3話 永遠の絆Ⅰ
「呪いの力を持った魔法道具なのですが…。お願いできますか?」
栗色の髪を持つ女性が口にした言葉にクラリンスとファベルは互いに顔を見合わせた。
「確認ですが、貴女は暗黒の力を持つ魔法道具が欲しいということで、お間違いないですか?」
ファベルの言葉に女性は静かに頷いた。ファベルは思わず顔をしかめた。
暗黒は対象者に呪いだったり、自身の身体を直接変化させることができる魔法だ。暗黒の特徴は、使用する術者は代償や呪いを必要とされることだ。例えばボディキャンドルは対象者を蝋燭とし溶かす魔法で、代償は解呪されたとき対象者の代わりに自分が溶けてしまう。マリオネットは対象者の精神に干渉し、自分の意のままに操ることができる魔法で、代償は解呪されたとき精神崩壊を起こし廃人にしてしまう。この他の代償としては記憶喪失になる、感情を失う、全身に激痛が走るなどがある。お守りなどで回避できてもお守りなどの効力が切れた場合、蓄積された呪いや代償が一気に自分に降りかかる。それを知っていて、この女性は暗黒の力を持つ魔法道具が欲しいと言っているのだ。
(この人は代償を払ってまでして呪い殺したいのか…)
ファベルは女性が何を考えているのか解らなかった。それはクラリンスも同じだろう。最初に沈黙を破ったのはファベルだった。
「…どのような魔法道具がお望みですか?」
「ファベル…」
何か言いたげなクラリンスを目で制し、ファベルは続けて聞いた。
「暗黒は下手な物理攻撃より殺傷能力も高い。それを承知で貴女はこの魔法が籠った魔法道具を望みますか?例えそれが、どんな代償を払うことになっても?」
女性は柔らかな笑みを浮かべて言った。
「私の名はサラ。私はどうしても殺したい相手がいるのです。でも私にはそんな力はない。だから暗黒の力が欲しいのです」
女性ーサラは淡々と言った。サラは本気で言っているとファベルは改めて感じた。
「……分かりました。では、明日のこの時間、魔法道具を取りにお越し下さい。お待ちしてます」
ファベルの言葉にサラは笑みを深くした。
「ありがとございます。楽しいみしております」
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「良いのか?あの依頼を受けて」
クラリンスの言葉にファベルは苦笑した。
「だってああするしかなかったんだから仕方ないだろう?それに魔法道具も喚んでるし」
「魔法道具が喚んでる?」
クラリンスは首を傾げた。
「魔法道具は術者を選ぶ。魔法道具によっては勝手に術者のところに行くのもあるからな」
ファベルの言葉にクラリンスは驚いた。クラリンスは魔法道具についてはほぼ無知と言ってもいい。
「あの場で暗黒の力が籠った魔法道具を渡したしても良かったんだけどね……。ちょっと厄介なやつだから」
「一体、どんな魔法道具がサラを喚んだんだ?」
ファベルは少し言い淀んだ。どこか躊躇うように、ゆっくりと言った。
「暗黒 永遠の絆が籠められた魔法道具。殺したい相手を一番惨い殺し方で殺すことができる魔法道具だ」
「一番惨い殺し方ってのは……」
「相手がこんな死に方をしたくないって思ってる死に方で殺される」
ファベルの言葉にクラリンスは言葉を失った。まさにサラにぴったりな魔法道具だからだ。
「……代償は?」
ファベルは顔をしかめて言った。
「術者にも呪いが適用される」
「はあ?」
クラリンスは絶句した。本当になにも言えなくなってしまった。
「暗黒永遠の絆は精神に作用する魔法だ。暗黒の中でもかなり厄介な魔法になる。術者も対象者も死ぬんだから」
本当にたちが悪い。誰が望んでそんな魔法を考えたのだろうか。呪いと呪いは紙一重だ。望みかた次第では祈りは呪いへと変わってしまう。
「サラは誰をそこまで恨んでいるのか、俺には分からない。魔法道具を渡したあと、尾行しようと思ってる」
ファべルの言葉に、俺はゆっくりと頷いた。