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夢幻のまち 塵箱世界  作者: つかさ
第一部 了、編
22/48

第十七話 私の道

 夢幻のまちは現在、嵐による水害の被害に遭っていた。雨はバケツをひっくり返したかの勢いで降り注ぎ、川は氾濫、暴風は屋根を引きはがそうとするほどである。この嵐で人間と妖怪に多くの死傷者を出した。


 嵐は未だ収まりそうもない。


 そんな中、了と菫はアサキシが潜伏しているとされる場所に向かっていた。この嵐がアサキシによるものと考えたからだ。なぜなら大変な今、管理所に彼女が居ないのはおかしいと考えて向かう事にしたのだ。

 嵐がアサキシによるものならば、行ってアサキシと嵐を止め、これ以上の犠牲者が出るのを阻止する。

 二人はやがて、人里から妖怪の里へ通ずる道にある田畑にたどり着いた。


「菫!あれを見ろ!」


「……あれはアサキシとあとじ!」


 田畑にアサキシとあとじが二人が来る事を知っていたかのように佇んでいた。二人はアサキシ達の近くに行くと、風と雨が穏やかになった。これはアサキシが作り出した結界によるもの。

 了達はアサキシ達を見据える。アサキシは了達を睨み、話しかける。


「ふんッやはり来ると思っていたよ。了に菫」


「そうかい、……死ぬ覚悟はできてるかッ!」


 菫は怒りを含んだ声で言い返す。了達は知らないがアサキシが嵐を止めてないと言う事は、まだ命の数が足らないということだ。今ここでアサキシを倒せば、嵐は止み復活は無い。アサキシはこれ以上の妨害は要らぬと考え、迎え撃つ事にしたのだ。彼女は菫をバカにするように言葉を発する。


「死ぬ覚悟などしてはいない。だがお前達を殺す覚悟なら出来ている。もうお前達は要らない」


「そうかよ!」


「……アサキシ罪を償う気持ちは本当に無いのか?」


 了の問いかけはアサキシに人間性が、善良な心が残っている事を願って出たものだ。問いかけにアサキシはため息を吐く。


「罪?親を思い行動する事がか?」


「……わかった。もういい」


 了はその返答にアサキシを殺す覚悟を決めた。悲しみで涙が零れたが、雨のお陰で周りには伝わらなかった。だけどそれで良かったのかもしれない。

 アサキシがそれに気づき、涙に付け込んで良からぬ事を言い出すかも知れないし、了に罵声を浴びせたかもしれないからだ。


「ふん!もういいか、ならば……」


 アサキシが言葉を発したその時、4人の周りに雷が走った。4人は不可思議な雷に目をやる。雷が煙を起こし、煙から現れたのは葉月であった。突如現れた葉月に了と菫は驚いた。今までどこに居るか分からなかったからだ。


「今までどこに!?」


「私が幼い頃に住んでいた場所に居た………」


 了の問いにうつむき答える葉月。彼女の声は沈んでいた。


「そして、ずっと考えてた。何が良いのか、正しいのか……」


 うつむき話す葉月にアサキシは横槍を入れる。


「それは私を手伝い、家族のために尽くす事だ」


「それは違う」


「何ぃ~~!?」


 葉月の言葉に不快感をあらわにするアサキシ。


「私は考えた。考えて考えて、分かった。……私の家族は死んだ。……もう過去だ。今ある命を犠牲にしてはならないと」


 葉月は顔を上げアサキシを見つめ言い切った。アサキシは彼女の言葉に苛立つ。


「つまり、何が言いたい?」


「お前の下にはつかない。今ここでお前達を倒す」


 アサキシ達に向かって刀を抜き構える葉月。そんな葉月にアサキシは問いかける。


「葉月、私に歯向かうと言う事は、家族を蘇らせる事を諦めたことになるぞ」


「もう………いいんだ」


「ふんッ哀れだな葉月の家族は。妖怪に殺され娘に見捨てられてな。いいのかこれからの人生、何も取り戻せなかった道を歩むことになるぞ」


 (その通りだ…父さん、母さん親不孝な子でごめんなさい。罪は背負います。だけども)

 アサキシの問いに思考する葉月。そして答えた。


「それが私の道だ、私の人生だ」


「間抜けがッ!」


 アサキシは怒り声を上げる。やりとりを見ていた了と菫に頼み込む葉月。


「了に菫、お前達にとんでもない迷惑をかけた。本当にすまなかった…許せないだろうが、今は一緒に戦ってくれ…」


 そう言い了達に頭を下げた。了は頭を上げさせた。


「別に気にしちゃいないさ。」


「許して欲しいなら許してやるよ。だが全力で戦えよな」


 了と菫は葉月に答え、アサキシたちに向かい戦闘態勢をとる。それを見てアサキシは呆れ頭をかき、あとじは馬鹿にするように笑う。


「やれやれ、疲れますねえ、そういうの」


「ああまったく、飼い犬に手を噛まれるとはこういう事か……あとじ、了は任せた」


「良いですよ、そっちは二人ですよ?大丈夫ですか?」


「ああ問題ない」


「そうですか。ではッ了!貴方と私が戦いましょう!どちらかが倒れゆくまで!」


「いいだろう!!葉月、菫、任せたぞ。あとこれッ」


 了は葉月たちにエルカードを渡した。<ハート>葉月に、<フェイク>を菫に。


「勝って生きろよ!」


 二人に叫び、あとじと共にこの場から消えた。そのやり取りを見てアサキシは馬鹿にする様に笑う。


「熱い友情ごっこだな」


「ごっこじゃ無いかもよ」


 アサキシの言葉を否定する菫。その言葉にアサキシは不快そうにした。


「そうかい、だが今に無意味なことになる」


 アサキシが菫たちを睨み叫ぶ。


「装着ッ!」


 アサキシが光に包まれ、現れたのは黒の装甲に頭のヘルメットには血の様に赤いドクロマークが描かれた、パワードスーツを着たアサキシだ。手にはドリルソードを持っていた。


 戦闘態勢を取ッたアサキシに対し、武装する葉月と菫。


「装着!」


「エルカード発動!」

<アサルト>


 二人は装備が整い、アサキシに向かい駆ける。アサキシはドリルを構え迎え撃つ。葉月の刀が眼にも止まらぬ速さでアサキシの首を狙う。


「無駄だ!」

〔エルカード発動<アクセル>〕


 アサキシのスーツの音声が鳴った。その瞬間アサキシの動きが葉月の刀のスピードを上回った。そして斬撃を回避し、葉月にドリルのカウンターを喰らわせる。


「ガハッ!」

 ドリルは鎧を抉りだし火花を散らす。

 葉月は<アサルト>の力で纏っていた鎧のお陰で死は免れたが、ふっ飛ばされる。

 アサキシが使用しているスーツにはエルカードが複数組み込まれており、自動的に発動する。それがこのスーツの力。 またスーツの性能も他の物よりも優れていた。アサキシは肉体を改造しておりエルカードの同時使用の負荷に耐えられ、通常の人間以上の生命力を持っていた。

 葉月にカウンターを与え、すぐさま次の菫の攻撃を迎え撃つアサキシ。


<リミットオーバー>


 菫はエルカードを使いスーツの性能を上げた。これによりスーツの機能制限が2回から無制限に。しかし肉体の負担も跳ね上がる。だが彼女は構わず攻撃を仕掛けた


「マキシマム・パンチッ!」

〔マキシマム〕


 菫の拳は赤く輝き、アサキシを襲う。直撃すればスーツを着ているといえど大怪我は免れない。だがアサキシは回避行動をとらず、菫の拳を自身の拳で迎え撃った。


「フン!!!」

〔エルカード発動<フリーズ>〕 


 ガキィイイイイン!


 拳同士がぶつかり合い、辺りに金属音を響かせ、菫は驚愕した。


「ば、馬鹿な!?」


「どうしたァ!?間抜けな菫!」


 菫のスーツの力は赤く光輝く箇所を当て爆発を起こすものだ。しかし起きなかったのだ。彼女はアサキシが使用したエルカードの仕業だと理解し恐怖した。


「エルカードか!?」


「そうだ、<フリーズ>の力は相手の力を一時的に停止させる力だ。よって!」


 攻撃が防がれたことで隙が生まれ菫、アサキシは隙を見逃さずすぐさま攻撃を加える。


「無駄となった!!」


〔エルカード発動<エコー>〕 <エコー>、響かせる力を得る。


 アサキシは菫に連撃を喰らわす。ドリルは菫の装甲を砕き、エルカード<エコー>はスーツが吸収するはずの衝撃を肉体に伝えた。


「グアギャアアアア」


 叫び声を上げ吹っ飛ぶ菫。アサキシは地に倒れた二人を見て呆れた。


「お前たちの力は全て私には届かん。しょせんそんなものだ」


 二人はアサキシの言葉を否定するかの様に立ち上がり、戦う意思を向ける。

 雨は未だ止まず ……


――― 


 了とあとじは夢幻のまちに酷似した別世界に居た。夢幻のまちに似てはいるが生命は無い。この世界はあとじがエルカードを使い作り出した偽の世界だからだ。

 二人は互いを見据える。了に笑いながら話しかけるあとじ。


「貴方おかしいですよ」


「何?」


「私は力を与える者としての役割を果たしています。なのに貴方は役目を果たさず、<エンド>用いずに戦い、あまつさえ、自己の存在、終わりを与える者としての自分を嫌っている」


「ああ、そうだな……」


 あとじの言葉に頷き肯定する了。その対応を見て目を丸くするあとじ。


「へえてっきり否定するかと……」


「だか、今ここで役目を果たすぜ。夢幻のまちを救うために!!」


 了は手をかざす、手に透明なエルカードが現れた。あとじはそれを見ると笑みを消し、自身もエルカードを出現させた。


「ここで終わりだッ!あとじ!!」


「終わるのは貴方です了!!私は勝ち、夢幻のまちに力を与えます、混乱と共にねッ!」


 両者、エルカードを発動させた。


<エンド>

<インフィニティ>


 淡い光が現れ、了に纏わりつく、あとじの背後に光輝く巨大な銀河の様な渦が現れる。

 了は剣に光をまとわりつかせ、天地を切り裂くと思える斬撃を放つ。あとじはそれを迎撃するため、背後から力の塊とも言える、無数の光弾を発射。

 互いの攻撃はぶつかり合い、空間に亀裂を与え霧散した。


 了は舌打ちし剣を構えて、あとじに向かう。あとじも剣を出現させ、手に取る。


「ゼアアアアアアアアアアアアアア!」


「ハアアアアアアアアアアアアアア!」


 両者叫び、剣で互いの肉体を斬りつけ様とする。


<サンダー>

<フレイム>

<グラビィティ>


 あとじは様々なエルカードを使用し、自らを強化していく。それに対し、了は<エンド>のカードだけを使用した。あとじが使用したカードは、了の<エンド>の力によって無力になっていく。されど、あとじは構いなしと無数のカードを発動して対抗。了とあとじは互いに手を緩めず斬りあい続ける。

やがて、互いの剣が砕けた。


 二人は残った拳で殴りあう。殴り合いの衝撃で空間は破壊され、世界そのものが崩壊していく。了の光はあとじの攻撃により減光していく。あとじの渦は了の攻撃により崩れていく。それでもやめない。二人の攻防無限に続くさえ思えた。しかしどんなものにも終わりは来る。


「これで終わりです!」


 あとじは後ろに下がり、手を天に掲げる。ひび割れた空に夢幻のまちが映し出された。


「この夢幻のまちは破壊し、新しく始めます!!!貴方抜きの世界をね!!!」


「なんだとッ!?」


 あとじが手を握ろうとすると、映し出された夢幻のまちの姿が歪んでいく。


「アハハハハッハハハハッハハハ」


 狂気の笑い声を上げ、了に叫ぶ。


「戦い意味も無くなります!これで終わりです!」


「それはどうかな?」


「何!?」


 了は拳に持てる全ての力、自身の存在さえ力へ変え与え、あとじにぶつけた。それを受けあとじは苦悶の表情になり、叫ぶ。


「そこまでして守りたいかッ塵箱の世界を!」


「塵なんかじゃない!」


 了も叫び、体を貫いた。あとじの手は天から地に垂れ下がり、夢幻のまちは守られた。あとじは笑う。


「私から世界を守れても…貴方は終わりを与える者に戻ります…残念でしたね。結局のところ夢幻のまちは終わりを与える者に滅ぼされるでしょう」


 その言葉に首を振り、否定する了。不思議な顔をするあとじ。


「何をおっしゃって……」


「私は全ての存在に終わりを与える者……私は私という存在を終わらせる」


「!それでは私に勝った意味がありませんねぇ」


 了はあとじの言葉を吹き飛ばすかの様に笑う。


「私は生きた。了として……だから意味はあるのさ」


「……」


 作られた偽の世界は崩れ、無数の光となって消えた。


―――


 夢幻のまち


〔マキシマム〕

「マキシマム・パンチィイ!」


 菫は叫び、アサキシに飛びかかる。それを彼女は紙一重で避けドリルでカウンターを喰らわす。


「ゴブバァ!」


 ドリルが装甲を貫き、回転刃は腹を抉り菫の肉体を傷つけた。しかし、


「何!?」


 彼女はドリルを掴み、相手に組み付こうとする。アサキシはすぐさま引きはがそうとしたがドリルが掴まれ動かせない。


「チィ!」

〔エルカード発動<エコー>〕


 アサキシはドリルから手を放し菫の頭を殴る。アサキシによってヘルメットは砕かれ菫の顔が露わに。 何とか菫はアサキシが武器を使用できない様に、すぐさま遠くへ投げ捨てた。がしかし受けた攻撃により地に膝をつく。そんな彼女にアサキシが追撃を与えようとするが、


「セイヤーーーーーー!」


 葉月がアサキシの胴を斬り防いだ。スーツは斬られ、アサキシに痛みを与えた。


「クソッタレ共がアあああああ」

〔エルカード発動<アクセル>〕


 アサキシはスピードを得て、葉月の刀を掴み砕こうとする。


<ハート> 精神力を力に変える


 だが彼女はエルカードを発動し、刀と自身をより強化。二枚同時発動していることで常人の葉月への負担は重いが、アサキシを倒す思いが上回った。

 掴まれた刀を強引に引き寄せ、手に深手を与える。アサキシは自身の負傷に目を見開いたが、すぐさま追撃に思考を巡らせ、相手の首をへし折ろうと手刀を繰り出す。

 葉月は余りにも早い攻撃に死を覚悟したが、しかし手刀はすんでの所で停止。


「菫ッ!」


 アサキシの怒声が響く。菫が背後から組み付き、防いでいた。


「この距離ならッ!マキシマム!」

〔マキシマム〕


「無駄だッーー」

〔エルカード発動<フリーズ>〕


 頭をたたき割ろうとする菫の拳が光り輝く。しかしエルカードにより光は消えた。だが菫は拳をアサキシの頭へと落とす。


 ガンッガンッガンッ!

 雨音に鈍い金属音が混ざり何度も響く。何度も殴られたためアサキシのヘルメットにはヒビが走った。アサキシはこれ以上の損傷は危険と判断し背後にいる菫の顔を殴りかかる。


「ギャアアアッ!!」


 菫は何とか避け、死にはしなかったが拳が頬にかすり頬の肉が破け血が湧き出た。しかし痛みで叫んでしまう。アサキシは菫の痛みの叫び声を隙と判断し、菫を葉月の方へ投げ飛ばす。葉月はアサキシに攻撃しようとしたが、投げ飛ばされた彼女を受け止めるために中止せざるおえなかった。


「大丈夫か!?」


「生きてる!」


 声をかけあい葉月は菫を受け止めアサキシから距離をとる。距離を取る際アサキシの追撃が来るのではないかと恐れていたが不思議と追撃は来ない、二人はアサキシを見る。アサキシは鬼の様な形相でこちらを睨んでいた。そして怒声を発した。


「屑どもが!!貴様らは私の親の復活を阻む屑!!いやそれ以下だ!!さっさと死ね!!!」


 管理所で働いてる時のアサキシを知っている者が、今この場に居たら恐怖しただろう。それほどまでに普段の彼女から豹変していた。追撃を行わなかったのは怒りで冷静な判断が出来なかったためである。


「これで命を絶ってやるゥ……」


〔エルカード発動<テンペスト><アクセル>〕


 アサキシの拳に暴風が吹き荒れる。そして葉月達に向け放った。暴風は大地を抉り、木々を根こそぎ引っこ抜き、全て破壊した。


―――二人を除いて。


「……なぜだ……なぜ避けれた!」


 攻撃を避けられた彼女は叫ぶ、自身の攻撃に絶対の自信を持っていたからだ。問われた二人もなぜ自分たちが生きているか分からない。そんな疑問に答えるかの様にある者の声が聞こえた。三人は声がした方へ顔を向ける。


「私が助けた…<エンド>のカードを使ってな」


「了……しくじったのか!あとじ!?」


 声の(ぬし)は了であった。了の無事を見て、顔を歪ませ叫ぶアサキシ。


「生きてたのか!了」


「勝ったの!?了」


 葉月と菫は口々に了に言う。それに対し、笑いそうだ、と肯定する了。


「葉月に菫、もう<エンド>は使えん。お前たちを助けて無くなった」


 了は二人に対しそう伝える。了の言葉を聞きアサキシは大声で笑う。


「お前は二人を助けるために<エンド>の力を使い、失ったとは、アッハハハ!……了!お前は間違った!!」


「いや、そうでもないぜ。私には今まで使ってきたカードがある。それに菫や葉月もいる。まだ戦える」


 そう言いながら二人を見る。二人も戦闘意思を見せた。了はそれを見て笑みを浮かべて、エルカードを四枚同時発動した。


<オーガ><グリフォン><ドラゴン><アイアン>


 了に翼、角、ガントレットが現れ、肉体は鋼鉄に変化した。


「行くぞアサキシィィ!」


「愚図共がアアアアア」


 四人は駆けた。葉月の刃がアサキシの首を狙う。


「はああ!!!」


〔エルカード発動<アクセル>〕


 アサキシは速度を上げ、刃をしゃがみ避ける。しかし、葉月は自身の攻撃が避けられることを読んでいた。長刀での攻撃を囮にし、短刀での攻撃を狙っていたのだ。


「喰らえやッー!!」


 短刀をアサキシのヘルメットのヒビを狙い差し込む。ヘルメットから大量の血が湧き出る。


「グギャ嗚呼ああああ」


 余りの痛みに叫び声を上げた。人間ならば即死だが、アサキシは肉体改造を施しているため、死には至らず、重症止まりだ。


 アサキシは葉月を殺すため拳を放つ。拳は葉月の頭部に向かう。当たれば頭は砕かれ葉月は即死。


<フェイク>

〔マキシマム〕

「マキシマム・ダブルキックウウウウウ!」


 しかし菫の攻撃がそれを許さなかった。分身と共にアサキシに飛び蹴りを喰らわせた。


「グオオオオッ!!」

〔エルカード発動<フリーズ>〕


 爆発は抑えたものの、飛び蹴りにより大きくふっ飛ばされるアサキシ。何度も地面に叩き付けられ、地に伏した。


 (ありえない…なぜだ…私の行いは正しいはずだ!)


 彼女は立ち上がり、向かってくる了を睨み、叫ぶ。


「エルカードよ!全ての力を!」


〔エルカード発動<テンペスト><アクセル><エコ->〕


 暴風がアサキシの拳に纏わり、大地を揺るがす。


「ウオオオオオオオ!」


 アサキシは叫び走り、拳を放つ。了も爆風を引き連れて拳を放つ。辺りに風が吹きすさんだ。菫は分身を盾にし、自分と葉月を守った。


 拳と拳がぶつかり合う。アサキシが了に問う。


「私がしていることは正しい!!親を思うことはッ!!」


「ああ、アサキシの親への思いは正しい。だがそれを理由に誰かを殺めたり、傷つけてはならない!!」


「クソッタレ共がアアアアアアアアアアアア」


 了の言葉にアサキシは吼え、アサキシの拳は砕けた ……


「これだ終わりだ、アサキシ!」


 了の拳がスーツを破壊し、吹き飛ばした。何度も地面に強く叩き付けられ、再び地に倒れた。スーツの装着は解かれ、アサキシが露わになる


「……父さん、母さん」


 アサキシは空に手を伸ばし、そして下ろし絶命した。了はアサキシに近づき目を閉じアサキシの安らかな眠りを祈った。


「終わったのか」


 菫と葉月が了に近寄る。


「ああ、終わった……さようなら、アサキシ。そして菫に葉月」


 その言葉に二人は驚く。


「何言ってんだ!?」


「おいどういうことだ」


「私は私自身に<エンド>を使った。もう存在を維持できない」


 了の体は光を放ち、少しずつ消えてゆく。動揺する二人。


「そんな…」


「おい!どうにかならんのか」


 菫の言葉に首を振り否定する了。


「私は消える……」


「了!!」


「何だ葉月」


「私はお前に迷惑ばかりかけた……」


「ああ、そんなこと、気にするな葉月……元気でな、妖怪とも仲良くしろよ」


「うん……」


 葉月の目から涙が零れた。菫も長い付き合いがあり複雑な表情だ。


「何だ菫、お前らしくないな」


「うっせーよ馬鹿…了、お前といて楽しかったぜ」


「そうか、ありがとうよ………私は生まれてきてよかったな」


 了は二人に満面の笑顔を浮かべ告げた。


「さようなら、元気でね」


 了は光となって消えた。

 嵐は止み、雲の隙間から光が差し込んだ。


―――


 嵐は止み、水害も収まった夢幻のまち。

 人里と妖怪の里は嵐により大きく傷ついたが、人妖互いに協力し復興へ歩んでいた。アサキシを待つ者は多くいたが時間が経つにつれ嵐によって死んだものとされた。管理所はアサキシが居なくなったことで多少、力を落とした。


 新たに所長に就任したのは副所長の推薦もあってか菫になった。推薦理由はアサキシに頼りにされていたと副所長の目に映ったとのこと。この推薦理由を聞き苦笑いを浮かべた菫。


 アサキシが住んでいた屋敷は解体され、資材として復興に充てられ、金品は競売にかけられ、お金は被害を受けた者への補助金となった。


 葉月は戦いの後、妖怪に対しての怒りは薄れ、妖怪の里の復興の手助けを率先して(おこな)った。

 そして夢幻のまちが復興し、落ち着いたある日。彼女は小さな丘にある小さな家の跡地、了が住んでいた場所に来ていた。家は嵐により跡形も無くなっていた。その場にしばし佇む葉月。


 (…ありがとう…)


 花を添え何度も感謝し、こう思った

 もしかしたら、いつの日か了に会えるかも知れない。

 確証はないが何処かそう思えた。


 再び会えるその時まで世界を守ってみせよう、了みたいに。


 葉月は人里にある、自分の家へと向かう。

 太陽の暖かな光が葉月の道を照らした。


了、編 完

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