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Throwing into the banquet

 シャア、と。

 左腕の籠手(ガントレット)が息を吐いた。


 これは無機質な防具じゃない。生きている。

 荒々しい闘争の予感を前に、目を覚ましたのだ。


 蜘蛛を象った籠手が、蠢く。黒い鉤爪が八本。手首のあたりで輝く一対の赤い光は、いわば瞳のようなものか。


 禍々しい。


 どう考えたって、悪役の装備品だ。


 僕みたいなひねくれ者は、どう頑張ったって真っ直ぐな主役になんかなれやしない。

 だったら、うん。

 こいつがお似合いってヤツだろう。




 狼の両腕が、形を変えた。

 ドサリと無粋なチェーンソーが落ちて、素手に。

 ああ、なるほど。


 わざわざ自分が何者か知らしめるために、あえて古い姿を取っていたわけか。


 武器がなくなったからって油断はできない。

 むしろ身軽になった分、厄介な相手だろう。


 全身の青い毛が逆立った。筋肉が膨張する。周囲の景色が歪んだ。燐光が虹色に輝く。

 ……魔導フィールドだ。しかも高密度の。

 チェーンソーで引き裂くのではなく、自分もフィールドを纏う方向に進化したのだろうか。


 空気が質量を孕んだかのようだった。


「雄雄雄雄雄ォォォォォォォォォォォ――」


 長い長い咆哮。

 

「雄雄雄雄雄ォォォォォォォォォォォ――」


 烈風が巻き起こった。

 天井が揺れ、地面が罅割れる。

 

「雄雄雄雄雄ォォォォォォォォォォォ――」


 俺はここにいる。生きてお前と戦うために存在している。

 そう宣言するかのような、叫び。


 冗談じゃない。

 僕は銃使いだ。殺し(合い)のコミュニケーション?


 知らない言葉だ。



 * *



 それはひどく幻想的な光景だった。

 金、銀、青。

 三色の光芒が、それぞれ独自の軌道を描いてぶつかり合う。


 三式魔導拳銃、速射。

 金色の銃弾は一方的な殺意を乗せて放たれる。

 毎秒、千二百発。

 

 本来なら弾幕として、ばらまくように用いるところだろう。


 ――加速魔法(アクセル・スペル)


 ()() () () () () () () () () () () () ()() () () () () () () () () () () () () ()


 アルフレッドの攻めは、それだけではない。


 銀色の糸が、まるで蜘蛛の巣のような幾何学形を描く。

 十重、二十重。

 狼の首を、腕を、足を。

 その身体を肉片へと寸断すべく、四方八方から迫る。


 しかし。


 青色の彗星は、何もかもを凌駕していた。

 予測射撃の銃弾さえも追い抜き、先回りする糸を引きちぎり――それはあまりにも暴力的で冒涜的な、"(エネルギー)"そのものの顕現であった。


 赤、白、黄色。


 まるで花火のように、閃光が弾けた。

 アルフレッドが魔法石をバラ撒いたのである。

 内部に仕込まれている魔法陣は、地面に落ちればトラップとして機能するだろう。

 だがそんなものはアテにしていない。

 宙を舞う魔法石。

 それをアルフレッドは、あえて自分の銃弾で撃ち抜く。


 まったく無駄な行為であろうか?


 否。


 衝撃によって魔法石の術式は暴走を来たし、大きな爆発を生じさせる。


 ちょうど、狼を巻き込む形で。


「愚ゥゥゥゥゥゥゥッ――!」


 かかった。

 狼狽が手に取る様に伝わってくる。

 動きが鈍る。

 コンマ数秒の隙。

 無限に等しい致命の時間。


 蜘蛛の糸で絡めて縛って締め付けて――その命を、貰い受ける。


 アルフは左腕を引く。

 クイ、と。

 密かに四方八方へ張り巡らせていたワイヤーが、一斉に狼へと殺到する。


 同時に、その頭へと三式魔導拳銃の狙いを定めた。


 しかし銃弾は狼を貫かない。


「雄雄雄雄雄ォォォォォォォォォォォ――」


 一瞬のことであった。


「啞啞啞啞啞ァァァァァァァァァァァ――ッ!」


 視界が、青色に染まる。

 何が起こった。

 強烈な魔力の奔流。

 糸は全て断ち切られ、否、消滅していた。


 気配。


 ほとんど直感的に、アルフは後ろに飛ぼうとした。


 だが。


「っ……!」


 先刻ダッジによって撃たれた傷が文字通り足を引っ張った。

 回復魔法は使ってあったが、所詮は応急処置。

 高速戦闘に耐えられるはずもなく――だからアルフレッドは、勝負を焦りすぎたのかもしれない。


 視野が回復する。


 手遅れだった。


 眼前には狼男。

 真っ直ぐに迫ってくる。


 まるで槍のように尖った鋭い爪が、革鎧を、鎖帷子(くさりかたびら)を突き破った。





 狼男が何をしたのかと言えば、何のことはない。

 フィールドを攻撃へ転用しただけである。

 全方位に向かっての、放出。


 それは己に迫るワイヤーと銃弾を焼き尽くし、地面にクレーターを生んでいた。


 代償だろうか、狼男のフィールドは消滅していた。


 だが、それでも。


 強靭という言葉では足りないほど隆々とした肉体がある。


 本来ならばここで勝負は決していただろう。

 狼男の腕はアルフレッドの腹を貫き、動脈を破り――絶命へと追い込んでいたはずだ。


 そうならなかったのは。


 アルフレッド少年にとって、死は、未知のものではなかったからだろう。


 多くの者なら、尚も生きる道を掴み取ろうとしたはずだ。

 わずかでも身をよじって致命傷を避ける。

 ……まあ、仮にそうしたところで冥府への執行猶予が伸びるだけなのだが。


 彼は違った。

 好機と捉えた。


 相手はただひたすらこちらの命を狙っている。

 さっきまでのように避けようとはしていない。


 目標に対して、ただただ真っ直ぐ。

 ほんの少しも寄り道せず、折れ曲がったり、ひねくれたりもしていない。


(人間とかモンスターとか関係ない。まぶしいよ)


 だからおまえは勝ちきれない。


(心に、()()()が足りないんだ)


 狼の攻撃は、敢えて受ける。

 いつものように。

 リースレットを救うべく、右腕を犠牲にしたように。


 代わりに。

 三式魔導拳銃を突きつけた。

 

 差し違えるつもりだった。


 結局。


 銃弾は、狼男の右脇腹を抉っただけ。

 

 狼男は正直だった。

 アルフレッドのような、無謀で無茶な捨て身など発揮しない。

 だから生存を優先した。

 咄嗟に身体を捻って回避、そのまま距離を取る。


 おかげで、アルフレッドも重傷に至っていない。

 逆説的な話だが、死に近づくことで生を得ていた。


 お互い、その場に膝をつく。

 息が荒い。

 視線が交錯する。


(やるじゃないか)


(お前もな)


 無言のうちに意思疎通が成立していた。

 そういうことを、彼はこれまでずっと否定していたのに。


 ――自分は銃使いだ。

 ――エゴを押し付ける存在だ。

 

 つまるところ一種の合理化なのだろう。


 憧れて、けれど手に入らなくって。


 だから最初から無理なんだと諦める。

 諦めても仕方ないんだと、自分が納得できるような理由をこねくり回す。


(本当に、シルキィの言う通り……僕はうっとうしい)


 けれど前よりはすこし素直になれる気がする。


(そういうのって、死亡フラグの気がするけどね)


 治癒魔法をフル稼働させて、腹の傷を無理矢理塞ぐ。

 狼の方は……抉れた右脇腹が火花をあげていた。内部はかなりの部分、機械化されているのだろう。


 互いにこれまでの速度は出せないだろう。

 魔力も尽きかかっていて、フィールドも無きに等しい。

 きっと、泥臭い争いになる。

 まるで駆け出し冒険者とザコモンスターの潰し合いみたいに。


 構わない。


 何でもいいから初心に返ってやり直したい気分だった。


 アルフレッドが銃を掲げる。

 狼は両手両足を地面に突き、獣そのもののスタイルで構えを取る。


 激戦の第二ラウンドは。


『――お兄ちゃん』


 予期せぬ(リコの)声によって、阻まれる。


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