4話 永遠の絆Ⅱ
ー私はあの日のことを忘れられない。
ずっと記憶に張り付いて、消すことができないのだ。だったら。
ーこの想いで、あの人を殺してしまおう……。
ー☆ー
時間通りにサラは来た。昨日のように、深い闇を宿した瞳をして。
「本当に良いんですね?」
ファべルは確認するように聞いた。サラは迷う素振りを見せずに頷いた。ファべルは軽くため息をつき、濃い紫の十字架の意匠で中心にブラットストーンが埋め込まれているピンブローチをサラに渡した。
「暗黒 永遠の絆が籠められた魔法道具です」
クラリンスはなにか言いたげにこちらを見ていた。
「これがそうなのですね。依頼を受けてくださりありがとうございます」
サラはカウンターの上に5アルマを置いた。
「依頼の報酬です。足りますか?」
サラの言葉にファべルは頷いた。むしろ多いくらいだ。
「では、失礼しますわ」
サラはそう言い、店をあとにした。
「ありがとうございました。またのご来店、お待ちしております」
ファべルはそう言い丁寧にお辞儀をした。
「ファべル…」
クラリンスの声にファべルは無表情で答えた。
「分かってる。行くぞ」
ファべルとクラリンスは店を出てサラのあとを追った。
ー☆ー
私は約束の場所に向かった。
「久しいな、元気だったか?」
栗色の髪をした男ーランディが声をかけてきた。私は笑って、
「お久しぶりね。元気よ」
と私は言った。
「話ってなにかしら?」
私は本題をきりだした。ランディは笑みを深くして言った。
「君と再婚したいんだ」
ランディの言葉に私は吐き捨てるように言った。
「嫌よ。自分の子を贄に提供した貴方となんか、居たくないわ」
私の言葉にランディは口調を変えた。
「望まぬ子など産むからだ。俺には関係ない」
私はなんとなく気づいていた。ランディは悪魔降ろしの魔法実験以外に興味を示さない。悪魔を召喚するために、自分の子を平気で贄として提供できてしまうぐらいだから。
「私は貴方を赦さない……!」
私は濃い紫色をしたピンブローチに触れた。ピンブローチから黒い光が溢れ、蠢いていた。
「‼ それは……」
ランディはピンブローチに組み込まれている魔法に気づいていたのだろう。金色の魔法道具ー恐らく明光の魔法が組まれている魔法道具を取り出した。魔法を展開しようとしたけど、先に私が発動した永遠の絆が魔法を完成させていた。
ーピンブローチから溢れた黒い光がモゾモゾと蠢き、人の形に変化していった。
「エリウス……」
ランディは掠れた声で自分の子供の名を呟いた。黒い光はエリウスに変化していた。
エリウスは感情のない瞳でランディを見据えていた。そして、金色の刀身をを持つ剣をランディに向けた。
「その剣は……。やめろ、やめてくれ‼」
ランディは背を向けて走り出した。エリウスはランディを見据え、手に持っていた剣を投げた。
「うぐああぁあぁあぁ……」
エリウスの投げた剣が背を貫き、ランディは倒れた。エリウスは背に刺さった剣をおもむろに抜き、ランディをメッタ刺しにしだした。
ぐちゃぐちゃ、ぐちゃぐちゃ……。
「ランディ、貴方がエリウスをどうやって殺したか忘れたなんて言わせないわよ……」
もう声をあげなくなったランディを見下ろし、私は言った。ふと、視線を感じ顔をあげると、そこには血で真っ赤に染まった剣を構えるエリウスがいた。
「……え?」
私は訳が解らなかった。混乱している私を、エリウスは感情のない瞳で見据え、剣を構えて走り出した。
ーー私の心臓に向かって。
胸を斜めに斬られたのが解った。不思議と、痛みは感じなかった。エリウスの姿は霧のように霧散して消えた。
薄れていく意識になか、私は聞き覚えのある声を聞いた。
「あんな男を呪い殺すために、貴女は暗黒を遣ったのか」
私は聞かれた問に微かに頷いた。掠れた声で私は言った。
「あの男は私の子を黒魔法実験の贄にしたの……。だからどうしても許せなかった」
私の言葉に、声は言った。
「貴女は暗黒永遠の絆がどんな魔法かご存知ですか?」
私は頷いた。
「……暗黒は少ない魔力で相手を簡単に殺せる、数少ない魔法です。その代わり、代償も大きい。威力が強力になればなるほど、代償も大きくなる。貴女はそのことをご存知でしたか?」
私は首を振った。代償なんか、全て一緒だと思っていた。
「暗黒の基本は「等価交換」だ。望んだ絶望の分だけの代償が自分に還ってくる」
声の主がなにか凶器を出した気配がした。
「貴女の魂が、冥府の神 ハデスに受け入れられることを祈っています」
その声を最期に、私の意識は途切れた。
ー☆ー
サラが店を出たあと、ファベルとクラリンスはサラの跡をつけた。サラの瞳に宿る憎しみの根元がなんなのか、知りたかった。あの男ーランディとのやりとりを聞いて、クラリンスは不快な気分になった。同時にサラを哀れに思った。
ーそんなことのために、貴女は暗黒を遣いたかったのか。
暗黒の基本は「等価交換」だ。自分が望んだ絶望の分だけ、対価が必要となる。少ない魔力で相手を殺すことのできる数少ない魔法でもある。暗黒を頼るしかないほど、サラの憎しみは深かったのだろう。
ファベルはそっと、漆黒の鎌を取り出した。ファベルが漆黒の鎌を取り出すのを見て、クラリンスは何か言いたそうにしていた。クラリンスが言い出す前にファベルは
「貴女の魂が、冥府の神 ハデスに受け入れられることを祈っています」
そう言って、鎌を振り下ろした。
「…良いのか、ファベル」
クラリンスの言葉に、俺は頷いた。そして言う。
「悪魔降ろし 死神の鎌は相手の魂を狩る事のできる魔法だ。
それに良いも何も、あのままにはできないだろ」
そこまでする必要があったのかどうか、クラリンスには分からない。けれどあのままにしておくことはできないと思った。
「行こう。これ以上、店を留守にはできない」
そう言って、クラリンスとファベルはその場を後にした。