7話 きっかけ
営業再開した店に戻り、明日の準備をしているファベルにクラリンスはコーヒーを飲みながら聞いた。
「ファベルはなにがきっかけで、先天性魔力自閉症だって気がついたんだ?」
クラリンスの問いにファベルは言った。
「魔法について学ぶ事が許される年齢は6歳。そのぐらいの年齢になると、魔法学校に入学して魔法適性検査があるだろう?俺はその時に確信したんだ」
まぁ最も、とファベルは続ける。
「なんとなくそんな感じはしてたんだよなぁ。周りは何かしらの魔法の予兆があって、なかには遣えてる子もいたのに、俺にはそれがなかったから」
クラリンスはさらに問いかけた。
「ファベルはどこの魔法学校に行ってたんだ?マージアにもあるし、他国にもあるだろう?」
魔法学校は各国に1校必ずあり、6歳から入学することができ18歳で卒業する。魔法学校の学科や専攻はその国にある魔法学校によって異なる。
ファベルはクラリンスの問いに、手を止めることなく答えた。
「プルミエ魔法学校 魔法彫金学科 魔法工学専攻」
クラリンスはその言葉を聞いて、口をあんぐり開けた。プルミエ魔法学校は、数ある魔法学校の中でも最高峰の魔法学校だ。
「自分の意思で魔法は遣えなくても、守り石の能力で魔力を自在に操作することはできたからね。彫金師になるしかなかった」
皮肉なもんだよな、とファベルはポツリと言った。
「俺は魔法が遣えないのに魔力等級は上。なのに魔法彫金で魔法道具を創ってなきゃ、生きていられない」
予測不能な時限爆弾付きの身体なんだよ。とファベルは守り石を眺めながら言った。
「さっきも言ったけど、同情しないでくれよ。俺は後悔してないし、タイミングが重なったから話しただけだ。クラリンスのせいじゃない。いずれ話さなきゃいけない事だったしな」
ファベルはクラリンスにコーヒーを入れ直しながら言った。クラリンスはそれを飲みながらふと聞いた。
「ファベルはなんで俺に話そうって思ったんだ?いずれ話さなきゃいけない事だって言ってたけど」
クラリンスの問いに、ファベルは少し考えながら言った。
「何となく。それに隠し事してるみたいで、俺が嫌だなって思ったから」
「そうか」
ファベルの言葉にクラリンスは一言そう言った。そういえば、と気になったことを聞いた。
「守り石の能力って個人によって違うって聞くけど、そうなのか?」
クラリンスの問いにファベルは「違う」と即答した。
「守り石は自分の分身。だから固有の能力も違うし、不用意に見せないほうがいい。守り石が割れたり壊れたりしたら、自分にダメージがくるから」
ファベルの言葉にクラリンスは思わず
「じゃあなんで、それ知ってて俺に見せたんだよ」
とツッコんでしまった。それを聞いたファベルは
「信用してるから。それにあれは見せなきゃ解らねぇだろ」
と言った。クラリンスは「確かに」と思った。
「守り石の加護って聞いたことあるか?」
ファベルは不意にクラリンスに聞いてきた。クラリンスは首を横にふった。
「守り石の能力は個人によって異なり、それに気づくのも個人で異なる。基本的に守り石に宿ってるものなんだけど、ごく稀にあるみたいだぞ?それが守り石じゃなくて、人に宿る場合が。それを守り石の加護って言うんだ。そして守り石の加護を持つ者は、守り石の名を冠するんだ」
クラリンスは「あっ」と思わず声が出た。
「エムロード国のサフィール姫王!」
クラリンスの言葉にファベルは頷いた。
「サフィール姫王は過去と未来を視る能力を持っていて、自分の守り石と王家の守り石をどっちも持っているらしい。それに魔力等級は7で、風と水と氷の魔法の遣い手らしい」
「ファベルってそういうのってどこから聞いてくるんだ?」
やけに詳しく言うものだから、クラリンスは思わずファベルに聞いてしまった。
「ここは色んな人が来るからそれで」
ファベルはさらりと言った。クラリンスは思わず苦笑いした。
店ーーグリモワールには平和な時間が流れていた。