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(4) ドラゴン

 藤巳はどことも知れぬ白い世界で、フェラーリに乗る少女に捕まった。

「抵抗しようとは思わないほうがいいわよ。質問に答えなさい。これはあなたのドラゴン?」

 藤巳にはさっきから藤巳の首筋を掴んで締め上げている少女が繰り返すドラゴンという単語がよくわからなかった。

少なくとも藤巳のシェビーはれっきとしたゼネラル・モータース製で、ドラゴンなどという聞いたことも無い製造元のレプリカでは無い。

 とりあえず幾つもある疑問のうち、早急に明らかにしたほうがよさそうな内容を言葉にして伝えた。

「ドラゴンって何だ?」

 藤巳だって子供の頃に絵本くらい買ってもらったし、創作の中に出てくる大きくて火を噴くトカゲの化け物がドラゴンと呼ばれていることくらい知っている。当然そんな物は辺りを見回しても居ない。

 少女が藤巳の言葉に苛立ちを強めた気配が伝わってくる。藤巳の首にかけていた手に更に強い力が篭っただけではなく、少女の発する熱が背後から伝わってくる。

 きっと背後の少女は赤毛を逆立てているんだろうな、と思った。まるでフェラーリみたいだな、と思い、女の子に捕まえられている状況にもかかわらず藤巳の頬が緩む。それが少女を余計に怒らせてしまったらしい。

「とぼけんじゃないわよ!あんたのドラゴンっていったらこれに決まってんじゃないの!」

 少女はローファーの爪先でシェビーのバンパーを蹴る。

 力加減次第ですぐに傷がつくボディやホイールではなく、ぶつけるための部品を蹴ったの少女に藤巳は好感を抱いたが、この拘束状態は少々辛い。

 少なくともこの少女は藤巳のシェビーをドラゴンと呼んでいることがわかった。いくらフェラーリに乗っているとはいえ女の子が車の名前に疎いのはしょうがない。

「あぁ、俺のシェビーだ」

「シェビーっていうの?このドラゴン、そういえばうちの卒業生でシェビー・コブラってドラゴンに乗った子が居た気がするわ」

 少女は唐突に手を離し、藤巳を突き飛ばした。藤巳はつんのめってシェビーに手をつく。

 藤巳をやっと解放してくれた少女はシェビーの前に回り、フロントグリルを覗き込んだり、サイドウインドから車内を見たりしている。

「まぁいいわ。あんたにはこれから学院に来てもらうわ。ここいらでは身元の明らかでないドラゴンはそうするって決まってるの」

 藤巳は自分の推測が少し外れていたことに気付く。この少女はシェビーじゃなく、車のことをドラゴンと呼んでいる。

 日本語で車。英語ならCAR、ここがどこかは知らないが、言語によって車の呼び名は変わる。それより藤巳が気になったのは、自分が現在話している言葉。

 藤巳は周囲の環境や相手の言葉に合わせて無意識に英語と日本語を切り替えることが出来たが、藤巳の脳内にある言語を決定する部分に意識を集中しても、自分がどっちの言葉で喋っているのかを考えると、頭の中に靄がかかったみたいにそれ以上考えられない。

 考えてもわからない事を考えても頭が痛くなりそうなので、やっと拘束から開放された藤巳はシェビーのボンネットに腰掛け、少女に言った。

「俺も聞きたいことが色々とある。それがわかりそうな人のところに連れてってくれるというのなら、そうしてくれ」

 早速シェビーのドアに手をかけた藤巳を見た少女は鼻を鳴らす。

「今日こそあのポルシェ・ドラゴンと決着をつけられると思ったのに。せっかくの自由走行時間が台無しよ」

 少女はデイトナの左側に回りこみながら言った。

「ついてきなさい。逃げようったって無駄よ、わたしのフェラーリからは絶対に逃げ切れない」

 藤巳は少女の言葉に反応せず、空を見て遠い地平線を見た、耳で匂いを嗅ぐように目を閉じ首を傾ける。

「そのポルシェ・ドラゴンってのはあれの事か?」

 地平線の先、陽炎の中から、物凄い速さで何かがが近づいてきた。

 少女がそれを塩湖の白い地面に溶け込むような銀色の車であることだと認識するより早く、藤巳は耳で接近に気付いた。

 車というよりもプロペラ機を思わせる、この特徴的な音を聞き間違うはずがない。

 少女のフェラーリ・デイトナと藤巳のシェビートラックが停まる塩湖の島にやってきたのはもう一台の車。

 丸型二灯の丸っこく愛嬌のあるクーペスタイル、それと相反するような巨大なリアウイングとフロントスカート、左右に大きく張り出したフェンダーと、その中に納まる太いタイヤ。

 ポルシェ・カレラRSRターボが藤巳の前に現れた。

  

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