それから(ここから)
そこから先の記憶は曖昧だ。
助けが来たことで緊張の糸がプツン、となったらしい。
「……まあ、今日くらいはよしとしましょうか」
ため息と共にカジェロが担ぎ上げてくれたような、気がする。
目が覚めるとそれから一週間ほど過ぎていて、12月12日。
僕はずっと眠っていたらしい。
気が付くとギルド付属の施療院で、ベッドの上に寝転がされていた。
「やあ、おはよう」
そう声を掛けてくれたのは、うん、もしかするとちょっと素直になった僕へのご褒美かもしれない。
赤色のポニーテールに、凛とした、けれどどこか儚く見える顔立ち。
リースレットさん。
「いま来たばっかりなんだが、運が良かったよ」
まるでデートの待ち合わせみたいなセリフ。
じゃあ、膝元の文庫本はなんだろう。
「いや、これは……なんだ、途中まで読んでいたんだが、急に続きが気になったんだ」
ちょっと照れたようにそっぽを向くリースレットさん。
その仕草が可愛らしかった。
「可愛い……!? 大人をからかうんじゃない。私は、そういうものとは無縁のはずだ」
可愛い! リースレットさんちょう可愛い!
「――君は、意地悪だ」
プイッと回れ右。
耳が真っ赤になっている。
「ダンジョンで何かあったのか? その……まるで、別人みたいじゃないか。
私にはずっと冷たかったのに」
まあ、色々ありまして。
「それはやはり、えっと、指輪、か……?」
へっ?
リースレットさんの視線の先。僕の左手。なぜか薬指に、鈍色のリングが嵌っていた。
「に、二丁目の近くで全裸になってケンカしていたそうじゃないか。
しかも二日後には、その相手を助けに行って……プレゼントされたんだろう?」
「いやいやいや、違いますってこれは、そういうことじゃないんです!」
誰だ! 指輪の場所を変えたの!?
……カジェロだな。うん、たぶんきっとそうだ。左手の紋章から、嘲笑っぽい気配が流れてきてるし。
「じゃあシルキィか? 前々から仲が良さそうだったし、真っ先に留置場へ来たそうじゃないか。
それともシーラか? 噂では『耳と尻尾』亭といういかがわしい店のウェイトレスとも――」
「ストップ! ストップ! 落ち着いてくださいリースレットさん、なんだかヘンですよ!」
ついでに顔が近いです。詰問の勢いでしょうけど、キスモンになっちゃいます。……すみません、寒いですね。
「す、すまない。……勘違いしないでほしいんだが、別に女性関係を問いただそうというわけではない。
しかし君は最年少でAランクに昇り詰めた。ファンも多い。そういった子たちからよく訊かれるので――」
「わかりました、ええ、わかりました」
両手をあげて話を遮る。
「一から十までキッチリ納得しましたから、ちょっと僕の話を聞いてください」
「……わかった」
「リースレットさん」
「ああ」
自分でも、さ。
まさかこんなタイミングになるとは思わなかったけどさ。
もっとこう、状況を整えて、ロマンチックな感じで。
けど。
もう抑えられないし、抑える気もない。
素直になるって、決めたしね。
「――僕は、あなたのことが好きです。大事に思っています。よかったら、恋人になってください」




