13話 薬草園
「この薬草園は地下1階、地上1、2階の3階建ての建物になる。今いる場所は地上1階で、俺の家にある部屋の茶色い扉から行けるよ。行き先を変えたかったら、ドアノブを回して行き先を変えられるからね」
薬草園に入ってすぐにファベルは言った。
「ファベルさんって本当に彫金師なんですよね?」
ファルチェは疑問に思ったことを聞いた。ファベルの問いにファベルは笑って答えた。
「そうだよ。店自体は工房喫茶だけどね。彫金師は彫金師なんだけど、薬の調合もできるからなんでも屋っていうのが正しいかも」
ファベルは袖をまくり腕輪を見せた。
そこには蛇が巻きついた杯の意匠と、金槌の意匠がついていた。薬師と彫金師の象徴だ。
ファルチェはあることに気がついた。
(魔法の意匠がない?)
確認する前にファベルは袖を元に戻していた。ファベルはファルチェの視線の気にした風でもなく続けた。
「地下1階には毒性のある植物とか寄生植物があって、地上1階には香草とか化粧植物がある。地上2階には陽光植物とか地上1階にあるのと違う香草があるよ」
(これ、全部管理できるのかしら……)
ファルチェの不安そうな顔を見てファベルは
「無論全部とは言わないよ。特に地下1階には危険な植物が多いし、精霊には酷だろう?できる範囲で全然構わない」
ファベルの言葉を聞いて、ファルチェはホッとした。そしてふと思った。
「ファベルさん、ここって調香調薬室ってどこにあるんですか?」
これだけの香草類があることから、薬や香草茶の販売があることは明白だった。
「地上1階にあるよ」
ファルチェは驚いた。何故なら
「地上1階って今私たちがいる部屋ですよね?一体どこに」
そう、それらしき部屋がないのだ。ファルチェは自分が見落としがあるのかと思った。
ファベルは笑ってベランダに向かった。ファルチェはファベルの後を戸惑いながらついていった。
ファベルはファルチェが後ろにいることを確認したあと、ベランダを開けた。そこにはガラス瓶やらすり鉢やらが置かれた棚が、所狭しと並べられた場所だったからだ。ファルチェは驚き呆然とした。
「ここが調香調薬室になってる。ベランダはベランダなんだけど、窓がマジックミラーになってて内側からは外が、外からは内側が見えない仕様になってる。地下1階と地上2階はここに階段があるから、そこからも行けるよ」
ファベルはそう言って部屋の隅にある階段を指差した。
「ちなみに、地上1階と地上2階の同じ場所は貯蔵庫として機能してる。見てみる?」
ファベルの申し出にファルチェは頷いた。ファベルは階段を降りて地下1階に向かう。
地下1階に降りてみると、壁一面にびっしりと引き出しが収まっていた。よく見ると毒草の名前が書いてあるのが見えた。ファルチェはそれを興味津々で見ていた。
「地上2階に行くよ」
ファベルの声にファルチェは頷いた。ファベルはそれを確認してから地上2階に向かった。
地上2階に行くと、地下1階と同じく壁一面にびっしりと引き出しが収まっていた。そこには香草の名前が書いてあるのが見えた。
「すごい、ですね」
ファルチェはそう言うのが精一杯だった。
「関連資料とか調合とか書いてある本は、ファルチェが使ってる部屋にあるから、それを見てもらえれば。自分で新しくなにか調合したとかも書いといてくれると助かる」
ファベルの言葉にファルチェは
(そこまで考えた上で、私の部屋をあそこにしたんだ)
そう思った。
「あと確認したいことはある?」
「いえ、大丈夫なんですけど」
ファベルの問いにファルチェはそう言った。少しの沈黙のあと
「ファベルさんはどうして」
ファルチェは一旦そこで言葉をきった。ファベルは黙って続きを促した。
「どうして私が香魔法を遣えるって分かったんですか?」
「昨日エント族で外で暮らしている人は、薬師と調香師が多いって言ってたからそうかなって」
ファベルはそう言ったが、ファルチェは納得しなかった。
「それだけ、ですか?」
ファベルは思わず苦笑した。
「ファルチェは薄々気がついてると思うけど」
そう前置きをしてから続けた。
「俺、人より魔力が強くてさ。なんとなくだけど魔力の波長とかが視えるんだ。相手がどんな魔法を遣ってるのか大体解るんだ」
これで納得してくれる?とファベルは聞いた。ファルチェはコクンと頷いた。
「この薬草園は、クラウト大森林にありますか?」
ファルチェはそう聞いてきた。これにはファベルは驚いた。
「なんで分かった?」
「これだけの香草や毒草が育つってことは、この薬草園の環境がそれだけ整備されてるってことなんだと思います。でも、それだけじゃないなって思って。クラウト大森林なら土の精霊の加護を受けているから、どんな植物でも必ず育つし」
だからそうかなって。とファルチェは言った。
「ファルチェの言う通り、この薬草園はクラウト大森林にある。でも、見つからないように厳重に不可視の結界を張ってあるから大丈夫。
もしそれでも不安なら、糸を突き立てて防犯にするといいよ」
ファベルはそう言い、ファルチェはその言葉にまた頷いた。
「一旦部屋に戻ろう」
そう言い、2人は部屋に戻った。
部屋に戻ってからファルチェは
「ファベルさんは夢視、なんですか?」
そう聞いたのだった。




