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我が身を盾に(よこしま)

 僕ことアルフレッド・ヘイスティンは田舎の村の生まれで、将来の選択肢はいくつかあった。


 おじいちゃんの後を継いで猟師になってもよかったし、丁稚奉公に出て商人になってもよかった。

 あるいは国からお金を借りて進学、役人を目指すのも悪くない。難しいと評判の試験も、現代日本の高校入試よりはラクそうだったし。


 その中で冒険者を選んだのは、もちろん魔力容量が大きかったこともあるけれど――すごくシンプルな生き方だからだ。


 ダンジョンに潜り、モンスターを殺す。

 その成果さえ出していればとやかく言われないし、豊かな生活だって手に入る。なんて分かりやすい世界だろう。


 戦うだけ戦って、ダメになったらハイそれまでよ。


 故郷の大人たちは「死んだらどうするんだ!」なんて止めたけど、別に死んだら死ぬだけだ。後は知ったことじゃない。

 

 そう思えるのはすでに一度死を経験していて――この二度目の生を"おまけ"と感じているから、だろうか。



 * *



 モンスターの掃討は終わりつつあった。少なくとも僕が担当する方面は、だけど。

 無双系のゲームを思い出してほしい。三国でも戦国でも、トロイでもガンダムでもいいからさ。

 飛び道具を持ってるキャラの方がザコの殲滅力は高いよね。そして僕は銃使いだ。


 残った敵のアタマを撃ち抜きつつ、先輩やリースレットさんの方にも目を向ける。

 万が一の時、いつでもカバーできるように。


(まあ、そんなの絶対ありえないんだけどさ)


 なにせ二人ともランクAなわけだし。


 ただ。


(リースレットさん、風邪でもひいてるのかな)


 どことなく動きにキレがない。

 いつもなら、さ。

 舞踏じみた足取りでモンスターを翻弄してるんだ。

 赤い髪を束ねたポニーテイルがキラキラとたなびいて、すごく凛々しい姿なんだよね。


(でも、今日は違う)


 モンスターの大群に対し、場当たり的な対処を繰り返すばかり。

 翻弄されていた。


 両腕から電動ノコギリを生やした狼男――ウルフチェーンソーがリースレットさんに肉薄する。


(引きつけてからのカウンター狙い、かな)


 ウルフチェーンソーは多くの場合、モンスターの司令塔を担っている。

 トップを落とすことで主導権を取り戻す。そういう考えかと思ったけれど。


(……嘘だろ)


 振り下ろされるチェーンソー。

 リースレットさんはそれにギリギリまで気付かなかった。

 振り返った時にはもう遅い。

 高速回転する刃に魔導フィールドが切り裂かれる。

 飛び散る紅の燐光。


「……ッ!」


 加速魔法(アクセル・スペル)を発動。地面を蹴る。走る。自分自身が弾丸になったイメージ。

 余剰魔力はすべてフィールドに注ぎ込み、周囲のモンスターを弾き飛ばしていく。


「間に合え、間に合え、間に合えッ――!」


 祈るような呟きは現実になる。

 チェーンソーがリースレットさんの首を刎ねる寸前、僕は彼女を突き飛ばしていた。

 胸に触ってしまったけれど鎧越しだし、そんなことを考える自分に嫌気が差す。

 同時に僕の魔力を譲渡して、リースレットさんのフィールドを修復していた。時間は稼げるだろう。


 さて。

 困ったね。

 一手足りない。

 クルリとターンして狼男を仕留めたいところだけど、それよりわずかに早くチェーンソーが届いてしまう。

 

 加速魔法、強行突破、そして魔力の移譲。

 おかげで僕自身のフィールドはかなり弱まっている。再チャージには五秒欲しい。長すぎだ。


 だったら、うん。

 ダメージコントロール。

 被害を最小限に抑えるまでだ。


 僕はなけなしのフィールドを右腕に集中させて、凶悪な唸りをあげる刃を受ける。


 反撃は左腕。

 ガントレットの機能はアンカーだけじゃない。

 切断ワイヤー。

 前世で例えるなら、秋せつらとか、ブギーポップみたいな。

 ま、あの二人みたいな格好よさはないけどね。


「シャ――!?」


 どこか戸惑ったような叫びとともに、狼男は絶命した。

 縦一閃。

 左右に分かたれた肉体が、火花をあげて爆発する。

 内蔵の殆どが機械化されてるタイプだったんだろう。


「リースレットさん、大丈夫ですか?」


 僕は彼女の方を見ないままそう問いかける。

 どうしてかって?

 狼男のチェーンソーがズタズタにしてたんだよね。

 リースレットさんのショートパンツを、こう、斜めに。

 白い肌に、清楚な青いレース。

 

 そういうのに注目してしまう自分が、たまらなく、嫌だ。


 冒険者なら仲間を助けるのは当然のこと。

 純粋な善意であるべきで、そこに性欲なんか混ぜちゃいけない。僕はそう思う。


「ああ、大丈夫だ。キミの方はどうだ? その、斬られたように、見えたが……」


「リースレットさん、本当に今日は不調なんですね。そうなるまえに真っ二つですよ」


 僕はへらへらと笑いつつ、左腕を振り回す。

 こっちの手でも銃は撃てるけど、それよりはワイヤーの方が早いんだよね。


 ボイラーフロッグにグルグル巻きつけ、クイッと千切り。

 スナイパースネークの群れを一気にギロチン。

 三ツ首ワイバーンは翼を削いでから、尻尾、両足、首の順番だ。先に頭を切り離してしまうと、制御を失った身体が暴れ回るんだよね。

 そういう予想外のファクターは孕みたくない。


「こっちも僕が引き受けます。さっさと撤退してください。足手まといです」


 好きな人なのに。

 大事な人なのに。


 どうして僕はこんな言い方しかできないんだろう?


「……すまない、恩に着る」


 どうでもいいけど、寝起きとは表情も口調も別人だよね。リースレットさん。

 苦渋の表情を浮かべつつ、上層に繋がる階段へと駆け出した。


 よし。

 バレてないみたいだ。


 実は、リースレットさんの言う通りなんだよね。

 僕はウルフチェーンソーに斬られている。


 あのモンスターは今年に入ってからの新型で、どうやら対冒険者に特化しているらしい。

 高速回転する無数の刃。

 それは魔導フィールドをゴリゴリと削り取り、致命的な一撃を加えてくる。


 僕の右腕。

 肘は曲がるけれど、手首も指も動かせない。感覚もない。

 だって一度、斬り落とされているから。

 瞬時に回復魔法(ヒール・スペル)を使って"繋ぎ直した"けれど、筋肉も神経もズタズタのまま。


 リースレットさんには知られたくなかった。

 僕が腕を一本犠牲にしたこと。

 知ったらきっと気に病むだろう。

 彼女とのあいだに、そういう重たい貸し借りを作りたくないのだ。


 同じ冒険者だから助けた。

 シンプルな構図。それだけでいい。






 実はさ。

 リコの話で、カジェロに話してないことがあるんだよね。

 あの子と()()していた男の人たちなんだけど、みんな、同じ共通点を持っていた。


 塾の先生だったりスーパーの店長だったり社長さんだったり。

 普段から顔を合わせていたりSNSで知りあったり間違いメールで始まったり。


 細かいプロフィールときっかけは違うけれど、みんな、何らかの形でリコを助けていた。


 成績が急落した時に励ましてくれたり。

 自称万引きGメンのおばちゃんに疑いをかけられた時、必死になって弁護してくれたり。

 ガラの悪い男に絡まれていた時、勇気を出して追い払ってくれたり。

 

 ライトノベルだとさ、ヒロインが主人公に助けられて好きになるって展開がおおいけどさ。


 世の中って、助けたり助けられたりなわけで。


 助けられるたびに惚れてたら、産めよ増やせよ地に満ちよだよ。





 だから、さ。


 冒険者は助け合い。


 それだけでいいんだ。


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