9話 精霊魔法とエント族
「今更なんですが……。ここ、どこですか?」
ファルチェはファベルに問いかけた。
「ここは魔法大国、マージア。魔法道具創りが盛んな国だ。
今ファルチェがいるのは、俺の家でもある魔法工房喫茶 グリモワール。俺は彫金師をしてるんだ」
ファルチェはなるほどと呟き
「今この国は春、なんですね」
と確かめるように言った。ファベルは口許に笑みを浮かべて頷いた。
ファルチェは鉢植えに咲いている、ピンクと白の花を指差して言った。
「それ、エスタシオン……ですよね?季節の訪れを知らせてくれる花」
ファルチェの問いに、ファベルは
「そうだよ」
と言った。
エスタシオンは、時期と気温の変化で咲かせる花を変えるのが特徴の植物だ。春にはピンクと白、夏には黄色とオレンジ、秋には藤色とクリーム色、冬には深紅とライトグリーンの花を咲かす。エスタシオンがある国は、その季節の色が咲いたときを今の季節とする。季節が一定のエムロード国、クリスタロス国などにはない。ファルチェは自分の居たとこで、見たことがあったのだろう。
「いくつか……、お聞きしてもいいですか?」
ファルチェの問いに、ファベルは頷いた。
「どうして私がエント族だって、ドリアイドの宿主だって分かったんですか?」
深緑色の髪と灰色の瞳、とファベルは言ってから
「さっきも言ったと思うけど、ファルチェの髪色と瞳を見れば分かるよ。ドリアイドに関しては、俺はその特徴をもつ植物を1つしか知らない。ファルチェに確認するまで信じられなかったけどね。
精霊遣いだって分かったのも、エント族は精霊遣いの一族だからっていうのもあった。それに守り石だったら欠片で持ってるわけないし、消去法で精霊石かなって」
エント族以外にも精霊遣いの人はいるけどね。と笑いながら言った。
精霊石は精霊王の名を冠した石のことだ。精霊が視え、精霊が呼びかけに応じてくれ手を取れば、その精霊と契約したことになる。契約したときに、その契約した精霊の眷属なら石の欠片を、王なら石を渡される。精霊石を持ち、行使する魔法を精霊魔法という。精霊魔法を遣う者を精霊遣いという。
「魔法とか魔法道具のこととかは色々知ってるけどさ、エント族のこととか精霊魔法のことは最低限しか知らない。だから、守る上でも色々教えてもらえると嬉しい」
ファルチェが嫌とか知られたくないとかじゃなければだけど。とファベルは付け足した。
「ファベルさんに知られるのは嫌じゃない、です。私の素性を知った上で匿ってくれるのだから」
ファルチェの言葉にファベルはホッとした。ファルチェはゆっくりと語りだした。
「ファベルさんは、エント族のことと精霊魔法についてどこまで知っていますか?」
「エント族についてだと、外見的な特徴は深緑色の髪と灰色の瞳をもつってこと。精霊遣いの一族だってこと。
精霊魔法についてだと、前提条件として精霊が視えること。精霊と契約したときに、石の欠片とか石を渡されるからそれで魔法が遣えるということ」
ファベルの言葉にファルチェは頷いた。
「私達エント族がどこで暮らしているかはご存知ですか?」
「え、どこかの国に住んでるんじゃないのか?」
ファベルの言葉にファルチェは小さく頷いた。
「私達、エント族は精霊の森に住んでいます。精霊の森は全ての国に属し、全ての国に属さない。どこの国からでも「入り口」さえあれば入れます。精霊の森はエント族以外の侵入は拒みます、基本的に」
ファルチェの言葉にファベルは
「基本的に?」
と聞き返した。ファルチェは頷き続ける。
「精霊の森はエント族以外の侵入は拒みます。精霊に害がない人だったり、助けを必要としている人には「入り口」は開かれます。ただ、ドリアイドによる幻惑がかかっているから、入れたとしても目的地にたどり着けるかはその人次第です。
精霊の森には精霊魔法を学ぶ学校もあります。精霊魔法以外にも学べます。精霊魔法は生体魔法がほとんどで、学校で学んでから獲得魔法として遣う人もいます」
「だからほとんどエント族の情報がないんだな」
ファベルの言葉にファルチェは頷いた。ファルチェは更に続ける。
「色彩変化で自分の見た目を変えて、精霊の森以外で生活している人もいます。仕事としては、薬師と調香師が多いです。私自身も色彩変化は遣えますし、薬草学にも精通してます。
エント族は総じて精霊遣いの一族ですけど、色々な派閥というか一族がいます。水を司る精霊遣いの一族とか風を司る精霊遣いの一族、夢を司る精霊遣いの一族とか色々。私は精霊の森を管理する一族の出身なんです。ドリアイドの宿主でもあります」
「もしかして、精霊の森を管理する一族にしかドリアイドは宿らない?」
「そうです。ドリアイドがどんな植物かは、ファベルさんはご存知ですよね?」
「見た目はエメラルドグリーンの蔓と葉に水色の花。最大の特徴は寄生植物だってこと。宿主が死ねばドリアイドも死ぬって聞く。レア中のレアで幻レベルの植物だ」