5、救いの騎士
目を覚ますと、枝葉の隙間から差し込む優しい木漏れ日が視界に広がる。
眩しい……。でも、心地がいい……。
初めは天国にでも来たのだろうとそう思っていたが、暫くその光に見惚れている内に次第に脳が活動を始め、突然腹部に強烈な痛みを覚えた。そして今の自分が置かれている状況を少しづつ解析していく。
「お目覚めですか」
すぐ近くから聞こえてきたその声は、女性のものだった。
「え……あの、私……」
生きている……。助けられた……?この人に……?
腹を抑えながらも声の方を向くと、そこには顔に大きな縫い目のある女の姿があった。
寝かされていた場所はどこかの森の中。下には大量の落ち葉が敷かれており、縫い目の女は彼女──ココルが横になるそのすぐ隣に座っている。
「お腹は破れた装備と一緒に縫い合わせておきました。顔は自然治癒を待ちましょう。弓矢はそこに置いてあります」
「あの……なんで……」
なんで、助けてくれたのですか?
先の言葉は言わなくとも、彼女には通じたようだ。
「ふむ……。我が主の命、というべきではないでしょうが……まあ、そういうことにしておきます」
「主って……クリムゾン・サイスのことですか……?」
「ええ。ただ、あくまで貴女を助けたのはうちであります。主は貴女を殺さなかっただけ。救ったわけではありませぬ」
「そう、ですか……」
『紅之大鎌』は何故そこまで救いを避けるのか……。
疑問は浮かぶが口にはしなかった。
「それで……ああ、名前を伺っていなかった。なんと呼べば良いですか?」
「あ……私、ココルです。貴女は……?」
「うちのことは、縫い目のヌイちゃんとでも呼んでください」
「ヌイちゃん……?」
「ええ。ところで傷の具合は?」
「あの……まだ、痛みます……」
「ではまだ暫く寝ていて下さいな。うちはここに居ますので」
「はい……ありがとうございます……」
そういえば、私は何故『紅之大鎌』に仕える騎士に助けられているのだろうか。いや、それを言うなら、そもそも何故『紅之大鎌』はあのとき私に選択肢を与えてくれたのだろうか。
『紅之大鎌』といえば片っ端から騎士を狩るような残酷なイメージしかなかったが、それはとんでもない誤解だったのだろうか……?
いや、そんなことよりも、そもそもここは一体どこの森の中だろうか……。
脳が正常に機能していくにつれ、凄まじい勢いで様々な疑問が彼女の脳内に溢れかえっていく。
しかし彼女はその一つでも口にすることはなかった。少なくともその日は、縫い目の女に何も尋ねることはなく、そのまま彼女たちは二人で夜を迎える。
「よお……お前、死なずに済んだみたいだな」
夜を迎え、少しした頃だ。大鎌を背負う一人の騎士が、そう言いながらその場へとやって来たのは。




