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夢幻のまち 塵箱世界  作者: つかさ
第一部 了、編
2/48

第二話 剣と被害者

この世界の文明レベルは大正初期ぐらいです。 しかし大正時代ではありません。

 ―――秋 

 冬の到来が間近であると感じさせる、枯れ葉が舞う寒空の下、家に向かって少女がニコニコと歩いていた。名は葉月という。友達との遊びから帰る途中だ。遊び疲れから足取りは緩やかである。 


「楽しかったな」


 鬼ごっこ、かくれんぼ、ままごと、今日のことを振り返りそうつぶやく。


「今、私は幸せなんだろうなぁ」


 ふと立ち止まりそんな風に考えた。この世界は「夢幻のまち」と呼ばれ妖怪や狂人、災害が襲ってくる。そのため家族や親しき友人を亡くす者が多くいる。

 その上、今妖怪の行動が活発になっており、そのせいで多くの人命が失われている。

 そんな中葉月には家族がいる。生きている、帰る家がある。それはとても幸せなこと。

 葉月は家族のことを考えてたら寂しくなり、立ち止まるの止め帰路を急いだ。


 もうすぐ長い冬がやってくる……


 ――――


 夜中、了は買ったばかりの布団に包まれながら幸せそうに眠っていた。しかし、

 ドンッドンッドンッ

 夜中の突然の訪問者にたたき起こされた。彼女は何なんだ、こんな時間によと苛立ち頭をかきながらも起き上がって扉を開ける。


「助けて……」


 扉を開けると、血を流しているマフラーをした女性が居て、助けを求めていた。了は驚愕した。おい、どうしたと尋ねると、相手は何者かに襲われてと答え、人が居た安心感からか気を失ってしまった。


「何なんだ?……」


 了は突然の出来事にただ困惑しながらも、傷の手当てを行った。


―――朝


「ここは…どこ?」


 了の家に来た女は窓から入ってくる日差しによって目を覚まし、辺りを見渡す。そして彼女は何処だここはと思いながら、自分の身を確認した。そして体に包帯が巻かれているのに気がつき、誰かに助けられたことを知った。すると、


「おっ気が付いたか」


「わあッ!?!」


 窓から了が顔出し女に声をかけた。女は驚いて声を上げた。


「おっと驚かしてすまん、辺りを監視していたんだ」


 そう言うと顔ひっこめ、扉から入ってきた。入ってきた了の目にはくまができていた。彼女は女を治療し、夜通し警護していたのだ。了は女に話しかける。


「いやー怪我人が急に現れて驚いたぜ」


「あんたが私を助けてくれたのか?」


 女は自身にまかれた包帯を見ながら尋ねる。


「そうだ。その調子じゃ大丈夫そうかな、私は名は了。あんたは?」


 座布団を敷いて座り挨拶をする彼女。それにつられ女も述べる。


「私はムク。ろくろ首の妖怪だ。助けてくれて本当にありがとう……」


 命の恩人に心からの感謝を伝えた。それに顔赤くする了。


「えっとあっ!マフラー外したら首が無くて驚いたよ」


 彼女は感謝された恥ずかしさから話を変えた。ムクは了が驚いたと知り、妖怪としてつい嬉しくなった。

 妖怪は人を驚かしたり恐怖させたりすることで、力を得る存在なのだ。


 ニコニコ笑顔でマフラーを触りながら話す彼女。


「普段はマフラーで隠してるの」


「ろくろ首の妖怪て首が長い奴だけかと思ってた」


「2種類いるのさ。首が無いやつと長いやつ、私は無いやつ先祖が飛頭蛮なの」


 了はそれを聞き納得し、怪我のワケを尋ねた。


「しかしなぜ怪我をしてたんだ、何かあったのか」


「ああ、そうだ。昨日誰かに斬り付けられたんだ」


 思い出し背に首を向けるムク。眠りから目覚め彼女はすっかり忘れていた。ムクの言葉を聞いた了は険しい目をした。


「何、詳しく教えてくれないか」


「私は普段人里で働いているんだ。仕事が終わり呉服屋の店員の友人と会ったりして、その後、家に帰ろうと暗闇の森に通じる道を歩いていたんだ。 すると急に鋭い痛みが背中に走ってふりむいたら……」


 昨日の事を思い出しムクは恐怖で体が震えた。了は無理しなくてもいいと言うが、彼女は話を続ける。


「仮面で顔を隠し刀を持った奴がいたんだ。妖怪の力は感じられなかった。たぶん人だと思う」

 

 話を了は黙って聞き、犯人の招待を考える。


「何とか反撃しようとしたけど…ソイツ強くてさ…また斬られて、痛みで気絶したんだ」


 その後、夜に目覚め意識が朦朧としながら助けを求め、了の家についた。話を聞いた了はムクに、襲われた心当たりはあるか尋ねる


「大変だったなそれは、しかし人に斬り付けられるなんて人を傷つけたり、襲ったりしたか?」


「そんなことしてない!」


 しかしムクは了の言葉を強く否定した。


「人里で働いている時や、買い物するときは脅かさない様マフラーで首を隠している。あんただって知っているだろ、人里で働けたり住めたりできる妖怪は善良な奴だけだって……」


 ムクの言葉を聞いた了は、それもそうだと肯定する。ムクが語ったことは誰もが知っていることだった。


「そりゃ私も妖怪だし人を驚かしたりするけど、傷つけたり…ましてや殺めたりしないよ」


 自分が襲われたことに彼女は疑問の念が大きく、うなだれた。


「……そうか、ところで体の調子はどうだ。妖怪だろう、傷もう治ったんじゃないか」


 了に言われ、傷に手をあてる。彼女の体に鋭い痛みが走った。そして声を上げて困惑した。 


「あれなんで!妖怪なのに!?」


 妖怪は人と違い回復力の差が違う。人にとって重症でも妖怪であれば2日もあれば全快する。だが傷はそれ以前に血がにじみ出ていた。それを知った了は少し考え口を開く。


「犯人の目星がついたかも知れない……」


「なんだって!」


 ムクは誰なんだと捲し立てる。そんなムクに了は犯人は「封魔」の者だと告げた。それを聞き、彼女は恐怖で青ざめた。


「…そんな、私は何もしていない。第一に封魔は解散したはずだろう」


「しかしムクの治らない傷、妖怪に対してそんな風にできるのは、霊力を操る封魔の者だ。犯人が人だと考慮してな」


 封魔 人里ができる以前に起きた、妖怪と人間の争いにおいて人間を守るために設立された組織。

 封魔の者は霊力と呼ばれる力を持ちいて戦う。封魔の構成員は妖怪の被害者が多い。

 霊力を帯びた刀や霊力を使用し超常現象起こす札が封魔の主力武器である。 霊力とは人間に備わる潜在的な力で過酷な訓練を行えば操れる。

 霊力は人外や妖怪にとって弱点であり、霊力を帯びた武器で攻撃されると人以上に傷つく。


 そんな封魔は、大災害によって人間と妖怪の争いが終結。人間と妖怪が和解が和解したため解散となった。


「しかしなぜ封魔はお前を襲ったんだ。封魔は良い妖怪を退治しないと聞いているが…」 


 了が考え込んでいる中、ムクはある考えを口に出した。


「…決めた。襲った人と会って話をする。なんでそんなことをしたのかを聞く」


「何言ってんだ!?命が狙われたんだぞ!」


 彼女はその言葉を聞き困惑した。マフラーに刺し傷があった、もし首が無ければ死んでいただろう。しかしムクは覚悟の言葉を語る。


「それでも、何もしてないのに襲われたんだ。もしかしたら人里と関わりを持つ妖怪が今後狙われるかも知れない。私の友人も人里で働いている。だから襲った人とあって話がしたい」


「死ぬかも知れないぞ……」


「それでも」


 ムクの言葉を了は聞き考え、口を開く。


「そうかなら、私にも手伝わせてくれ」


 了の言葉に戸惑うムク。


「私を助けても何もならないよ。それに命を助けてもらった了に危険な目に合わせるのは……」


「ムクみたいな良い奴をほおっておけないよ。それに傷も治っていないだろ、だから手伝わせてくれ」


「でも……」


「頼むよ」


 了の言葉に少し考え込み、彼女はこちらこそ頼むと言った。その言葉に了は感謝した。

 話を終えムクはあることに気付いた。


「そう言えば襲った人にどうやって会えばいいんだ?」


「それについていい考えがある。任せておけ」


 彼女は作戦内容を話した。それを聞いて不安になった。


「いけるかなぁ?」


「大丈夫でしょ、作戦は明日行う。薬でも塗って明日に備えるぞ」


「分かった」


「ほいこれ」


 ムクは了に塗り薬を手渡され、傷口に塗った。


「私は寝る」


 了は話を終えると疲れからすぐ寝た。


 次の日、ムクは人里にいた。里には多くの人が行き渡っており、中には妖怪も存在した。人里の建物は一部を除き木造建築。

 街並みは日本の大正風景に似ており、生活する人々の服装も和服である。ちなみにムクの服装も和服である。西洋や現代の物も存在するが少し珍しい。

 この世界の文明レベルは大正初期である。


 なぜ異世界の街並みが日本の大正風景なのかは、この地の文明をもたらしたのが日本人だからであり、またこの世界に日本の妖怪が多く来たためでもある。人々や妖怪が文明をもたらした者に追従し、そして今の大正風景になった。

 勿論、人間世界の大正時代とは全く異質なモノで、要するにそっくりさんみたいなモノである

 ムクは朝から昼までロウソク屋で働き、昼ごろには呉服屋にいた。呉服屋の店員の友人葉月と親しく話をした。 そんな彼女の様子を少し離れた所で隠れて見守っている了。ムクは襲われた日と同じ行動をしていたのだ。


 了が立てた作戦はムクが無事であることをアピールして、襲った者をおびき出すものだ。


「今のところ何もないな」


 了は少し安心したが周囲の警戒を怠らなかった。

夕方、ムクは人里を出て暗闇の森に続く道をうつむきながら歩いていた。すると


「!!」


 道の端に血の跡がある事に気がついた。そして辺りを見渡し、自分が襲われた場所だと気づいた。彼女は血の跡を見て襲われたときの事を思い出し血の気が引いた。そんな時、

「やあ」

 ふと誰かに声をかけられた。彼女は驚き顔を上げ周囲を見渡す。道の木々に背負を預けている人が居た。髪はポニーテール、鮮やかな青の袴を着て、顔を隠すように仮面をつけていた。ムクは眼を開いた。


 相手は刀を持ち、なおかつ襲ってきた奴と同じ仮面をしていたのだ。それが分かり恐怖で体震え、動揺した。そんな様子を見て仮面の人間は笑う。


「どうしたんだ。恐ろしい者を見たって感じだけど」


「あ、あんたが昨日私を襲った奴か」


 彼女の問いかけに相手は平然と答えた。


「そうだ。顔を隠してたせいかうまく切れなかったか。念のため首を刺したんだがなあ、なぜ生きてるのかな?」


「私は首のない妖怪だ。そんなことよりなぜ襲った!私は何もしていない、誰かと勘違いしてないか」 


 震え声で相手に無実を訴える。


「何もしていない……」


 しかし、相手は訴えを聞き声を出して笑った。


「何がおかしい……」


「妖怪なんているだけで害。存在しているだけで罪だ。襲った理由はそれだけだ」


 相手はそう言いきった。は余りにも酷い理由にムクは言葉を失った。


「今日は仮面をとるよ、確実に仕留めるためにね」


 そう言い仮面を取り外した。現れたのは若い少女であった。その顔にムクは見覚えがあった。


「葉月……」


「そうさ、呉服屋で働いているあんたの友人のね」


「嘘だ……そんなの」


 相手の正体に彼女は信じられず、頭が真っ白になった。


「あんたのこと人間だと思ってたんだがある日、気付いたんだ。かすかな妖力で妖怪だって事にね。気付いた時は、人に紛れて何かしないかと冷や冷やしたよ。いやまったく、だけど今日で終わりだ」


 そんな葉月の言葉に思わず、ムクは涙し言葉を口にしようとする。


「私は妖怪だ…だけど人間と仲良く………」


 だけど辛くて、これ以上の言葉はでなかった。


「…それが最後の言葉でいいな」


 彼女は刀を構え、ムクを見据える。彼女は精神的ショックで動けなかった。そんな中、第三者の声が響く。


「言い分けないだろ」


「!!」


「!!」


 二人は第三者の声に驚き、そちらに顔を向ける。そこには了がいた。了は葉月に向かい話しかける。


「話を聞いていたが、まったく、ムクはアンタのこと友人だと思っていたんだぜ。その上、妖怪はいるだけで罪だとかいってさ。あんた刀を向ける相手が違うぜ」


 それを聞いた相手は殺気がこもった声で言い返した。


「なんだお前、そこの化け物を庇うつもりか」


「その通り、それに彼女は化け物じゃないムクだ」


「じゃあ、お前から…斬ってやる。化け物を庇う奴なんて、ロクなやつじゃないからな」


 そう言い、刀を向けた。了もカードを取り出し戦闘態勢に入る。相手は了に対して上段斬りを仕掛けた。それと同時にカードを発動させる了。


<アイアン>


 自分の体を鉄の様にし、刀を片腕で受け止め様とする。刀は鉄を斬れない了はそう考えてた。しかしそうではなかった。腕は切断とはいかなかったものの、深く斬られてしまう。


「何ッ!?」


「なにを驚いているッ!!」


 驚く彼女に葉月は追撃を仕掛ける。その攻撃を紙一重で避け距離をとる。

 避けれたものの了の心中は穏やかでなかった。


 まさか、鉄を斬ることができるのか!? 


 了は相手がただ者でない事に気づき、手加減が出来ないことも分かった。彼女は人を殺す覚悟を決めた。

 葉月は了がエルカードを持っていることに驚いていた。


「エルカード珍しいものを持っているな、だがまあ大したことはない。そのまま死ねッ」


 そう告げ再び攻撃を仕掛ける。刀の速度は先ほどより上がっていた。了はなんとか反撃を試みるが避けるのに手いっぱいだった。手ごわい相手に一度ムクを連れ逃げる事を考えた。しかし葉月はそれを防ぐ。


「逃がすものかッ」


 彼女は了が逃げる事を覚り、懐から札を取り出し空に投げた。札は勢いよく弾け、辺りを囲う様に辺りに張り付いた。札は霊力を帯び、結界が構築された。


「クソっ!」


 了は悪態をついた。結界の力で妖怪であるムクを連れて逃げる事が出来なくなったからだ。


「急ごしらえの結界ゆえに、そこの弱小妖怪しか留める事ができんが、お前は見捨てて、逃げることはしないだろう」


 葉月の言葉に了は歯噛みした。予想以上に彼女は強かったのだ。


 それと了は焦っていた。葉月の戦い方は封魔の戦い方であり、霊力を帯びた刀相手では人外の力を得る<オーガ><グリフォン><ドラゴン>のカ-ドは弱点になるため迂闊に使えない。

 そのため隙を作らなければならない。


 しかし了のそんな考えとは裏腹に、攻撃は鋭く避けるのも難しくなっていた。


「死ねッ」


 さらに短刀を取り出して投げた。了は突如の行動にムクに危害が加えられたと勘違いし一瞬視線をムクに移してしまう。ムクは無事であったが、彼女は隙を作ってしまった。


 その隙を葉月は見逃さなかった。刀は了の腹部を斬った。地面に血が飛び散った。了は痛みに耐え腹部を抑えるもバランスが崩れてしまい、倒れてしまう。


「ギャ嗚呼アアア」


「これで終わりだな」


 葉月は了に向かって刀を叩き付け様とした。


「危ないッ!」


「グウ!?」


 そのときムクが自らの頭を掴み、ボールの様に葉月に向かって勢いよく投げた。首無しろくろ首だからできる芸当だった。葉月は頭を横から喰らい、態勢が崩れ隙が生まれた。了はこの時を見逃さずカードを発動した。


 <グリフォン>了に翼が出現した。


 了は突風を起こし相手を吹き飛ばす。しかし葉月はとっさに片翼に一閃を放った。それでも風には耐えられず吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。


 人外に変身したことにより、腹部の傷から出血は収まったが疲労は途轍もなかった。ムクは体を動かし頭をつけ了を心配した。


「大丈夫!?」


「なんとかね。ムク、まだ戦いは終わってない。離れているんだ」


「え…」


 了の言葉に彼女は吹き飛ばされた葉月を見る。そして恐怖した。


 口から大量の血を流し、片腕は曲がり折れているのにも関わらず、立っていた。了の攻撃は翼に攻撃を受けたことで、僅かに弱まっていたのだ。

 しかしそれでもただの人ならば立つことは出来ない傷のはずであった。

 ムクは了の言う通り、近くの木々に身を隠した。


 大怪我を負う葉月は殺気を放ち、刀を構えた。おそらくこれが最後の攻撃だろう。彼女は折れた腕で札を刀に滑らせた。すると刀に電流が走った。


「!!」


「了!」


 了は危機を感じたが痛みによって体がなかなか動かない。ムクは了を助けようとするが、葉月が放った殺気で身動きが取れなかった。刀の電流は強さが増していた。音は激しく光は眩しいと感じる程に。

 もはや電流は雷になっていた。


 葉月は了に向かって地面を斬りつけながら駆けた。さらに雷は威力を増していく。雷鳴が(とどろき)、辺りから音を奪ッていく。了はそれを見て力を解除した。


「…」


「覚悟は決めたなァ!」


 了に刀が向かいつつある時には、雷の光と音が辺りを支配しつつあった。眩しさからムクは了の様子が良く窺えない。

 雷を纏った刀が了の命を狙える距離に迫ってきた。しかし了は逃げようとしない。


「死ねえええええええええええ」


 刀は振り落とされた瞬間 雷の光と音が全てを支配した。そしてゆっくりと雷の光と音は収まっていく。ムクは目は眩しさから解放され徐々に辺りが見えるようになった。そして了の無事を確認するが


「あ…あ…」 


 彼女は目に映る光景に絶望した。葉月の目の前には、真っ二つにされた焼死体があった。葉月は勝ち誇り次の獲物であるムクに刀を向けた。向けられたムクは死の恐怖に縛られた。

 その時、エルカードの音声が場を支配した。


 <オーガ>


「何ィ!?」


「遅いッ!」


 音がした方に葉月は振り向くと、木の陰から鬼の力を得た了が飛び出してきた。とっさに防御しようとする葉月。しかし間に合わず了の拳が葉月の腹をとらえた。


「グアオガッ!」


 彼女は殴り飛ばされ、何度も地面に叩きつけられて、ようやく動きを止めた。


「ふう、危なかったぜ……」


 了はため息を吐き力を解除した。ムクは了が生きていることに驚いた。


「生き、生き、なんで生きているの!?」


「?」


 しかし了には何に驚いているか伝わらなかった。彼女は焼死体を指さし驚きを伝えようとするが、


「だってそこに死体が…無い!?!?」


 先ほどあった焼死体は何処にも無く、消えていた。了はムクがが何が言いたいのかに気付いた。


「私は葉月の攻撃を受ける瞬間にこのカードを発動させた」


 その言葉とともにムクに<フェイク>と書かれたエルカードを見せた。


「これは分身を作り出すカードでな、奴の雷の光で辺りが真っ白になったときに入れ替わり、分身に刀を受けさせ、私は木の陰に隠れた。タイミングがずれたらやばかったな。あと葉月が怒りで我を忘れていたのも良かった」


 それを聞いて、ムクにある疑問が浮かんだ。


「エルカードを使うと音が鳴るよね、あれはどうしたの?」


「それは雷の音で消えた」


 そう言われると彼女は、攻撃の瞬間は雷の音で何も聞こえなかった事を思い出した。


「まあ、勝てた要因は、奴が最後の最後で油断したのが大きいかな」


 了は倒れた葉月に視線を移し、ムクに尋ねる。


「こいつがなぜムクを襲うほどの憎しみを持っていたのか知りたいから 診療所に連れて行きたいんだがいいかな?」


 そう尋ねる了にムクは頷いた。


「私も葉月がどうしてここまで恨んでるのか知りたいし、何よりも友達だからね、助けたいよ」


「そうか…こいつと私の怪我もあるし急ごう」


「葉月は私が背負うよ」


 そう言い地に横たわる葉月に駆け寄った。


 二人は人里にある診療所にやってきた。診療所には立て看板に治療承っていますと書かれていた。了は扉を叩き声を上げる。


「夜分遅くにすみません急患なんです。ミヅクさんは要らっしゃいませんか」


 呼ぶと建物の明かりはつけられ、タッタッタッと診療所の中から足音が聞こえてきた。


「はい?どなたですか?」


 扉から現れたのは、白衣を纏った、少し筋肉質な赤髪の女性、ミヅクが現れた。


「この人たちを見てほしいんです」


 二人は背負っている葉月を診せる。葉月の顔を見て、彼女は驚きの声を上げた。


「葉月じゃあないか、しかもこの怪我」


「お知り合いですか!実はこんな事があって…」


 今回の事件を簡単に述べた。話を聞き、ミズクは(うつむ)


「なるほどなそんなことが……」


「お知り合いなんですね」


 了の言葉に頷き返すミヅク。それを知りムクは問いかける。


「なら聞きたいことがあります。なぜ葉月はここまで妖怪を恨んでいるんですか!」


 彼女は訳が聞きたくやや声を荒げてしまった。ミヅクは少しの沈黙の後、葉月と了の治療が完了したら話すと言い、看護師を呼んで葉月と了を手術室に連れて行かせた。


「では少し待っててくれ」


 ミヅクはそう言い、手術室に入っていった。

 しばらく、待合室で待つことになったムク。待合室に目をやると、棚に塗り薬が置いてあり、了から貰った塗り薬はここの物だと分かった。


「…」


 残されたムクは今日あったことを心の中で整理するため、待つ(あいだ)ずっと座り込んだままだった。

 やがて夜が明け、朝になり、窓から光が差し込む。

  ムクが朝になった事に気付くと、手術室から包帯にまかれている了と汗まみれのミヅクが現れた。結果を聞くと、どうやら治療は無事成功したとのこと。そのことを聞き、安どした。ミヅクは椅子に腰を下ろした。


「了も葉月もう大丈夫」


「そうですか。大丈夫?了」


 了は包帯でミイラ状態になっており口を、もごもごとさせた。意味は平気である。ムクは了の顔の包帯部分だけ取ってあげて喋れるようにした。手術を終えたミヅクは汗を流しながら椅子に座りゆったりしている。彼女の座りがギィと音を立てる椅子。


 そんな彼女に 恐る恐る尋ねるムク。


「あの…」


「ああ、そうだったな」


 ハッとするミヅク。治療の事で頭がいっぱいだったのだ。


「えっと葉月のことだな。彼女が封魔の一人であることはしっているかな?」


「いいえ、霊力を駆使し戦っていたのと妖怪への恨みで封魔の者だと考えましたが、やはりそうでしたか」

 了はそれを聞き納得した。そして一番聞きたいことをミヅクに尋ねた。


「彼女はなぜ妖怪を強く恨んでいるんですか、やはり封魔にいたことと関係が?」


「ああ…葉月は家族を妖怪に殺されて封魔に入ったんだ」


 それを聞いた二人は驚いた。ミヅクは話を続ける。


「私もその時の事は詳しく知らないが昔、葉月ちゃんが家に帰ると家族が皆殺しになっていた。犯人を村の人総出で探しても分からず、もしや妖怪の仕業と考え封魔に調査を依頼した。そして犯人は妖怪だと分かり退治された。そして家族が妖怪に殺された知ると封魔に入りたいと願い出た。あ、話長くなるけどいいかな」


 二人はお構いなくと頷いた。


「何故、封魔に入りたいのか聞くと、妖怪のせいで自分みたいに家族を殺され、辛い思いをする人を減らしたいから、と言ったらしい。その後、封魔に入った葉月は凄かった。」


 過去を思い出し遠い目をしながら語るミヅク。


「霊力を得る厳しい訓練や戦いを何度も乗り越えた。ある日、私は彼女に戦って恐怖はないのかと尋ねたことがある。すると私にこう言った。 『怖いですけど、妖怪を倒し妖怪が居ない世界を作るのが今の私の幸せですから。もしそうなれば殺された家族や戦いの中で死んだ友人が報われると思います』 てね」


 悲しそうに顔を浮かべながら話す彼女。外から話の内容とは正反対の誰かの元気な声が聞こえた。


「しかし、そうはならなかった。大災害によって人間と妖怪が和解、共に生きることになり、それに伴って封魔は活動を停止。解散になった。多くは解散になることを喜んでいた、戦う事が無くなるからな。平和いいことだ」


「しかし葉月ちゃんは妖怪と和解することを嫌がった。まだ妖怪が残っている、戦わなくてはならない、とね」


 ムクは彼女の過去を聞いて顔ふせた。ミヅクの話を聞き続ける。


「私たちは葉月が問題を起こさない様、説得を試み様とした。そんな私達に対して彼女はこう言ったんだ

 『私の家族は妖怪に殺されました。共に戦った友人の多くも妖怪に殺されてしまいました。それでも戦ったのは妖怪がいない世界にするためでした。誰も妖怪に傷つけられない世界を…なのに今になって和解だなんて、殺された家族や戦いで死んだ友人は何なんですか…。戦った私は何も得てません…あまりにも惨めすぎる』」


 葉月の思いに、悲しくなるムクと了。


 「そう言ったその後、しばらくの間行方を暗ましたが、人里で暮らし呉服屋で働いてると知り、何とか生きてるとかわかり安心したが…」


「それが葉月が妖怪を恨む理由…」


 二人は何もかも失った葉月を思い、とても悲しくなった。彼女が妖怪に恨みを持つのは当然のことだったのだ。


「しかし何故ムクを襲ったんだ?」


 了の疑問にミヅクは少し考え答える。


「おそらく、知らずのうちに妖怪と友達になっていたことに対して、自分自身とムクちゃんに怒りを感じて今回の凶行に至ったんだろう。今回の事は私が葉月にきつく言っておくよ、私も封魔の一員だったし、それに一時期は葉月の上司でもあったからね」


 ミヅクが封魔だと分かり二人はギョッとした。 恐る恐る尋ねるムク。


「あなたは彼女の様に妖怪を恨んでいないんですか?」


「恨んでたよ、私も大切な人が殺されてねそれで封魔に入った。しかしな、恨み辛みを持って戦ったり生きたりすることに嫌になってな…全部忘れることにした。悲しいことだけどさ…」


 そう言うミヅクの顔は暗い。彼女もまた葉月動揺、辛い人生を歩んできたのだ


「その後は戦いとは無縁の医療に携わる事にした。私の霊力や札で大体治せるしな」


 そう言い、笑うミヅク。


「お話しと治療をしてくださり、ありがとうございました」


 二人は感謝の言葉を述べ、懐から金を渡そうとするがミヅクに要らないと言われてしまった。


「今回のは封魔の事件でもあるからな、金はいいよ」


「そうですかでは、ありがとうございました」


 彼女たちはそう言い、頭を下げ診療所を後にした。外に出ると人里の喧騒が彼女たちを迎えた。ムクが了に話かけた。


「葉月は妖怪のせいで不幸になったんだね…」


「そうだな。妖怪にせいで被害者になり、妖怪のせいで加害者にもなったんだ…」


―――


 後日、了は人里にいた。葉月が退院したと聞いて様子を見に来たのだ。呉服屋の中で彼女は人に囲まれていた。周りの人間が心配そうに尋ねる。


「葉月ちゃん仕事休んでどうしたの?」


「大丈夫です。少し怪我しちゃって、心配をかけてすみません」


 周りに笑顔で返す葉月。その笑顔には戦った時のモノは無かった。


「あの時とは別人だな…」


 その笑顔を了は隠れ見て、あれが本来の彼女だと分かり、また妖怪には向けられない顔だとも分かった。彼女は悲しくなり人里を後にした。



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