10話 秘密
エント族にはいくつか掟がある。いくつかある掟の中で絶対厳守とされている掟がある。
「全ての魔法の始祖だということを知られてはいけない」
そう、全ての魔法はエント族が広めた。創造も神降ろしも悪魔降ろしも……。精霊遣いでなくても、誰でも遣えるように。
ー☆ー
「今日はゆっくり休みな。明日から色々説明する」
ファベルはそう言って部屋を出た。ファベルがいなくなってすぐ、頭に直接響く声があった。
『ファルチェ、良かったの?』
ファルチェに寄生しているドリアイドの声だった。ファルチェは心の声で返す。
『私自身から正体を明かしたわけではないけれど、掟には抵触するかもね。だけど悪い人にはみえないし、それに』
ファルチェは一旦そこで言葉を切った。ドリアイドはその先を促した。
『それになに?』
『ファベルさんは高位魔力の持ち主だと思う。残留魔力から戦闘の様子が分かったみたいだから。
それに、ファベルさん自身にも何かある感じがする』
『何かって何?』
ドリアイドにそう聞かれ、ファルチェは言葉に詰まった。少し考えて
『ファベルさんの中に、力が渦巻いているというか。なんでかは分からないけど……。あと、精霊遣いの素質がある感じがする』
ドリアイドは精霊のため基本、エント族にしか視えない。ドリアイドの蔓や花が視えたことから、その可能性は十分にあるとファルチェは考えた。
『高位魔力の持ち主だったら、魔力のせいで視えたとかも考えられるけど……。こればっかりはなんとも』
ドリアイドはファルチェに寄生しているため、ファルチェの魔力を遣って具現化することもできる。そのため、高位魔力の持ち主だと視認できる可能性もある。今までこのようなことがなかったから、ファルチェは判断ができないでいた。
『どっちらにせよ、ファベルさんは悪い人じゃない。それだけは分かる』
それが分かっているからいい。ファルチェは今はそう思うのだ。
『ファルチェがいいならいいけど……』
ドリアイドの、不安と安堵が入り雑じった複雑な感情が流れ込んできた。それにファルチェは思わず笑みがこぼれる。
精霊遣いは契約精霊と意志疎通、感情の共有ができ、深い絆で結ばれている。使用者が悲しめば契約精霊も悲しむし、使用者が怒れば契約精霊も怒る。契約精霊は使用者の意思を汲んで行動するため、暴走しないようにするために魔法語で枷をつける。
それにしてもとファルチェは物思いに耽る。
(襲撃してきた2人……。目的はなに?まさかドリアイドが見えてたとか?)
それは違う。とファルチェは思った。
(姿は変えてた。でも、初めから私を知ってたとしか……)
ファルチェは襲撃されたときのことを思い出しながら考える。
(私は家を出てすぐに攻撃された。挟み込むようにして攻撃してきたから2人いるって気がついた。あの位置取りは私がいるって分かってないとできないけど、私はあの2人に覚えはない。顔もよく見えなかったし)
知られているのは間違いないとファルチェは思った。そして怖いと思った。
(あの2人はきっとまた、私を襲いに来る。ファベルさんにも、伝えないといけない。今はそのためにも、力を蓄えておかなければならない)
ファルチェはふぅと息をはきだした。落ち着いたからか、眠気が襲ってきた。
(今日はもう、ゆっくり休もう)
ファルチェはそう思い、眠りについた。
ー☆ー
ファベルは自室で今日のことを思い返していた。
(あの残留魔力とファルチェのあの傷、相手は相当なやり手だな)
ファベルは高位魔力、守り石の能力により残留魔力から戦闘の様子が視えていた。
(ドリアイドが目的にしろエント族が目的にしろ、あの2人は必ずまたファルチェを襲いにここに来る。それも姿形を変えて)
残留魔力から襲撃者は2人、それも相当なやり手だということは解っていた。ファルチェがここから出ることを理解した上で変換で姿形を変えてから襲撃した。
(変換が遣えるのは厄介だな……)
変換は姿形を変える魔法だ。誰かに化けることも武器に姿を変えたりもできる。使用者以上の魔力量があれば見破ることもできるが、ファルチェを襲撃した2人がどれ程の魔力量を持つか、今の段階では判断ができないでいた。
(ファルチェの話からするに、ファルチェは色彩変化で自分の見た目を変えていたはず。考えられるのは2つ。1つはファルチェの魔力量より上だという可能性、もう1つは守り石の能力によるもの。どっちにしても今の段階じゃなにも判断できないな)
ふぅとファベルは息を吐いた。
(とりあえず罠を張ろう。ファルチェから話を聞こう)
ファベルはそう思い明日に備えて眠りについたのだった。




