6話 先天性魔力自閉症
ファベルは戸惑うクラリンスを連れて地下室へ向かった。クラリンスは戸惑いながら言う。
「店、放っといて良いのかよ?」
クラリンスの言葉にファベルは
「まだ店の看板、準備中のままだから無問題」
と言った。クラリンスは納得していいのかどうかという顔をしていた。
地下室に入った瞬間、クラリンスは驚いた顔をした。無理もないと思う。この地下室の壁や床にはびっしりと魔方陣が書かれているし、魔法石だって置かれているんだから。
「ここ……、一体なにをやる部屋なんだ?」
クラリンスの言葉にファベルは言った。
「ここは彫金室。魔法道具を作ってる部屋になる」
「上に影響ないのかよ!?」
クラリンスの言葉に、ファベルはしれっと返す。
「ないない。だって壁と床に書かれる魔方陣は防御魔法だもん。魔力暴走ぐらいで壊れるような魔方陣じゃないし、そもそもの建物にだって何重にも防御魔法が書かれてるんだから。そこら辺の建物より頑丈だと思うよ」
ファベルの言葉にクラリンスは呆れた顔をしていた。
「で、ここでなにをするつもりなんだ?」
クラリンスの言葉にファベルは躊躇いなく答える。
「俺を殺すつもりで攻撃してくれないか?」
クラリンスは呆けた顔をした。
「お前……正気か?」
「正気だとも。それにこれから俺の病気についても説明しようと思ってたし。だったら実践しながらのが絶対分かるから」
(理解不能……)
クラリンスは心の中でそう思った。けど、やるしかないのだろう。
「それじゃお手柔らかに」
クラリンスの声で、ファベル達は組み手を始めた。
ー☆ー
ー先天性魔力自閉症(通称CMA)は自分の魔力を自らの意思で外に放出できない魔力障害の一種だ。魔法道具や魔力石、魔法石を介してなら魔力を外に放出できる。
「それじゃお手柔らかに」
ファベルはクラリンスにそう言った。ファベルもクラリンスも素手だった。先手を撃ったのはクラリンスだった。
『イフリート』
クラリンスの周辺に、陽炎が出現し、火花が現れた。クラリンスは手をファベルに向けた。そして
『爆発』
そう言うと火花が爆ぜた。
『ウンディーネ』
ファベルは手を横に払った。水の壁が生まれる……はずだった。
「おい、なんで魔法……」
クラリンスは発動しないんだ。と続けたかったのだろう。次の瞬間、クラリンスは驚いた顔をし、口をあんぐり開けた。無理もない。魔法語を詠唱したのにも関わらず、魔法が発動しなかった。しかし、詠唱した数秒後にクラリンスの目の前に水の壁が展開されていた。ファベルは無詠唱で魔法を発動してしまったのだから。
訳が解らないという様子のクラリンスにファベルは笑いながら言った。
「俺は魔法語という一種の枷を付けられると魔法が一切使えなくなる。だけど……」
懐から金色の鍵束を取り出した。
「魔法道具や魔方陣を遣うことで事象を起こすことができるようになるんだ。魔法道具や魔方陣になら魔力を流すことは容易だし、大概の人は俺が魔法を遣ってるって勘違いしてくれる」
「ちょっと待て」
クラリンスが確かめるように聞いてきた。
「ファベルが患っている病、先天性魔力自閉症ってのは、自分の意思じゃ魔力を放出できないんじゃないのか?」
クラリンスの問いにファベルは答えた。
「そう俺は自分の意思で魔力を外に放出できない。魔力石には、磁石みたいに魔力を引き寄せ吸収する性質があるんだ。魔力石に魔法を組み込んである魔法石も同じ。それで魔方陣は魔法語を図式化したもの。そこに俺の魔力を注ぐことで魔法を遣えるようになる。だから俺は魔法が遣えるってわけ」
「分かったような、分からないような」
クラリンスはそう言い、首をかしげた。ファベルはそれを見て作業台に向かい、作業台の引き出しから無色透明の実を取り出した。
「これはまだ、魔力を注がれてない魔法石だ。魔法石には磁石みたいに魔力を引き寄せ吸収する性質がある。だから手を近づけると」
ファベルがそう言って手をかざすと、魔力石がボゥと鈍く白く輝きだした。鈍い輝きが明るい輝きに変わるのを見て、ファベルは言った。
「これで魔力石に魔力が注ぎ込まれた状態になった。ここに籠める魔法のモチーフを、魔方陣と一緒に刻み込むことで、魔法石として使用可能になる」
ファベルはそう言って、円の中に五芒星を書き五芒星の中心に雫を抱いた乙女を書いた。それをクラリンスにも見せ
「これで創造の水の魔法が遣える」
と言った。そしてファベルはクラリンスに透明の石を見せた。そこには6の数字が刻まれ、クリーム色の液体が中に入っていった。ファベルはそれをクラリンスに見せながら言った。
「これは俺の守り石。この中には魔力樹の花で創った魔力液が入ってる。魔力液は、魔力に反応して魔力の可視化ができたり魔法薬とか魔法道具の補助剤になったりするんだ。俺は重傷化しないようにするために、この液体を入れてる。それに俺の守り石の能力は魔力を自在に操作するだから。守り石の能力を使って俺は魔法道具を作ったりしてる」
クラリンスは納得したように頷いた。
「実践つきのが分かっただろ?」
クラリンスに向かって、ファベルは言った。クラリンスは言いにくそうに聞いた。
「重症化するとどうなるんだ?」
ファベルはさらっとなんてことないという風に言った。
「自分の器が一杯になって、自分の魔力で死ぬ」
ファベルは続けて言った。
「自分の魔力が体内で暴発するんだ。魔力量が多ければ多いほど、致死率が上がる。だから俺は魔法液を中に入れた。自分の魔力を可視化するために」
クラリンスがなにか言おうとした分かった。ファベルは遮るように言う。
「同情しないでくれよ。俺は絶望なんてしてない。俺は進んでお前に話したんだ。頼むから、無理に言わせたとか思わないでくれ」
ファベルはクラリンスに向かって笑って言った。
「そろそろ上に戻ろう。明日の準備もしなきゃだしな」
俺はそう言って、地上に戻った。