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夢幻のまち 塵箱世界  作者: つかさ
第一部 了、編
18/48

第十三話 知らなければいい真実。

 月が照らす深夜の人里。

 通りを歩く者は無く、静まり返っていた。 アサキシの家は人里の中心部に存在してある。アサキシの家は大きな和の屋敷であり、大きな庭も存在している。庭には見事な桜の木が一本植えられており、その木の下にアサキシの両親の墓がある。その屋敷に了、葉月、ブルーに恵みの四人が忍び込んでいた。


「おい、気づかれてないよな」


「たぶんね。そこかな」


「ばれたらどうなるんですかねえ」


「やべーことにはなるぜ」


 四人は小声で不安を語り合いながら屋敷を徘徊する。屋敷にいる使用人の目を潜り抜け、何とかアサキシの部屋にたどり着いた。音を立てず襖を開ける。部屋は掛け軸と本棚に箪笥。木製の机といったありふれたものだった。

 部屋の奥の障子を開けると庭の桜が見えた。四人は音を立てぬ様に目的の情報、大災害やアカネ関連の物を探した。すると、恵みが何かを見つけた。


「見てくださいよこれ」


 恵みは三人を集め、見つけた物を見せる。それは日記と書かれていた。


「詳しいことが書いてあるかもしれませんよ」


「他人の日記を見るのは気が引けるな」


「泥棒まがいのことをやってるのに気にするな」


「そりゃそうだ」


 了は葉月の言葉に納得した。


「えっと開けますよ」


 恵みは他の者が見えるように広げ日記を読む。


「えっと何々…私は大人になり、親から何かしてみないかと言われ、日記をつける事にした…」


―――



「侵入者がいるな」


 アサキシは管理所から帰り、屋敷の玄関に着いたと同時に使用人以外の者が屋敷内に紛れ込んでるのを悟った。アサキシが侵入者に気付いたのは、普段から身を守るため自身の肉体を強化しており嗅覚は犬に劣らぬものである。そして屋敷に招いておらぬ者の匂いがした。


「侵入者は了に、葉月にブルーと誰だ。…あとはあとじの五人か」


 侵入者に動揺せず庭から自分の部屋に思案しながら向かう。


 ブルーがここに来たのわかる。人里でメイドに大災害やアカネについて何か調べさせてた、それが理由だろうな。大方手詰まりで私の屋敷に直接きたのだろう。了や葉月に誰かはそれについてきたのだろう。

あとじは匂いがするがどこに居るか分からん。呼べば来るかな?


 アサキシはスカートのポケットから黒いブレスレットを取り出し腕にはめた。


―――


「そんなことが、こんなことが…」


 アサキシの部屋にいる四人は日記を読み、驚愕と混乱していた。


「そんな…そんな」


「葉月しっかりしろ」


 了は葉月を心配する。葉月は日記を読み茫然自失で狂乱を起こしかねないと三人から危険視した。それほどまでに彼女にとって日記の内容は残酷なものであった。そんな中ブルーはいち早く落ち着きを取り戻し、了にどうするか話し合う。


「日記はどうする。持って帰るか」


「それは、流石に」


「そうだ、私の日記を持っていくのはやめてもらおう」


 四人は驚いた。障子は開けられ庭からアサキシが現れたからだ。


「そこの君日記を置いてくれないか」


「あ・あ‥あ」


 アサキシは恵みに向かって殺気を放った。恵みはこれまでの人生殺意といったものを受けたこともなく、腰が抜け座り込んでしまう。アサキシは恵みを見て鼻で笑う。


「ビビッて腰がぬけたか。まぬけが」


「アサキシ、この日記に書いてあることは本当か」


 了はアサキシを問い詰める。了にとって彼女は冷たい人間だと思っていたが、善人であると信じてたからだ。だがアサキシは了を無視し、恵みに近づき日記を拾う。

 他の者は突如の事に固まっている。しかし了は叫ぶ。


「アサキシ!」


「うるさいな。本当のことだ」


「!…なぜやったかは聞かない。罪悪感はないのか!?多くの者が苦しんだんだぞ!」


 アサキシは日記を拾い、庭の桜の木の下に歩く。そして了達を見つめ、さも当然に答える。


「だからなんだ。私は私が望むことをしただけのこと」


 その言葉に了はショックを受け、葉月は激怒した。


「貴様ァ!」


「葉月!?」


 刀を抜き、アサキシを殺そうと突撃しようとするが、了とブルーに止められる。葉月は泣き叫ぶ。


「離せっ!こいつのせいで…こいつのせいでな!」


「落ち着け、ここで今ことを荒立てても意味が無い」


「そうだ、今の私たちは不法侵入者だ」


 了とブルーは葉月に対し説得の言葉を投げかける。


「くそがああああ」


 彼女は何とか振り放そうと暴れる。その動きを見てアサキシは笑う。


「そうだ。落ち着けよ葉月、私を殺しても意味はないぞ。まあ戦っても負ける気はないがね」


「…アサキシさん私は記者です、日記に書いてあったことを世間にばらしますよ」


 恵みは何とか立ち上がりアサキシに対して脅しをかける。しかし、アサキシは動揺しない。


「ばらしてみろよ。この夢幻のまちが混乱に陥るぞ」


「強がりを…」


「強がり?これは事実だ。人間の手によって先導師は生み出され、大災害を起こし人間と妖怪は和解し今の平和な世の中になった。しかしばらしてみろ。葉月の様な人間や人間に不満を持つ妖怪は確実に争いを起こす。そして今の平和な世が乱れる。仮に起きなくても妖怪と人間の間に深い溝ができるだろう」


「うう…それは」


 アサキシの言葉に恵みは動揺する。


「今君は幸せか、大災害で何か失ったか」


「私は…何も失ってませんし、今この状況を除けば幸せです……」


「ならばらすのはやめた方が良いな。今の幸せな生活は崩れ、大切なものを失ってしまうかもな」


「…」

 アサキシは恵みに脅しをかけた。恵みは口を閉ざしてしまう。

 アサキシさんの言う通りだ。 … もし世間にばらしたら私にとって良いことより悪いことが多く降り注ぐだろう。


「今日のところは見逃してやる。さっさと帰れ」


「アサキシ!お前に言いたいことがある!」


「何だ了」


「お前は本当に何も感じてないのか。傷ついた人を 見ても…」


 了の脳裏には葉月や菫といった傷つき失った者の事がよぎる。アサキシは心底めんどくさそうに答える。


「くどいな。何も感じてないよ」


「そうか、なら私はあんたを許さない…」


「許さないだと?何も失っていない了が?」


 了の言葉にアサキシは失笑した。


「だけどもだ。私は多くの悲しみがあることを知ったからだ」


「じゃあ何か<エンド>のエルカードを使い私を消すか?お前を保護し人間性を与えてやった私を」


「それをどうしてお前が!?」


「どうして?間抜けなことを言う。菫の報告書にかいてあったのさ。薄々かんずいていたがね、了が終わらせる者だということには」


「クッ」


「それにお前は何も失っていない部外者だ、いくら何か言おうがな。ブルーに記者を含めて、葉月意外な」


 アサキシは恵みを見据える。


「もしここで争えばその記者は確実に死ぬだろう。それでも戦うか、もちろん私は大いに抵抗するし貴様らを犯罪者として扱う。人里及び夢幻のまちでの生活が苦しくなるなあ」


 彼女の言葉に四人は沈黙する。


「さあどうする?」


「…おいお前たちここは退くぞあまりにもこちら側に分が悪い」


 ブルーは三人を見渡し、退くことを唱える。了と恵は頷く。葉月は黙ったままだ。


「ふむ賢明な判断だ。蝙蝠もどきのくせに」


「ありがとうよ。クソ人間」


 ブルーは悪態をつき、その様子にアサキシは笑みをこぼした。了は<グリフォン>のカードを使い翼を生やして恵みを背負い、ブルーは何も言わない葉月を背負いこの場を後にしようとする。


「アサキシ貴様に言いたいことがある」


「何だ了」


「私は管理所を抜ける、あんたの下につかない」


「そうか、残念だ」


 了は空に飛び出し、ブルーの館に戻る。

 ブルーも後に続き飛ぼうとするが葉月が暴れ、離れる。


「葉月お前!」


「私に構うな吸血鬼!!私一人でやる」


「そうかい!」


ブルーは空へ舞い上がり自分の館に戻る。… 場にはアサキシと葉月だけになった。葉月はエルカードを取り出し発動する


<アサルト>


 葉月の周りに雷が発生し鎧へと変化する。刀身は青く染まる。その様子を見てアサキシは少し驚く。


「エルカード持っていたのか」


「ああもらった。見知らぬ奴からな」


「…おそらくあとじだな」


 あとじの奴、何でこいつに渡したんだか…アサキシはため息を吐いた。

 葉月はアサキシに殺意を向ける。


「さあアサキシ!死の覚悟はできてるよなッ!」


「覚悟してないよ君とは話し合いたいのだから」


 葉月の言葉に手を広げ否定する。葉月はその言葉に激高し、否定する


「貴様と話すことなどない!」


「死んだ家族を蘇らせる事が出来るといってもか?」


「なにをいって!?」


 アサキシの言葉に戸惑う葉月。彼女は葉月の戸惑いに笑みを浮かべる。


「おい!あとじ居るんだろ隠れてないで出てこい!」


 アサキシはあたりに向かって叫ぶ。すると空間が裂け、二人の目の前に女が現れる。女の姿は白い髪黒いジャケットにスカートをはいた怪しい笑みを浮かべた美しい女だった。

 葉月はこの女に見覚えがあった。


「こいつは夢の中で会い私にエルカードを渡した!?」


 動揺する葉月に女は悠々と会釈する。


「おやおや葉月さんにアサキシさんこんばんわあ」


「久しぶりだなあとじ」


「こいつがあとじ!?エルカードを作り騒ぎを起こしてる者!?」


 突如現れた女の正体に驚くも、葉月はあとじも敵と認識し刀を向ける。あとじは刀を向けられても平然としていた。


「あらやだあ怖い。ところでなんですか私を呼んで」


 言葉で怖る素振りを診せるが、葉月を見て笑っている。余裕を持つ者の笑みだ。あとじの問いにアサキシはぶっきらぼうに答える。


「お前が勝手に居たのだろう。葉月、こいつがあとじだ」


「だから何だ!?」


「こいつはエルカードを作りばらまいている。そして私は回収しているこの意味はわかるか」


「何が言いたい」


「私がエルカードを集めているのは単に危険だからというだけでは無い。死者を蘇らせる力を持つカードを探すためだ」


 アサキシの言葉に即座に反論する。


「そんな死んだ者を蘇らせる事はできない!」


「なぜそう断言できる。この世界には不可思議な力で満ち溢れているのに。・・・現に私は死者を蘇らせる可能性を持つカードを一枚所有している」


「な…に」


 聞くな聞くな相手は私のすべての元凶だぞ。

 葉月は心の中で何度も自分に言い聞かせる。アサキシの言葉は続く。


「私の下に着けばお前の大切な人も蘇らせてやろう。今ここで戦いもし私を殺せば蘇らせる道はなくなる」


「世迷言をッ」


「本当ですよお。葉月さあん」


 あとじが言葉を補足する。


「アサキシさんは持っていますよ、確かにね。作った私が言うのですから」


「なあ葉月、ここで血迷うなよ。今お前は全てを取り戻せるのだぞ」


「なぜおまえは、あとじから直接貰わない?」


「私も再三頼んだが駄目。エルカードをばらまき騒動起こすそれを解決しなければだめだと言われた」


「だってあげたらつまらないだもーん。それにゲームみたいなものですよ、私が騒動を楽しく起こしそれをアサキシさんたちが解決しようとする。私はそれを見て楽しむ。アサキシさんたちはカードを手に入れたら幸せ!両者お得ですねえ」


 ジェスチャーしながら、大げさに話すあとじ。


「この通りだ今後事件が起きたのならエルカードを存在を疑い解決しなければならない。しかし力を持った了は私の下から離れた。それを埋めるために私の下に来い」


 アサキシは葉月を勧誘する。勧誘された彼女は差し出された話に気が狂いそうになった。


「お前は…お前は私の全てを奪った」


「そうだ。だがお前の家族を殺したのは私じゃあ無い。妖怪だ。私が直接関係したわけでもない」


「うるさい…」


「葉月…頭を使え。今私に従わなかったら何が残る。つまらん復讐心に、誰もいない家」


「もうやめろ…」


「だが私の下に着けばそれらの不安が全て無くなる。家族を蘇らせる道に行ける、それは復讐とは違い正しい道だ」


「…」


「どうする?葉月これが最後だ」


「…」

 アサキシの言葉に葉月の頭に死んだ者たちの影が浮かび上がる。

 (私の家族、友達 恩人死んでしまった者全てが…私は何も得ることができなかった。…たとえ家に帰っても誰もいない。何もない…)


 アサキシは足踏みしながら彼女の返答を待つ。

「どうする?」


「蘇る道はあるだな…」


「あるとも」


 その言葉で刀を鞘にしまいエルカードの力も解除した。


「従うってことでいいのかな」


「…ああ」


「そうか、良い判断だ。あとじ葉月を家まで送ってやれ」


「はーい」


 葉月はあとじを見てなぜ自分にエルカード渡したのかを尋ねる。あとじは葉月の言葉に笑みを浮かべ言い返す。


「それは戦い続けるあなたは見てて面白かったからです、滑稽で。恩人とまでねえ。いやはや実に愉快痛快楽しいなあ。おっと喋り過ぎましたねウフフ」


 (私の人生は … 私は …)

 あとじの言葉に彼女は絶望に叩き落とされた。


「では葉月さんまた今度」


 あとじはエルカードを葉月に向け取り出し発動した。


 <テレポート>瞬間移動させる力を得る。


 すると彼女は屋敷から姿を消した。二人になりアサキシがあとじに話しかける。


「なあ、あとじなんで私の家に居たんだ」


「おいしそうなお菓子がありましてねえ…」


「本当か?まあ、会えてよかったよ」


「私もです。面白いものが見れましたから。ではまた今度…」


 あとじは笑いながら後を去った。アサキシは了達に屋敷を簡単に入られたことに、ため息をついた。


―――


 人里 葉月の家

 葉月は気がつくと自宅にいた。そしてアサキシやあとじに言われた事を思い返し、自分の人生は誰かの物なのかと考え嘆いた。 


―――

 暗闇の森

 ブルーの館。

 了とブルーに恵みは暗い顔でテーブルを囲んでいた。ブルーは葉月が屋敷に残ったと伝え、了と恵みは何もない事を祈った。助けに行くことも考えたが侵入がばれたことと、葉月のおいてけ発言もあり動けずにいた。ブルーは恵みに尋ねた。


「で、どうする?」


「どうって…」


「記事だよ。大災害とアカネ真実を書くのか書かないのか」


「…私には重すぎます、これを世間に発表するのは出来ません。…ごめんなさい」


「まあそうだな今の自分の生活が崩れるもんな。了はなんかある」


「私は菫に会いに行く」


「菫、日記に書いてあった女か。会ってどうする?」


「今後について話す。菫がアサキシ側であってもな。それにあとじの奴の行動を止める、奴のせいで多くの者のが苦しんだ。奴自身もそれを楽しんでる止めなくては…」


「そうか、私は大災害やアカネの事について知れたししばらくはのんびりするよ。アサキシの奴は気にくわないから向う側にはつかない。安心ししてくれ…これから大変だな」


「そうさ、アサキシ以外にも脅威の存在が現れるかもしれないしな」


 その後、朝になり了は恵みを家まで送り返した。そして呉服屋で働いている葉月を見て無事であることに安心した。しかし顔は暗く尋ねてみても何も言わなかった。


 了はただ辛くなった。

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