16話 思い出コロン1
プルースト効果。香りで過去の記憶や感情が蘇る現象のことをいう。嗅覚情報が脳の記憶や感情領域(海馬、扁桃体)に直接伝わるためこのような現象が起こるーー。
ー☆ー
ファベルがファルチェの所に行く1時間前。店を開けてすぐのことだった。カランカランとドアベルが鳴り
「あの……。ここで魔法道具の依頼ができるって聞いたんですけど……」
と1人の男性が入ってきた。ファベルは男性に
「できますよ。どのような魔法道具でしょうか?」
と声をかけた。
「香魔法の魔法道具なんですけど可能でしょうか?」
「お時間頂ければ可能ですけど、それでもよろしければ」
ファベルの言葉に男性に表情が輝いた。ファベルはその表情をみながら、さりげなく男性を観察していた。
紺色の髪と瞳。どこにでもいる男性に見える。暗い感情を瞳に宿している風でもない。なのに
(俺の気のせいか?)
どことなく危うい雰囲気があるような気がした。
そんなファベルをよそに、男性は言った。
「思い出コロンの魔法道具なんですけど、どうでしょうか?」
思い出コロンは香魔法の1つで、家族や恋人など親密な人を対象者とする。使用方法は、対象者の「思い出の香り」を特殊な香水に閉じ込めて使う。使い方次第では、思い出を記憶を縛りつけてしまうこともできる魔法である。
「思い出の香りはお持ちですか?」
ファベルは男性に聞いた。
「あります」
これです。と男性はファベルに香水を渡した。
「よく使ってるやつなんです。香水だし、そのまま渡してもいいんだろうけど」
覚えててほしいから。と男性は言った。その言葉を聞いて一抹の不安を覚えながらファベルは
「今から創るので、お名前聞いてもいいですか?」
そう聞いたファベルに男性は
「リクです」
と笑って言った。ファベルは男性ーリクに
「分かりました。少々お待ちください」
と言って工房に向かった。
ー☆ー
ファルチェはファベルからことの顛末を聞いていた。
「創るのは構いませんけど……。創って問題ないです?」
「問題とは?」
ファルチェの言葉にファベルは首をかしげた。
「ファベルさんと私じゃ魔力等級が合わないですし、創ったあとトラブルになりませんか?」
「大丈夫だよ~。そもそも思い出コロンだったらそこまで魔力等級は関係ないし。複雑な作業もないし」
ファベルの言う通りなのだが、なんとなく不安げな顔をしているファルチェにファベルは続ける。
「創ったあと俺も確認するから大丈夫。おかしかったら言うし」
ファベルの言葉にファルチェはコクンと頷き、ファベルから預かった香水を持って調香調薬室に向かった。
調香調薬室に入り、棚から特殊な香水瓶を出し作業台に置き、預かった香水も置いた。ファルチェは作業をする前に深呼吸をした。
『香魔法』
ファルチェがそう呟くと、香水瓶が輝き出した。
『思い出』
香水瓶の輝きが増し、グリーンの優しい香りが漂いだした。
(これは……)
ファルチェは預かった香水から思い出を垣間見た。そして背筋がゾッとした。
(ファベルさんは気がついているかしら……)
言うべきかどうか。悩んでいるうちに魔法は完成した。
「完成したかい?」
調香調薬室を出たファルチェにファベルはそう聞いた。
「完成はした、んですけど……」
歯切れの悪いファルチェにファベルは
「依頼人はたぶんストーカーだろ?」
「……なんで」
ファルチェはなんで分かったんだろう。どうして依頼を受けたのだろうと思った。
「なんかおかしいって思ってはいた。でも、こっちは基本的に依頼を拒否することはできないから」
確信はなかったし、気のせいかな?とも思ったけどねぇ。とファベルは言う。
「この依頼人、結構なストーカーですよ。これ、対象者に遣ったら記憶が縛りつけられかねないです。
というかなんで分かったんですか?私が香魔法を遣ったときに、断片が視えたんですか?」
できた魔法道具を確認しながらファベルは言った。
「アフターサービスっていう名で使用後を見るつもりでいる。
分かった理由はファルチェが言った通り、断片が視えたから」
できた魔法道具は渡すよ。と言って、ファベルは店に戻って行った。




