第5話「終電の馬車」
居酒屋へ来たけど。
もうみんなすっかり飲みモード。
途中から来た俺は、自己紹介させられた。
「ねえ、名前なんて言うの?」
な、名前?!
ど、どうしよう。
女になったのはいいけど、、、
女になってるからには、名前考えないと。
「しょ、」
「しょ?」
みんながこっちを見てくる。
拓也も。
あぁ、
拓也に見つめられると、
正体バレてる気がして、ドキドキする。
そう言えば拓也って、
他の人よりもすごく、
優しい目してるな。。。
「ねえ、名前は〜〜?」
やべ!
どうしよ。
「翔子です」
やべ!
翔の太を、子にしただけじゃねえか!
もっと違う名前あったはずなのに!
バカかよ俺。
ジェシカとか、ラプンツェルとか
もっとあっただろ!俺。
「翔子ちゃんね!じゃあ、しょこたんで!」
ショ、ショ、ショショショ、
しょこたん?!!
「あは、中川翔子みたいですね」
× × × ×
「じゃあ、この中で一番タイプな男子を指差すゲームやろ!」
いきなり立ち上がって、サークル長の柳葉さんが言い出した。
「いいね!賛成」
「千佳はどうせ拓也だろ」
「いえいえ柳葉さんですけど」
「は?気使ってくれなくてもいいからな」
「本音ですね」
「あとで抱いてやる」
そう言うと、周りの1年生以外が
「気持ちわる」と煽る。
「冗談恐怖症になりそう」と半泣きの柳葉さんに
みんなクスクス笑う。
俺、サークルとか入るの嫌でずっと入ってなかったけど、
案外楽しいかもな。こういうのも。
そんな事思いながら、ふと時計を見る。
あ!!!
嘘?
もう終電まで9分。
やばい!
「す、すみません」
「おっ、どうしたしょこたん」
もう、このサークルでは俺はしょこたんに
なっていた。
「終電があるので、帰ります」
「嘘!家どこ!」と千佳さんの謎の質問。
「埼玉です」
「埼玉勢!そこの拓也もちなみに埼玉だよ〜」
知ってますけど。
幼稚園の頃からずっと同じ埼玉のずっと
同じ入間のずっと同じ学校でした。
なんて言えるわけもなく。
「失礼し」ー
ー「最後に指差したら帰って!」
は?
何、終電間際の女の子に。
「ちょっと何終電間際の子に言ってるんですか」
まずい、
周りが注目して俺を見てる。
柳葉さんですよ、って流れもつまんないし、
俺は、
心の動くままの方向に指をさした。
「失礼します〜」
とにかく走った。
俺の指をさした方向には、
拓也と涼紀がいた。
「おい、どっちが指さされたか分かんないけど駅まで送ってやって」ー
ー拓也が走り出した。
「翔子ちゃん!」
私が必死に走る。
拓也から逃げるように。
「1人で帰れます!」
「違うんだ!待って」
まずい、
あと3分で、
12時になってしまう!
「待って」
待てるわけないじゃん。
俺は改札を通り、必死にホームは駆け抜けた。
電車の発進ベルが、まるでシンデレラの童話で出てくる鐘の音に聞こえて、
終電が馬車に見える。
「その姿でいられるのは、12時まで」
そんな魔法使いの言葉を
なんで忘れていたのだろう。
後ろには拓也が追いかけてきていた。
なんでここまで?!
あ、
鍵忘れてる。
拓也は俺の家の鍵を持っていた。
やっぱりいつも優しいんだね、拓也は。
でもごめん。
「あ!!星野源!」
「え」
そう言って、拓也が振り返ったすきに
電車に乗る。
「発車します」
どんどんすね毛が濃くなり、
胸がなくなり、
髭が生えて、
美人が一気に、ただコスプレオタク男子に変わっていく。
これが現実だ。
拓也は電車を見つめる。
きっと俺がいなくて、不思議なんだろうな。
すごい必死に翔子を探してる。
俺は電車の窓に映る拓也のかっこいい姿を
じっと見つめた。
なんか、
胸が痛んだ。
つづく




