8話 出会い
あれから1週間が経った。ファベルは薬草園に向かっていた。向かう途中でファベルはふと足を止めた。
(この気配……)
不意に感じた気配に従い方向を変え、歩きだした。しばらく歩くと、開けた場所にたどり着いた。そこに深緑色の髪の少女が倒れていた。ファベルは翔よって
「大丈夫か?」
と声をかけたが、返答はなかった。ファベルは周囲を見回した。
(さっき感じた気配はこの子の魔力反応だったのか……。でも、この子だけじゃない、複数の魔力反応の気配がある。それに……)
ファベルは倒れている少女を観察した。深緑色の髪には、エメラルドグリーンの植物のツルのようなものが絡み付いている。それには水色の蕾のようなものがポツポツついていた。ファベルはこの特徴をもつ植物を、1つだけ知っている。けれど信じがたかった。
(まさかこの子……。確認は本人にするとして、とりあえず)
「展開」
ファベルは鍵束を取り出し、その場に突き立た。ファベルを中心として、不可視の防御壁が展開された。展開されたことを確認すると、ファベルは少女を抱えて自宅でもある店に向かった。
ー⭐ー
痛い、怖い、苦しいーー。
深緑色の髪の少女は、ハッと目を覚ました。ベットから起き上がる時に、傷がズキズキと傷んだ。周囲を見渡して
(……ここ、どこ?)
と思った。そして
(私、追われて...…。魔法で応戦したけど、2人一緒だったから分が悪くて、攻撃を捌ききれなくてそれで……)
そこまでは思い出せるのに、そこから先、なにがどうしてこうなったか、全く思い出せないでいた。
コンコンとノックの音がして、
「入るよ」
と声が聞こえてすぐにガチャと扉が開く音がして、ファベルが入ってきた。少女はビクッと体を振るわせはしたものの、声をかけられていたため驚かずに済んだ。
「良かった。目が覚めたんだ。結構深い傷だったから……。俺の名前はファベル。君の名前は?」
少女は
「……ファルチェ」
と言った。ファベルは柔らかく笑って言った。
「俺はファルチェを傷つけようとしてる連中じゃない。って言っても怖いよね。とりあえず、傷つけようとしてる連中じゃないってことは分かってくれると嬉しい」
ファベルがそう言うと、ファルチェはコクンと頷いた。ファベルはファルチェの灰色の瞳を見て確信した。
「単刀直入に聞く。嫌だったら答えなくてもいいよ」
ファベルはそう言うと
「ファルチェはエント族だよね?それもドリアイドの宿主でもある」
ファベルの問いに、ファルチェは思わず目を見開いた。
「……どうして」
「ファルチェの髪と瞳を見れば、分かる人には分かる。それに、ドリアイドはエント族しか宿主として選ばない」
ファベルはさらに続ける。
「くどいようだけど、俺はエント族だからって理由で、ファルチェのことを傷つけようって思ってる訳じゃない。むしろ、ここにいてほしいと思ってる。
ファルチェは今、誰かに追われているよね?ファルチェの倒れていた周辺には、複数の魔力反応があった。戦闘の形跡も。追われてた理由はなんとなく見当がつくけど、いつ追手が来るか分からない状況で、怪我も治癒魔法で癒したとはいえ、完治してない状態で放置することはできない」
ファルチェはそこまで聞いても半信半疑だった。でも、ファベルのことを危険だとも思えなかったし、それにファベルの申し出は、ファルチェにとってありがたかった。いつ追手が来るか分からないから。ファルチェの戸惑いを察知してファベルは
「おいで」
と手招きした。そして、部屋のドアを開けた。ファルチェは恐る恐るついていった。
扉の向こうには庭園が広がっていた。ファルチェは驚いて目を見開いた。
「ここは俺の薬草園になる。ここの世話を頼みたいんだ。なにもしないで匿ってもらうのは気が引けるのかなって思って。それに、水と風の精霊と契約してるならできるかなって思ってさ」
「なんで分かったんですか?私が水と風の精霊と契約してるって」
ファルチェの問いにファベルは
「ラピスラズリと翡翠の欠片が付いてるのを見たから。その2つって精霊石でしょ?それにエント族は、精霊遣いの一族だから」
ファベルは笑って言った。
(私の素性を知ってて、匿ってくれるんだ……)
ファルチェの心に迷いはなくなっていた。ファベルの方を向き
「よろしくお願いします」
と頭を下げた。ファベルはそれを見て柔らかく笑って言った。
「困ったことあったら遠慮しないで言って。怖いことがあってもね。部屋はここ、使ってていいから」
ファベルの言葉にファルチェは頷いたのだった。