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夢幻のまち 塵箱世界  作者: つかさ
第一部 了、編
20/48

第十五話 家族のためなら

抜けている文章があったため追加訂正しました

 太陽が昇る早朝の人里、ある家の女が赤子を抱いていた。

しかし赤子は息をしておらず死んでいた。なぜ死んだのかは無学な女には分からない。女の生い立ちは酷く親しい者もおらず今まで大した幸せもなく生きていた。しかし赤子を授かり、未来への希望が芽生え、これからの人生を母となりわが子に捧げようと考えた。


 しかし赤子は死んでいた。


 女は全ての希望を失い、何もしてやれなかった自分と自分の人生に絶望し命を絶とうと考えつき。赤子の死体を布団の上に寝かせ、刃物を持ち自らの首に突き立てようとした。


「もう終わり……何もかも」


 女が命を絶とうとしたその時、奇妙な音声が流れた。


<インフィニティ> 無限を司る

<タイム> 時間を司る


 音声と共に、女の目前に白い髪に黒いジャケットを着た少女が、音もなく現れた。女は驚き声を上げ、手に持つ刃物を落とす。少女は女の驚きを見て愉快そうに笑う。そして女が誰!?と問う前に口を開く少女。


「私の名は、あとじ。貴方の赤ちゃんを蘇らせてあげにきましたぁ」


「え………」


 あとじの言葉に女は驚愕した。そのようなことができるのは神の御業だからだ。不可思議な力が存在する夢幻のまちにおいても、有りえない事だと思われている。話を続けるあとじ。


「これを使えばいいですよー」


 そう言い、何もない手のひらから1枚のエルカード出すあとじ。カードには<スピリット>と書かれている。そしてそれを女に手渡す。女は困惑しながらも受け取りあとじに尋ねる。


「貴方は一体?……いえこれで本当に蘇るの」


「ええ蘇りますよまあ今回は特別です。魂の器になる肉体もありましたしね」


 話に耳を傾けながら、女は渡されたカードを見る。全てが元に戻り、希望が蘇る。彼女はわらにもすがる思いで、赤子の死体に向かってカードをかざし発動した。


<スピリット>魂を司る。


 音声が鳴ると赤子の体の上に光る球体魂が現れ、体の中に入っていく。すると赤子は息を吹き返し蘇った。女は喜び嬉しさで涙を流し、あとじに向かい何度も何度も心からの感謝を述べた。


「ありがとうございます。なんとお礼をすればいいのか、この事は決して忘れません」


「そうですかあ、でもまだ終わっていませんよ」


 あとじは女の言葉を聞き流し話を続け様とする。彼女はあとじの言葉に首を傾げた。


「蘇らしましたが試練と呼べるものが一つありましてねえ。それを乗り越えてもらいたいのです。といってもゲームみたいなものですよ」


「それは一体……」


「明日の夕方にある者が貴方の赤ちゃんの命を奪いに行きます。それから守ってくださいそれを乗り越えれば赤ちゃんは生きながらえるでしょう。何一日頑張ればいいことです」


 それを聞いて幸福から絶望へ突き落された女。あとじに分けを尋ねる。


「そ、それはなぜです?……」


「うふふそれは秘密です。この試練を乗り越えなければその赤ちゃんは今日で死にますねえ」


「!そんな……」


「まあ死者蘇生は難しいんですよ。で、試練を乗りこえますか自分の子を守るために」


 あとじの言葉に赤子の顔を見る。今まで大した幸福はなかったけどこのチャンスを逃したらずっと後悔し続けるだろう。女はそう思い、我が子を守るため覚悟を決めた。


「……乗り越えます。その試練乗り越えますこの子のために」


 あとじに覚悟を伝えながら赤子をなでる。赤子は笑う。そしてあとじも女の回答に笑みを浮かべた。


「では具体的な試練の内容を説明しますね。隠れる場所は暗闇の森の中です。あと管理所に頼ってはなりませんし、この事も内緒です」


 あとじは口に指を当てる。説明に困惑する女。


「暗闇の森に隠れるのは何故です?それに管理所に頼ってはならないのは?…」


「えー暗闇の森に隠れるのは都合いいからですねえ。死体が出ても妖怪や動物たちが食べてくれます。それに人目にもあまりつかない。管理所に頼ってはならないのは、まあこの事に関わっているからですねえ」


「……そうですか」


 (管理所は頼りにしてはならないか……)


 彼女は管理所に頼ろうとしていた。しかしあとじの言葉に不可とされてしまい、当てを無くしてしまう。


「ああそれと、この事は出来るだけ他言無用で……」


「わかりました」


「では明日頑張ってください。そして未来を手に入れてください」


 あとじはそれを言うと一瞬の内に消えてしまった。家には女と赤子の二人になった。女は明日乗り越えられると自分を勇気づけ、我が子の未来を手に入れようと考える。だが今は赤子が生きている現実を喜んだ。


―――


 次の日の夕方、葉月はアサキシに呼ばれて管理所に来ていた。沈んだ顔で所長室に入る葉月。部屋には頭を抱えるアサキシに顔のあとじが居た。部屋に入ってきた葉月に話を始めるアサキシ。


「きたか葉月では話を始めよう。お前には暗闇の森にいる人間の赤子を殺してもらいたい」


「なぜそんなことを!?」


 アサキシの殺人の依頼に驚き恐怖する葉月。話の内容に驚く葉月とは対照的に、アサキシは冷静で、あとじはただ笑みを浮かべていた。驚き困惑する葉月にアサキシは落ち着くよう促す。


「驚くな。あとじはその親に死者を蘇らせるカードを与え、死んだ赤子を甦らした」


「!?」


 アサキシはあとじがそんなカード誰かに渡したことにため息を吐き、葉月は死者が蘇ったことに驚く。そんな二人を見て笑っているあとじ。彼女は誰かが困り、もがく姿を見られればそれで良かった。


「あとじが言うには赤子の命を奪わなければ、そのカードが手に入らないそうだ。私は何としてもそのカードが欲しい、奪いに行ってこい」


「嫌だッ!!」


 声を荒げ、否定する葉月。その態度に怒りの表情を見せるアサキシ。そして声を少し荒げながら葉月に言い返した。


「嫌だ…だあ?お前は親を甦らしたくないのか」


「それでも……赤子を殺すなんて……」


 殺人に動揺する葉月の態度にアサキシはイラつきながらも話を進める。


「人殺しは阿藤でやっただろ。やれ」


「………それは」


「何を迷っている。元々は死んでいた赤子だ。もう一度死なすだけだ。今ここでやらなければお前の親は蘇らんぞ」


「………時間が欲しい」


 殺人と親の蘇生を天秤にかけ、揺れ動く葉月は時間をくれと懇願する、だがアサキシは今ここでの返答を求めた。


「駄目だ。今すぐ行ってこい。あとじが言うには今日殺さなければならないそうだ」


 アサキシはあとじを見る。あとじは愉快に笑っている。それを見てまた、彼女はため息を吐き、あとじが初めから協力的であったならなと心の中で愚痴る。そんなアサキシに答えを求められて震え声で尋ねる葉月。


「……私以外に」


「私はお前が信頼できる人間か試しているんだ。お前ひとりで殺すんだ」


「……」


「今ここで全てを取り戻すか。それとも捨てるかだ」


「……」


「取りこぼした命が救えるのだぞ」


 その言葉で葉月の頭に死んだ家族の影がちらつく。そして、

「……分かった」


 アサキシの頼みを引き受けた。葉月の答えに目を細めるアサキシに、この後の出来事を楽しみにするあとじ。

「分かればそれでいい。この事は話すなよ」


 アサキシは葉月に釘を刺した。葉月は話を聞き終えると、幽霊の様な足取りで部屋を出た。部屋には二人だけになり、あとじがアサキシに尋ねる。


「貴方が直接始末すればいいのに」


「ばか、赤子殺し何て下品な行いだ。葉月みたいな奴にさせればいいのさ」


「でも、もし」


「まあ、一応私も隠れて様子をうかがうがな」

 アサキシは机の大きな引き出しから、武器を取り出す。それを見てあとじは

「ふーんそうですか。私は楽しければそれでいいですけど」

と呟いた。

―――



 葉月は暗闇の森へと向かい歩く。


 (私は屑だ……屑だ……臆病者だ……)


 心の中で何度も何度も自己嫌悪を繰り返す葉月。しかし歩みは止めない。


 (どうしてこうなったんだろう。私は家に帰ろうとして……)


 あの日の事を彼女は思い返す。寒空の下、家に帰ろうとしたあの日、妖怪に家族が殺された日を。何度も何度も自己嫌悪を繰り返しているとやがて森にたどり着き、赤子を殺すため中へと足を進めた。


―――


 時は少し遡り、了と菫の二人は暗闇の森の中に居た。それは昼頃二人のもとにあとじが現れ今回の事を、一方的に伝えて消えたからだ。真偽はともかく二人は昼頃から暗闇の森へと赴き、狙われて居る親子を守ろうと駆けまわっていた。

 そして何とか親子を発見し、了と菫は自分たちが守りに来たものだと伝えた。女は疑ったが二人はあとじの事を話す相手は納得し守ってくれる者がいた事に安堵した。女が居た場所は前に月兎が隠れていた場所でひらけている。


「しかしよーまじに生き返ったのか」


「はい……」


 菫の疑問に女は答え、腕の中で眠る赤子を見る。


「私はこの子の命を何としても……守りたいのです」


「私たちが守ってみせますよ」


 了は安心させる様に言葉を吐く。女は二人に感謝した。


「お二人はなぜ、私なんかのために」


「ん、私はアレだ、むかつく奴が居てだな」


 菫はそっけなく返し、了も女の疑問に答える。


「私は理不尽に命を奪う行為が許せなくて、です」


「そうですか。……本当にありがとうございます。なんとお礼をすれば」


「気にするな。私たちが勝手にやっていることだしな」


「それによー、まだ終わったわけじゃーねーし」


 二人は辺りを警戒しながら返す。吸血鬼の館に避難する考えもできたが、巻き込みたくないという考えと、女が吸血鬼に対し恐怖を抱いていて避難する考えは消えた。それに誰が襲ってくるのか二人は知らなかった。 誰が来るか予想を了に聞く菫。


「誰が来ると思う」


「人狼……かな」


 菫の問いにそう答えた。


「人狼ねえ、厄介だな」


 菫はは舌打ちし、ズボンのポケットからエルカードを取り出す。了はそれを見て驚いた。なぜならば菫が取り出したエルカードは切花が使用したものだからだ。困惑しながら何故菫が持っているのか尋ねる了


「何で持ってんの!?」


「幽霊事件あったろ、その時草原に倒れている了の回りに落ちてたんだよ」


 菫が持つエルカードは<ハート><リミットオーバー><バーサーク>で、強力な物だ。


「んでそれを拾い隠してたわけ、アサキシには当然内緒」


「そうか、なるほどなあ」


「んで、このカードをお前にやる」


 菫は<ハート>のエルカードを了に投げ渡す。菫の行動に了は不思議な顔をする。


「なぜこれを?お前が持っとけよ」


「一通り試したところそれは私には合わなかった。私に合うのはこれだ」


 <リミットオーバー>のカードを見せ、<バーサーク>のカードは使いずらいと話した。そんな菫の持つカードには危険があることを伝える了。


「そのカードは危険だぞ」


「知ってる。一回使ってみたらやばかった。死ぬかと思ったがパワードスーツと相性いいのさ」


「しかしなあやはり、<ハート>のカードは持っていた方が…」


「私なんかよりお前の事の方が心配だ。<エンド>のカードが使えないなら別の力で補強しといた方が良いだろ。命の危機に陥り<エンド>のカードを使い結果暴走するなんてことも考えられるしな」


「そうか、ありがと」


「そうさ、もっと感謝しろ」


「ありがとう」


「心を込めてだ」


「込めたつもり」


「あっそ」


 二人は緊張をほぐすため無意味な会話をしばらく続けた。


「……了、私は辺りを回ってみるわ」


「大丈夫か?」


「ああ、すぐ戻ってくる」


 この案を了は承諾し、菫はバイクに乗りこの場を離れた。


―――


 暗闇の森の中を黙々と歩き続ける葉月。

 葉月はこのまま、たどり着かなければいいのにと思いを巡らせた。そんな思いを持つ彼女に聞き覚えのある音、バイクの音が聞こえた。


「もしかしたら…菫の奴もアサキシの思惑にのって…」


 そう思いあえて音がする方に向かった。もし菫がアサキシの思惑に賛同しているのであれば、多少なりの罪の意識が和らぐと考えたからだ。しかし心の奥底ではそんな考えに至る自分を恥知らずだと思い、自分に殺意が沸いた。

 菫はバイクに乗り、辺りを見ながらゆっくりと進んでいると、葉月を見つけた。どうやらあちらも気づいて近寄ってきた。バイクから降り、葉月と合流した。菫は気さくに話しかける。


「よう、珍しいな葉月。散歩か」


「違う…」


「もしかして誰かの命を狙いに来たとか…そうッ、例えば赤子何かを」


 菫はニタニタと笑いながら話しかけた。


「そうだ。…お前は違うのか?」


「…」


 葉月の言葉に菫から、笑みが消えた。


「私は違う守る側さ。葉月よーなぜ受けた」


「死んだ者を蘇らせるためだ」


「ふーん、赤子を殺してねえ…」


「…お前だって甦らしたい人が居るだろう…」


「…いるが誰かを殺してまでは思わんなー」


 その言葉に葉月は顔を伏せる。自らを恥じ心の中で自殺願望が生まれつつあった。


「お前が前に言った通り、誤魔化していただけなんだ。過去の怒りで今の現実を…」


「あっそ、どうしてもか」


「わからない…でもこうするしか…」


「じゃあ、その考えなおせクソ間抜けが」


「…エルカード」


 何も答えずエルカードを取り出し、戦闘態勢に入る。菫はそれを見てため息を吐き、自身も戦闘態勢に入る。

「発動ッ!」


「装着ッ!」


 葉月の周囲に雷が発生し、鎧となり、刀を青く染めた。それに対し菫はパワードスーツを装備した。


―――


「菫の奴遅い、遅すぎる」


 彼女が場を離れてから長時間が立った。太陽は沈みかけ夜を連れてくる手前に来ていた。何かあったのではないかと考え了は無事を祈った。


「!」


 その時、こちらに向かってくる何者かの気配を察知した。


「近づく者!!止まり名を名乗れ!」


 了は叫び警告したが相手は歩みを止めず、目の前に姿を現して了を唖然とさせた。


「葉月…」


 現れたのは刀を手に持ち重症を負った葉月だった。


「なぜここに!?まさか!?」


「菫は倒した…次はお前か了」


「倒した!?死んだのか菫は!?」


「生きている…私が奪う命は一つだ」


 そう言い刀を了の後ろにいる親子のに向ける。女は葉月に怯え、赤子を強く抱きしめる。


「逃げろ!!」


「させるかものか」


 了の指示よりも葉月は素早くお(ふだ)を空高く投げた。札はこの場にいる4人を取り囲む様に勢い良く辺りに張り付いた。


「これで結界ができた。あの時の様な妖怪を倒すためでない。人を殺すための…」


 結界の力は以前とはけた違いに強く人間さえ出る事はかなわなかった。


「お前…何をやろうとしているのか、分かっているのか!?」


「分かっている…」


「人を殺すんだぞ!?」


「私は恩人と呼べる人をもう殺している…」


「だからといってッ…」


「私を止めたければ…戦え」


 了は悲しい覚悟を突き付けられたが、赤子の命を守るためカードを取り出し発動した。


 <ハート>感情を力に変える。


 蒼い炎の様なオーラを纏い、作り直した剣を葉月に構える。葉月も刀を構え、両者向かい合い駆けた。

相手を止めるために …

人を殺すために …


―――


 戦いは葉月が僅かに優勢であった。了は人外のカードを使えば逆に不利になる上に、葉月と違い剣術を習ったわけでもない。しかし何とか<ハート>の力で食らいついていた。剣と刀が交差し金属音を響かせる。


「なぜだッ!なぜそうする!」


「言わせるなッ!」


 了と葉月は刃を交え対話する。葉月は悲痛な声を上げる。


「私は家族がいた未来を進むッ!」


「罪なき命を斬り裂いてまでかッ!?」


「うるさい!私にはこれしかない!」


 葉月の刃の鋭さは増し了を襲う。了は叫ぶ。


「そんなことは無い!!お前のすべては過去だけなのかッ!」


「…ゥゥウオオオオオオ!」


 泣き叫び刀を振るう。刃は了の腹を払った。了の腹部から血が飛び散る。何とか痛みに耐えようとする了に葉月は刀を捨ててまで殴り倒し地面に抑えた。


「ウオオオオオオオ」


 悲痛な叫びを上げ殴り続ける。心の内で何度も何度も謝りながら。了は殴られ続け動きを止めた。死んだわけではない。気絶したのだ。葉月の感情に抑え込まれてしまった。


「…」


 捨てた刀を拾い親子に近づく。女は我が子を守ろうと庇う様にして動かなかった。女にとって彼女は我が子を殺す化け物の様だと感じ、恐怖で体が震え涙を流した。


 刀を赤子に目掛け掲げた。葉月の心は砕けそうなほどの悲しい叫びでいっぱいだった。


(…これから始まるのか?私の人生は…赤子を殺し…家族に会えるのか…)


「うあああああああああ」


「!?」


 赤子が泣いた。女の恐怖が伝わったからだ。辺りに鳴き声が響く。葉月は赤子の鳴き声を聞き自らも涙した。



 (…家族がいなくなったら…ああ…)


「…泣かないでくれ」


 そう言い刀を振り下ろした。


 ザンッ


 刀は命を奪うこと無く地面に突き刺さった。彼女は頭を地につけ、親子に対し了や菫に対し何度も謝った。


「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい…」


 葉月からは殺気が消え、今の彼女は哀れな少女だった。赤子は葉月の様子から何かを感じ取ったのか泣き止んだ。女も葉月に対し恐怖心が和らいだ。葉月の戦闘意欲が消えたことにより結界も機能しなくなった。


 「葉月…お前」

 了は体こそ動けないものの、少しの思考が可能になり、葉月を心配した。


「ごめんなさい…ごめんなさい」


「もういいの、もういいのよ…」


 女は泣いて謝る葉月の肩に手を置き、許した。


「でも…」


「いいの…いいの…」


 女と了は葉月が善人であると分かり、安堵した。


ヒュン



 突如、風を切る音がした。赤子の頭に鋭い矢が突き刺さった。矢は赤子の頭を貫き、死に至らしめた。血が女の服を赤く染めた。

 突然の死に驚愕する3人。その時、


「良し殺したな」


 その言葉とともに現れたのはアサキシだった。手にはボウガンが握られていた。


「しかし、葉月情けないな。人目をはばからず泣くなどと」


 アサキシは3人に近寄る。葉月は混乱しながらも問いかける。


「なんで…」


「なんでって、お前な。私が望んだのは赤子の死だ。泣くことじゃ無い。お前はあまり使えなかったかな。否、少し使えたか油断させるための餌として。おかげで赤子に一発命中、喜べよ」


 アサキシは、手に持つボウガンを見せながら淡々と答える。女は子を目の前で殺されたことにより半狂乱になり叫ぶ。


「どうして!どうして!」


 女の叫びに彼女は呆れた。


「どうしても何も、お前の子を殺さなければ、私の欲しい物が手に入らんからだ」


「そんな」


「お前は馬鹿だよ。生まれたばかりの赤子のためにカードを使うなんてな。大した思い出も無いくせに。管理所へもって行けば褒美をやったものを」


「…」


「すぐに子供が死んで悲しかったら産み直せば良かったんだ。頭の回らない奴め」


 話ながらボウガンに新たに矢を付け、女に目掛けて射る。葉月は庇おうとしたが女が拒否した。絶望で死を選んだのだ。矢は女の目に当たり、頭を貫通した。即死だった。

 女は地面にバタリと倒れる。アサキシは女の行動に少し驚いた。


「おっと自分から当たりに来るなんて予想外。でも親子そろって頭に当たるとは意外といいのか?私の腕は?」


 了はアサキシの言葉に信じられないほどの衝撃を受けた。自分に人間性を与えてくれるきっかけになった人物だからだ。どこかで善人であると信じていた。でもそれは違うと目の前の現実に否定された。

 葉月はショックを受けて動きが取れない。考えることができない。


 <インフィニティ>

 <タイム>


 エルカードの音声が流れた。アサキシのお隣にいつの間にかあとじ笑みを浮かべて立っていた。


「おめでとうございますねえ。アサキシさん<スピリット>のカードです」


 あとじは手を掲げるするとカードが現れた。


「む、複製したのか?」


「違いますよ。赤子が死んだらカードの所有者が私に移動する設定にしたんですよ」


「そうかそんなことができるのか。便利だな」


「すごいでしょー、はいどーぞ」


 あとじはアサキシに<スピリット>のカードを渡す。彼女はカードを手に入れたことで喜んだ。


「よしこれで…」


「でも魂だけじゃあ、死者蘇生は出来ませんよ。正しい器、肉体が無ければ。それはどうするんです?」

「それはまた今度に説明する」


「そうですかわかりましたあ、では早く帰りましょうか。了が起き上がって<エンド>を使ったら面倒ですし」


「そうだな」


「アサキシィ!」


「ム、菫かなんだ」


 菫が気絶から目覚め、この場にやってきた。 そしてアサキシ達を睨んだ。


「お前は何も感じないのか!?」


「別に、家族のためにしたことだ。正しい行いさ」


 アサキシは懐からエルカードを取り出し発動した。


 <セメタリー> 死体を消滅させる。


 親子の死体から火発生し、焼失させていく、葉月はそれを止めるため、火を消そうとするが火は消えない。葉月は混乱しながらも火を消そうと奮闘する。


 <セメタリー>の力は、死体を消す能力で他の物を燃やす事は出来ない。しかし死体に一度火がつくと誰にも消す事は出来ない様になっている。


 ただ周りに影響を与えず死体を燃やすのだ。彼女はそんな事は知らない。何とか消そうと必死になっている。あとじはそれを見て声を出して笑った。アサキシはため息を吐き葉月に話しかける。


「おい葉月、お前に改めて言っておく、私の下にいれば全てを取り戻せるいいな」


「あはははじゃあ帰りましょうか。私が送りますよ」


「そうかじゃあ、私の別荘で」


「そんなものがあるんですか、知りませんでした」


「ああ、内緒にしてた。菫が怖くて怖くてなあ、で建てた」


 アサキシは菫をみる、菫は今にも襲い掛かろうとしたかったが出来なかった。自身の負傷と了の負傷、葉月は戦えないと推測し。そしてアサキシは無傷であとじまでいる。今ここで無理に戦えば無駄な死を迎える。彼女は今何もできないことを呪った。


「帰るか」


「そうしましょう」


<インフィニティ>

<ワープ>


 エルカードが鳴った瞬間、アサキシ達の姿は消えていた。

 太陽が沈む、夕暮れの森、先ほど在った親子の死体は全て燃え消えた。灰すら残らなかった。もはや本当に親子は存在したかさえ分からないほどに。菫は葉月に対して「自殺は止めとけよ」とだけ言い了を背負い、診療所へ向かった。


―――


 親子が誰に殺されたか知るすべは失われた。例え菫や了、葉月がアサキシが殺害したと言っても証拠も無く、週刊誌の記事を飾る唯の行方不明事件として扱われるだろう。

 そもそも親子に大した友人も無く、居無くなったことは了達を除いて誰も悲しまなかった。


 了と菫は親子が利用され殺されたことに嘆き、アサキシに対して怒りを募らせた。


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