6、正義振り抜く彼は死神
「さて、話はこれで終わりだ。そろそろ決めようじゃねえか──」
「ま、待ってください!自分は──」
青年の言葉を無視し、『紅之大鎌』は凄まじい勢いで青年との距離を詰めてきた。
「──この場所が、俺とお前──」
「──自分が、貴方の──」
そして振り抜かれる大鎌は、凄まじい瞬発力で反応する青年の真っ白な剣にぶつかる。
「──どっちの墓になるのかを」
「──協力者だと言うのですか?」
『紅之大鎌』は青年の剣を力で押し切り、さらに続けてもう一振り。体制を崩した青年が、この一撃をなんとか盾で受け止めると、『紅之大鎌』はニヤリと笑い再び口を開いた。
「ああ……一つ、借りを返しておかねえとな」
「借り……?」
「さっき、俺の名を思い出させてくれただろ?ま、お前自身、もう分かってるかもしれねえが……なあ──」
『紅之大鎌』は喋りながらも大鎌にさらなる力を加えていき、それによりギイイイッと盾が削られるような嫌な音が響き渡る。
「──我が弟、セトよ」
同時に粉々に砕かれる青年──セトの盾。そのまま振り抜かれた大鎌は、セトの左腕に大きな傷を刻み、血飛沫を巻き上げる。
これは大鎌による武器破壊スキル、〈ウェポンクラッシュ〉。
盾を砕かれ左腕に斬撃を浴びたセトだったが、しかし彼が怯むことはなかった。
セトはほんの一瞬だけ、瞬間的に目を伏せると同時に一歩前進。『紅之大鎌』の腹に一撃を叩き込み、さらに目を見開くと、今度は〈シャープスラッシュ〉で敵の首を狙う。
しかし『紅之大鎌』は腹から血を噴き上げながらもセトの一撃を冷静に見切り、一旦少し距離を取ることで回避する。
「血塗られた世に慟哭轟け──」
そして何やら呟きながら左手で懐から一本のナイフを取り出し、その刃を自ら握り締めることで掌から血を流した。
「──マイトフォーリー!!!」
叫んだのは、その一撃に与えられた名。
『紅之大鎌』は左手のナイフを投げ捨て、大鎌を遥か上空に振り上げると、それを全力で叩きつける。
セトは後方へ大きく跳ぶことで回避するが、しかし凄まじい衝撃に砕けた大地の欠片が無数の刃となってセトの体に突き刺さった。
「世の慟哭よ消え失せろ──」
身体中に刺さった大地の欠片を何本か振り払い、セトは『紅之大鎌』の言葉を否定するように呟きながら右手の剣を地面に突き刺す。
「──シヴァレイ」
一時的な生命力の活性化を得られる、上級剣スキル〈シヴァレイ〉。
これにより今まで負ったダメージは軽減され体は軽くなるが、ただこれはあくまで一時的な効果だ。持続時間は、凡そ90秒。
セトの〈シヴァレイ〉発動を見て、『紅之大鎌』も同様に能力上昇スキル〈バーサーク〉を発動。こちらも持続時間は90秒程度だが、強大な筋力を得る反面守りは薄くなる。
『紅之大鎌』は血の滲む手で握り締めた大鎌を、横に一薙ぎ。今までよりも格段に威力を上昇させたこの一撃は、セトに直接ヒットすることはないものの、かなりの衝撃波を生み出すことでその場一帯を軽く吹き飛ばすほどの範囲攻撃となった。
「ハッハー!!!」
大鎌範囲攻撃スキル、〈ワイプスイング〉。
セトは剣で庇いながらなんとか踏ん張るが、しかし立て続けに大鎌を振り回す『紅之大鎌』に中々接近することができない。
そこでセトは剣守護スキル〈ガーディアンズグローリー〉を発動させ、一旦防御に徹する。
大鎌から繰り出される重すぎる一振り一振りだが、セトは上手く剣を合わせることで次々に受け流していき、僅かに生まれる隙をつく。
「ウィールドスラッシュ」
剣範囲攻撃スキル〈ウィールドスラッシュ〉。
体内の気を力に変換し剣に乗せ、振り抜くと同時にその力を解放、それにより場を一掃する程の衝撃を放つ上級剣技だ。
近距離から打ち出された範囲攻撃に流石の『紅之大鎌』も避けることはできず、その体にさらなるダメージを負う。
「ガハッ……ヘッ……ハハハ……」
口から血を吐きながら大きく後ろに体制を崩す『紅之大鎌』。それでも笑うその顔は、死など怖くはないとでも言いたげだった。
「……流れる血は、力の象徴──」
セトはトドメとばかりにもう一撃を加えようと剣を振るが、『紅之大鎌』は僅かに残された力全てを注ぎ込みその一撃に応じる。
「──噴き上がる血は、生命力──」
〈ウェポンクラッシュ〉。
再びのスキルにセトの剣は一瞬にして粉々に砕け散り、その破片がセトの頬を掠めていった。
「──迸る血は、魂の咆哮!」
『紅之大鎌』は〈ウェポンクラッシュ〉の勢いを殺さぬまま体を一回転させ、そして渾身の一撃を振り抜く。
「ヴェンジェンス!!!」
今まで受けたダメージ全てを力に変換させたその一撃は、剣を失い無防備となったセトの体に深すぎる傷を刻んだ。
同時に激しく噴き上る血飛沫は、セトの視界全体を真っ赤に埋め尽くし、それが自身の敗北を示すのだと彼は静かに悟るのだった。