5話 魔力と魔法と魔法道具
「魔法道具ってなんだ?」
店に戻る途中、クラリンスが不意に聞いてきた。ファベルは思わず首を傾げた。
「俺は、魔法道具についてほぼ何も知らない。なんなら、魔法についても最低限しか知らない。だから、教えて欲しいと思って」
クラリンスの言葉にファベルは笑って頷いた。
「クラリンスはどこまで何を知ってる?」
ファベルの問いにクラリンスは
「魔法学校で守り石に魔力等級が刻まれて、その時に魔法の適性検査が行われること。魔力等級によって、魔法の威力、耐久力、持続時間とかが変化すること。魔力の応用で、最低限の防御壁と治癒、身体強化ができる」
と言った。それを聞いたクラリンスは
「生体魔法と獲得魔法、聞いたことあるか?」
と聞いた。クラリンスは首を横にふった。ファベルは続ける。
「生体魔法は生まれながらにして使える魔法のこと。獲得魔法は適性のある魔法を学び、獲得して使える魔法のことを言うんだ。生体魔法でも獲得魔法でも、意匠は学校を卒業したときに渡されるんだけどね。
そもそも、生体魔法を持ってる人自体珍しいんだよ。仮に生体魔法を持ってたとして、魔法を扱う技術を学ばないと暴走に繋がりかねない。生体魔法でも獲得魔法でも、魔法について学ばなければならない」
ファベルはそこで一旦言葉を切った。一呼吸おいて、ファベルは話し出した。
「魔法道具は魔法彫金した金属に、魔法石を組み込んで作る道具のことを言うんだ。魔力等級5以上だったら誰でもできるけど、魔法学校で金属工学について学ばなければならない。使える使えないに関わらず、一通りの魔法は知らないといけない」
「それはなんで」
クラリンスの問いにファベルは答えた。
「魔法道具は不特定多数の人に必要とされる道具だ。サラみたいに暗黒を必要としている人もいれば、明光を必要としている人もいる。どの魔法にも対応できるように知らないといけない」
ファベルはそこまで話終えると言葉を切った。気がつけば店に着いていた。
「ちなみに、これが魔力石の木ね」
ファベルが指差していたのは、1mぐらいの大きさの木だった。モスグリーンの葉に黄色の花がいくつか咲いていた。クラリンスは驚いた。何故なら
「魔力石って石じゃないのかよ⁉」
クラリンスの発言にファベルは大笑いした。
「俺も最初それを思ったよ。ちなみにこの木の名前は魔力樹って言うんだ。春と秋に花が咲いて、夏と冬に実をつける。俺は魔法学校に通ってたときに訳あって貰ったんだ。どのみち、彫金師として店を構えるのには必要だったし」
そう言いながら、ファベルは店の中に入っていった。クラリンスはそれを追いかけながら聞いた。
「その訳って一体なんなんだ?」
困ったように笑ってるファベルを見て、クラリンスは慌てて
「嫌なら無理に言わなくてもいいぞ。ただ気になったから...」
と言った。ファベルはクラリンスを見てポツリと言った。
「先天性魔力自閉症(Congenital Magic Autism)」
「…え?」
クラリンスはファベルが言ったことが一瞬分からなかった。
「俺、それなんだ。詳しく話すから地下室いくぞ」
ファベルはそう言って地下室へ向かった。クラリンスはその後を慌てて追った。