人に学を教えるのは不安ではないですか?」


「彼女は善人だ。それに仙人に近い感性を持っている。人を食ったりしないよ」


「しかしですねぇ……」


「なんだ不安か?」


「はい……」


「なら、いおりと話をしてきたらどうだ。そしたら不安も消えるぞ」


「なら、そうします」


 しみはそう告げ、その場を離れた。


―――夕暮れ時。

 子供たちは家に帰っていく。しみはいおりに時間は空いていますかと尋ねた。すると空いてると返されたので、話すことにした。


 いおりの髪は光に当たり輝いて見えた。二人は庭にあるベンチに腰を掛ける。しみはいおりに短刀直に

 尋ねた。

「彼女に、なぜ人間に勉学を教えるのですか?」


「人と妖怪にある溝を無くしたいからですね」

 いおりは顔を赤くし答えた。その言葉にしみは首を傾げた。

「今の世の中妖怪と人間は仲が良いではありませんか。溝何てものはありませんよ」


「今はありませんが、今後生じないとも限りません。私は子供に接し、妖怪にも良い妖怪がいる事を教えたいのです。そして、勉学を通じて争いや差別を無くしていけたら良いとも考えています」


 いおりの話を聞いた彼女は、かなりのショックを受ける。なぜならばしみは、そんなことを考えた事は無く、いつも自分の事ばかり考え生きてきたからだ。


 そんないおりと自分を比較し、自分の身勝手さを恥じた。しみはいおりを立派な考えをお持ちですねと賛美した。すると彼女は顔をより赤らめ、手を振って否定する。夢や理想を話すのはとても恥ずかしかったのだ。

 話をしてくれた、いおりに礼を言い、その場を後にしたしみ。そして雪梅に残りの仕事はあるかと尋ねると、今日の仕事はもう無いと言われ、彼女は帰ることにした。


 夕暮れの帰り道、しみは一人歩く。その隣に黒い靄が現れ、囁く。


「妖怪だって誰かの事を思い、行動するのにお前は……自分の都合で人を殺す」


 靄の囁きに、雪梅たちの様に変わると、しみは言い返そうとするが、靄は言葉を遮り話す。


「無理だ…お前は変われない」


「変われる普通の人になれる。私は思うこのまま生きていけばいつかきっと……」


「変われるチャンスはあったさ……もう無い」


「チャンスだと!?私にはそんなもの何て無かった!!」


 靄の言葉に彼女は思わず大声で否定する。それを見てあきれた声で話しかける靄。


「雪梅先生の所で暮らしていた時に変われたさ……普通ならな」


 「それは過去の怒りがあって!」


「そんなもの、忘れて暮らせばよかったのさ……」


 靄は言いたいことだけ言い、消えた。しみにはあの靄が何なのか分からない。彼女は頭を抱えた。幻聴と幻痛が襲ってきたのだ。うめき声を抑えながら彼女は歩く。


ギ … ギ …


――――しみはひどい頭痛と幻聴に襲われたため、人を殺して治めた。


 そして体の疲れと明日の事を思い、早めに寝た。


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