1、帰還#
セト、ココルの二人は、月が沈む前にはルヴェールへと戻っていた。
「こ、ココル!?無事だったか!」
ルヴェール城内へ入ると、夜遅いにもかかわらずシンデレラが二人を出迎える。
「し、シンデレラさん……あの──」
「シンデレラ様、ココルさんに部屋を一室貸していたたげませんか。お顔の怪我が酷く、治療も必要です」
ココルの言葉を遮ってそう言うセトに、シンデレラは頷く。
「ココルさん、シンデレラ様には自分から伝えておきます。貴女は部屋で休んでいてください」
「う、うん……ごめんなさい……」
そしてココルは城内の一室へと向かい、セトはシンデレラに事情を説明していった。
「そうか……」
セトから事情を聞き、深刻な表情を見せるシンデレラ。深刻な顔をしながらも、彼女は続けて口を開く。
「恐らく、今のお前が一番ココルの気持ちを分かってやれる筈だ。私は……私からは、とにかく前を向いてほしいと、それくらいしか今は言えない。明日になったら、私も一度ココルと話をしてみようとは思うが……やはり今のココルを一番支えてやれるのは、確実にお前だろうな」
「はい……」
シンデレラの言葉にセトはただ一度頷くだけで、それ以上は何も言わなかった。いや、言えなかったのだ。
自分にとって、明日はもうないなどとは。
翌日、昼頃にセトは一人ハナの元へと向かった。
「こんにちは。お店の準備、かなり進んでいますね」
突然のセトの訪問に、ハナは慌ててその場に跪く。
「せ、セト様……!あ、明日あたりにはお店を開けたらと思っております」
「そうですか。それはとても順調みたいですね。あ、あの……どうかお顔をあげて下さい」
「は、はい……」
セトの言葉にハナはゆっくりと立ち上がり顔を上げるが、セトと目が合うと慌ててまた下を向いた。
「ところでハナさん。一つ、お聞きしたいことがあるのですが……」
「はい、なんでしょうか……」
「クリムゾン・サイスのことです。彼には、その……お気に入りの場所、といいますか……よく訪れるような場所はありましたか?」
「え……?なぜ、ですか?」
「あ、いえ……シンデレラ様から、聞いてくるようにと言われまして……」
「ああ、そうでしか。クリムゾン・サイスのよく向かう場所と言われると……そうですね、いばらの森ロゼシュタッヘルでしょうか。確か墓参りと言って、よくその場所を訪れていたような気がします」
ロゼシュタッヘル……墓参り……。
「ロゼシュタッヘル……分かりました。シンデレラ様に伝えておきます。ありがとうございました」
「いえ、また力になれることがありましたらなんでも聞いて下さい」
「はい。それでは」
墓参り、か……。
それからセトはすぐにルヴェール城へと向かったが、しかしハナから聞いた情報をシンデレラに伝えることはなく、ただ自分の部屋へと戻るのだった。




