ミュウ・フィウ
――答えは己の中に求めるものである。
――周囲の喧噪に惑わされることなく、自分が何者なのかを問い続けよ。
なんていうか、哲学的だよね。
自分が何者なのか。
それが分かればみんな、もっとずっと生きやすいんじゃないだろうか。
RPGの世界ってラクだろうな、と思う時がある。
だって自分の能力が数字で示されてるわけだし、それに合わせて生き方を決めていけばいい。
けれどここはそういう世界じゃない。
「ステータスオープン!」なんて叫んでも、声は虚しく響くだけ。
だからってわけじゃないけれど、誰もが迷ったり戸惑ったりしながら日々を過ごしているんだろう。
スマイルズ先輩に別れを告げると、今度はシルキィさんのお見舞いへ向かう。
病室には綺麗な白い花が飾ってあった。誰だろう? リースレットさん? シーラさん? それとも他の友達だろうか。お菓子の箱も山積みになっている。「早く元気になってね!」みたいなメッセージ入りの似顔絵も置いてあった。
シルキィさん、交友関係がものすごく広いんだよね。
ヘンクツ揃いのランクAとは思えないくらい。
今はもう「リア充爆発しろ!」みたいな嫉妬は覚えない。
自分はこれまでずっと、いわゆるリア充的な生き方をしてこなかった。しようともしてこなかった。
つまり自分の人生には必要じゃなかった、ってことだろう。
だったらリア充――世間的には豊かな人生を送ってるとされるひとの総称――を羨むことなんてない。
僕は僕だ。僕以外の何者にもなれない。生まれ変わったけれど、振り返ってみると人格的には前世と変わっちゃいない。
ちょびっとだけ大人になっただけだ。
……なんてね。
スマイルズ先輩から聞いた言葉の影響だろうか、ガラにもなく自分語りをしてしまった気がする。
え? 前からちょくちょくウザかったって? ごめんなさい。
「あらン? 久しぶりねェ、ボク?」
病室を出ようとしたところでミュウさんが入ってきた。
もしかして、シルキィさんの知り合いだろうか。
「ええ、とーっても仲良しのお友達なの。この前は一緒にお買い物に行ってたのよん」
ミュウさんのハイテンションについていけるなんて、さすがシルキィさん。
器が大きいというか、懐が広いというか。
「だから入院したって聞いた時は驚いたわ。まさかこんなことになってるだなんて。
……青い亡霊と戦う時は教えて頂戴ね。アタシの友達をひどい目に遭わせたんだもの、ギャフンと言わせなきゃ気が済まないわ」
「分かりました。覚えておきますね」
でもミュウさんってランクCなわけで、申し訳ないけれども戦力になるだろうか。ちょっと不安だ。
「あら、アタシの実力が不安なのね。だったらシーラに聞いてみるといいわ。
今はお店の経営があるから下位に降りてるけど、装備を整えればボクにだって負けないんだから」
「シーラさん、ですか」
意外な名前にちょっと驚かされる。
人間関係って、ホント僕の知らないところで網の目になってるよね。
「ええ。昔はあの子が開発した新兵器を、アタシが片っ端から試してたんだから。
お店のバニースーツもシーラが作ったものでね、身体の肉をああしてこうして、誰でもボン・キュッ・ボンになれちゃうのよ」
リースレットさんに着せたらどうなるんだろう。
……じゃなくって。
あの店の人はみんなスタイル抜群だったけど、そんなタネがあったなんて。
「なぜかアタシには効果が無いのよね。悲しいわぁ」
限界というものがあるんじゃないかなあと思いつつ、僕はミュウさんの身体を見やる。
筋骨隆々、素手でリンゴを握りつぶせそうなほどのムキムキぶりだ。
「うふっ、そんなに見詰めないで頂戴。夕方ってヘンな気分になりがちなの」
「マイナスにマイナスをかけたらプラスですし、むしろ正気に――「ア゛ア゛ン!?」――ミュウさんは誰よりも美しい女性です」「いやん、照れちゃうわぁ」
なんて誘導尋問(恐喝)だ。
くそっ、僕は帰るぞ! こんなところにいられるか!
「ふふっ、せっかく褒めてもらったし、お返しにイイコト教えてあげる」
照れたように顔を赤らめると、ミュウさんがこっちに迫ってくる。一歩後ろに下がると、同じだけ距離を縮められる。
まずい、病室の端っこに来てしまった。逃げられない。ドンッ。ミュウさんが壁に腕をつく。女子の夢、壁ドン。ただし今回はどっちも男。
「ひ、人が来ちゃいますよ。それにシルキィさんの病室ですし……」
「その方が興奮するじゃない……?」
ゆっくり顔を近づけてくるミュウさん。
加速魔法やら何やらで逃げれるのかもしれないけれど、謎のプレッシャーで身動きが取れなかった。
やがて、耳元でくすぐったくこう囁いてくる。
「前にお店で会った時より格好よくなってるけれど、恋人でもできたの?
シーラ? シルキィ? ……違うわねぇ」
すんすん。
首元の匂いを嗅がれる。
「リースレットかしら」
「……ま、まだ、ちゃんと付き合ってるわけじゃ、ないです」
「はっきりしなきゃダメよ。ああいうのはキリッとした風に見えて、基本的に受け身なんだから。
向こうが年上だからって甘えちゃダメ、むしろガンガン振り回してあげなさい」
「わ、わかりました」
まだ遠いけど、コツ、コツという足音が聞こえてくる。
回診の看護婦さんだろうか。
もしこの部屋に来てしまったら。見られてしまったら。
……こめかみを冷たい汗が流れ落ちた。
「リースレットはすごく自罰的なところがあるわ。何でも抱え込んでしまうの。
楽にしてあげられるとしたら、それは恋人の貴方だけ。
許してあげて。重荷を代わりに背負わなくてもいいの。
――『君は悪くない』。
人は、その一言だけで救われるのよ」




