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ブラスター・ドラゴンブレス

 第三階層もまた開けた風景だった。

 

 紺碧の海にいくつもの島が浮かんでいる。


「ふふっ、水着でも持って来ればよかったわぁ。もちろん、とーってもキワドイのをねぇ」


「身内に最大の敵がいるとかカンベンしてくださいよ、師匠」


 二人の掛け合いを横目に、僕は少しだけ考え込んでいた。


「おいおいどうしたんだアルフ。敵もいねえみたいだし、さっさと次に行こうぜ」


「それはそうなんですけど……十秒くらい待ってもらえませんか?」


 僕は上空に向けてアンカーを打ち込む。あくまでもここは地下要塞。

 青空がどこまでも広がっているように見えるけれど、それはあくまで幻影だ。きちんと天井は存在している。

 

 ガシン、とアンカーの突き刺さる手ごたえ。

 ガントレットはキュラキュラとワイヤーを巻き取りつつ、僕の身体を上に持ち上げていく。


 こいつにもずいぶんお世話になった。

 ランクCの時だったかな、たしか第六区画の第三十五階層で拾ったんだ。

 はじめは壊れてしまってて、ワイヤーの射出ができなかった。ただの頑丈な籠手だったんだ。


 けれどシーラさんに修理してもらって、それで真価を発揮するようになった。

 モンスターをいちょう切りにしたり、こうして高みから戦場全体を見渡したり。


 ああ、やっぱり。


 浮き小島の形、位置関係。

 なんだか見覚えがあると思ったんだけど。


 アメリカ、ユーラシア、オーストラリア、アフリカ、南極。

 五大大陸だ。


 つまりこの階層は、世界地図をモデルにしている。

 

 ただし"世界"と言っても、僕やクラウスの前世。

 しかも日本が中心に据えられているということは、おそらく彼も元日本人なんだろう。


「ここに来て露骨な同胞アピールなんてね」


 だからなんだ。


 何かに協力しろってことなんだろうか。


 リースレットさんを攫っておいて?


 お断りだ。


 絶対にお断りだ。


 クラウス、お前のことは何もなくてもぶん殴るつもりだったんだ。

 バレルと一緒にさ。


 そういやアイツ、無事に第十三区画に辿り着けたんだろうか。

 今日は元々、日没後に第六区画で待ち合わせていた。一緒に侵入するつもりだった。

 リースレットさんが攫われてオシャカになったけどね。


 僕が来れない場合はひとりで行くって言ってたし、もしかしたらこの先で顔を合わせるかもしれない。


 すべての鍵は第十三区画にある。


 そんな気がするんだ。


「お待たせしました」


「いいのよぉ、会えない時間が愛を育てるんだものぉ」


 ウインクするミュウさん。


「……マジで気に入られんのな、ご愁傷」


「うふっ、スマイルズちゃんったら嫉妬しなくてもいいのよぉ。あとでたーっぷり可愛がってあげるわぁ。朝までコースねぇ」


「マジっすか、師匠」


 

 ――かくして僕たちはさほど苦労せずに第三階層を突破する。


 そして、第四階層。


「……チッ、揃いも揃ってここでスタンバイしてたってことかよ」


「アルフちゃんは下がってて頂戴。ここはあたしたちが引き受けるわ」


 二人はハルバートを持ち上げる。

 全身の魔導フィールドが密度を増し、白、やがて銀色の燐光を放ち始めた。


 広大な、サッカーフィールドのように長方形の空間。

 高い天井。


 モンスターハウスだ。


 ただ、行く手に待ち構える連中が半端じゃない。


「人造巨神に人造天使、なんだぁ? 第四階層じゃなくて、四十階層まで来ちまったか!?」


「天使もやたらバリエーション豊富ねぇ。初めて見るのもいるわよぉ」


 天使と言うとどんなイメージが沸くだろうか。

 人間そっくりで、頭に輪っか。そして背中に白い翼?


 僕も最初はそうだった。たゆんたゆんの美少女だったりしたら嬉しいなあ、なんて甘いことを考えてたんだ。


 現実は厳しい。


 人間と動物を融合させたような、グロテスク極まりない怪物揃い。

 そいつらが神々しい光を纏って、さあ崇めよとばかりに目の前へ現れるのだ。


 たとえば、セラフ・アビス。

 人型の巨大な蜂で、けれど背中には羽根じゃなく純白の翼。

 お尻から毒針をマシンガンのように飛ばしてくる。


 あるいは、セラフ・エクウス。

 前世でウマの被り物があったけれど、まさにあんな感じ。ヒズメは鋼鉄よりも堅く、殴られれば脳天が粉砕されるだろう。


 個人的に苦手なのがセラフ・オクティペス。ぶっちゃけると怪人タコ男(天使の羽付き)。

 表面が妙にヌメってるから切断ワイヤーが効かなくって、魔導弾の威力も薄い。

 触手をグネグネと蠢かし、むしろこっちを捕えようとしてくるのだ。


 ほかにもセラフ・ケトス(シャチ)やら、セラフ・レイウルス(サソリ)などなど。


 古代人のセンスの悪さには脱帽する。

 しかも一匹一匹がランクB、モノによってはランクA相当の実力だから厄介だ。



 加えて、人造巨神。冒険者の間じゃ"魔神"だなんて呼ばれている相手が十数体も並んでいた。


 僕たちはAランクとはいえ、たった三人。

 とても太刀打ちできるものじゃないし、ここでスマイルズ先輩とミュウさんを捨て駒にして突破するのが模範解答なんだろう。


 ……今までは。


「二人とも、大丈夫です。ここは僕がやります」


 一歩前へ、出る。


「アルフレッド、バカ言うんじゃねえ。こんなところで甘ちゃんを発揮してる場合じゃねえだろ」


 スマイルズ先輩が僕の肩を掴もうとするけれど。


「あらあら、無粋なことをしちゃいけないわぁ」


 ミュウさんがそれを阻む。


「アルフちゃんったら、すっごくイイ男の顔してるわ。勝算、あるんでしょう?」


「ええ。……ついさっき、とっても素敵な女の子に、とっても素敵なプレゼントを貰いましたから」


 僕は魔導拳銃を抜く。


 三式(Ver.3)じゃない。


 追加モジュールによって改装され、銃身が前より少し長くなった。グリップはより手に馴染む形へ。


 全体のフォルムも変わっていた。

 武骨な直方体の組み合わせから、鋭角的な――まるで竜の顎門(アギト)を象った様な形に。


 十三式魔導拳銃。

 

 使い方は自然と頭に流れ込んできていた。

 モード・広域殲滅型熱線砲(ブラスター)

 内蔵された二つの魔導ジェネレーターが唸りを挙げ、周囲に嵐を巻き起こす。チラつくエーテル光。銃を握る右手が熱い。


 グオオオオオオオオオオオオオオオオ! と。

 遠くで巨神と天使たちが咆哮した。こちらの危険性に気付いたのか、砂煙をあげて殺到してくる。


 でも、遅い。


 エーテル(霊域)ライン(導線)、全段直結。

 コーザル(魂域)サーキット(回路)開放。

 アートマ(神域)|リミッター(干渉制御)一斉解除。

 ツインジェネレーター臨界。

 充填完了。

  

 僕は引き金に指を掛ける。


 狙う、なんて面倒な動作は必要ない。


 おそらく銃というモノの、隠しようのない昏い本性がここに込められている。



 一方的な殺戮。


 己は鉄火場に足を踏み入れることなく、相手にだけ死という結果を強要する。



 放つ。


 十三式魔導拳銃、砲戦形態。

 広域殲滅型熱線砲(ブラスター)"竜撃(ドラゴンブレス)"。



 極光(オーロラ)がすべてを塗り潰した。


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