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Dark Gray Ring / Blue Warewolf

 初めは小さく、何十秒かおきに。


 けれどだんだん大きく、間隔は短く。


「おい、揺れてねえか」


「ダッジさんもそう思うッスよね。しかもこれ……」


再構築リ・コンストラクションの前兆ってやつですな」


 ダッジ、ズム、ゼノンの言う通りだ。

 こんなにも連続して起こることはめずらしいけれど、最近は例外のオンパレードだ。

 もう何が起こってもおかしくない。


「――急ごう」


 僕は走り出す。三人もその後ろに続いた。

 曲がり角。行く先にモンスターの姿はなし。

 十字路。どの方向もオールクリア。


(おかしいな)


 もしも僕がダンジョンの主なら、このタイミングでモンスターをけしかけるだろう。

 再構築リ・コンストラクションの前はモンスターを動かせないとか?


 なんだか納得いかない。


 ダッジが出くわしたっていうアンプバットの姿が見えないのも気になる。


 このまま安全に出られればいいのだけれど。


「な、なんだぁっ!?」


 ダッジが叫ぶ。

 天井が激しく揺れる。何度も、何度も。とても立ってはいられない。左右の壁が少しへしゃげていた。


「な、何だったんスかね…」「さあな。だが、もう揺れはないみたいだぜ」


 パンパン、と砂埃を払って立ち上がるズムとゼノン。


「あれっ、ダッジさんどうしたんスか?」「親分、早く行きましょうぜ」


「う、うるせえ! オレだってそうしてえよ。だがな……」


「ははーん。わかったッス」「ったく、仕方ねえですな」


 二人はダッジの左右に回ると、よっこいしょ、と肩を貸す。どうやら腰を抜かしてしまったらしい。


「よ、余計なことをするんじゃねえ! ……でも、ありがとうな」


「ダッジさんが、ダッジさんがデレた!」「嬉しくもなんともねえですな」


 楽しそうにしている三人はさておき、揺れがおさまったということは、たぶん、再構築リ・コンストラクションが終わったのだろう。

 たぶん、すぐ上の階。


 激戦を覚悟しておいた方がよさそうだ。



 * *



 コツ、コツ、と。

 階段を昇る。

 第八階層から、第七階層へと。


「おい、アルフレッド」


 ダッジが僕の横に並ぶ。


「……さっきは、悪かった」


 逃げ出したことを言ってるんだろう。


「別に構わない。さっきも言ったろ?」


「だがな、オレも男だ。これじゃ気がすまねえ。……こいつを、もらってくれねえか」


 手渡されたのは、あの、鈍色の指輪だった。


「あのさ、僕、普通に女の子が好きなんだけど」


「違えよ! 指輪は指輪だが、そういう意味じゃねえ!」


「まさかダッジさんが少年愛に目覚めちまうなんて……ゼノンさん、こんなんじゃ俺、一緒に冒険したくなくなっちまうッスよ」

「いやあ、親分は変態だったんだな。俺たちとこんなにも性癖の差があるなんて思わなかったぜ」


 後ろではズムとゼノンが軽口を飛ばし合っている。


「テメエらもテメエらだ! オレは本気なんだ!」


 ……えっ。


「い、いや、本気は本気なんだが、そういう本気じゃなくてな」


 ちょっとダッジさん近寄らないでください。妙に顔が赤いのもコワいです。


「心の底から反省してるんだよ。今日の事だけじゃねえ、二日前、それからずっと昔。

 テメエはオレのことを許してくれた。なんだから分からねえが、おかげで色んなことがスッと消えたんだ。

 ……わけ、わかんねえよな」


「いや、分かるよ」


 僕がカジェロに前世のことを話して、それで少し気が楽になったように。


 聞いてもらうということは、認めてもらうということ。


 そして人間はみんな、それに乾いている。

 満たされないから地べたを這いずり回って、少しでも潤いを得ようとするんだ。


「とにかく、この指輪の持ち主に相応しいのはオレなんかじゃねえ。頼む、もらってくれ」


 ダッジは真っ直ぐにこちらを見据えていた。

 ……断るのは、同じ男として許されることじゃないだろう。


「ありがとう」


「いいってことよ。オレらは、北地区の第三ギルドにいる。困ったことがあったら呼んでくれや」


「わかった。その時はよろしく」


 やがて階段の終わりに辿り着く。

 浮遊感。

 ダンジョンの中ってのは、一種の異次元なんだろうね。

 階層が切り替わるごとに気持ち悪い感覚を味わうことになる。

 "転送酔い"っていうのもあって、そのせいで冒険者に慣れない人もいるのだ。

 たとえばシーラさん。魔力容量はすごいんだけど、第一階層にすら入れない。だからギルドにこもって研究者をやってるわけだ。


 第七階層。

 行きはネイチャーで常夏の島だったけれど、まったく別の姿に変わっていた。

 フォートレス? 違う。

 モンスターハウス。

 高くて真っ黒な天井に、敷居のない広大な洞窟。

 ロケーションはいつもと同じ。


 ただひとつ、あまりにも異常なのは。


「なんでえ、一匹だけかよ」


 へへっと鼻で笑うダッジ。


「ダッジさん、アレ、やべえッスよ」「……死んじまいますかな、コイツは」


 ズムとゼノンは実力差が分かったらしい。声が強張っている。


 なるほど。


 コイツはいわばボスキャラってヤツか。


 青白い毛並みに、獰猛な視線。

 咆哮する、両腕の電動ノコギリ。


 ウルフチェーンソー。

 その正中線には、なぜか、縫い合わせたような跡が走っている。


 ああ、分かるさ。

 前に僕が真っ二つにしたヤツじゃないか。


 死んだモンスターってのは迷宮に吸収されて、リサイクルされるはずなんだけどね。

 再生怪人ってところだろうか。


「――グッ」


 左腕を掲げる。僕に向かって。


「指名されてるみたいだ。……君たちは見逃してくれるらしい」


「待てよ。オレらだってランクBなんだ」


 ダッジが前に踏み出そうとしたところを。


「無理、無理ッス。絶対無理ッス」「俺たちじゃ足手まといってヤツですぜ」


 子分二人が止めてくれる。


「アルフさん、申し訳ねえッスけど、後はお願いするッス」

「上についたらすぐ他のランクAを呼びますんで、どうか、無理はしねえでくださいよ。……さ、親分、いきやしょう」


「……ああ」


 渋々、といった様子で頷くダッジ。


「もし生きて帰ってきたら、この前のワビだ。ソバを打ってやる。……絶品だからな、楽しみにしてろよ」


「期待してるよ」


 意外な趣味だ。

 というかそんなものまでこの世界に伝わってたんだね。


 横を駆け抜けていく三人を、青い狼は悠然と見送った。


 そして。


 少しずつ、少しずつ。


 しずくが器を満たすように、何かがこの場に満ちていって。


「……グル」


「……っ」


 狼と僕は、それぞれ武器を構える。


 わずかな静寂のうち。


 激突が、始まった。


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