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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第五章・真 ルイヒネージュの罪人
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4、再生─瞼の裏に……

「あっ……アッ……!アガッ……!」


 仮面の騎士はメイスを放り捨て、必死に首を抑える。しかし、どう足掻いてももう遅かった。


 首から噴き出す血が止まることはなく、そのまま仮面の騎士はその場に倒れ動かなくなる。


「おいおい……」


 同時に聞こえてきたその声は、切ないような、寂しいような、なんとも言えない響きを持った。


「……随分と呆気ねえな。折角の新入りだったのによお」


 僅かに残る意識を頼りに、ココルはその声の方へ顔を向ける。


「ぐ……グリ……む……ザイ……」


 『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』。大鎌を背負った騎士狩りが、そこに居た。


「お前、ひでえ顔してるな……。そいつにやられたのか?」

「ゔ……イ、あ……」

「答えられねえか……。まあ、どうせ俺にはもう人を救うなんてことはできねえし、それに今更そんなことしようとも思わねえ。だがな、瀕死の少女──」


 彼は、騎士狩りの名を持つはずの彼は、仰向けに倒されたその少女に、何故か手を差し伸べる。


「──俺だって、別に鬼ってわけじゃねえ。最近になって、仲間ができて、ようやく分かったんだ。こんな俺にでも、ついてきてくれるような狂った奴の一人くらいは居るんだってな。だから、選ばしてやるくらいはできる。さあ、瀕死の少女──」


 そして彼は弟にも似た穏やかな笑みを僅かに浮かべ、その少女に選択肢を与えるのだった。


「──生きるか、死ぬか。選べ」


 選べ……?選んで、いいの……?私はまだ、生きることができるの……?もう一度、セトさんと会うことができるの……?だったら……。


「い、いぎ……」


 この先生きていくことが許されるのなら、私は生きたい。生きてまた、セトさんに会いたい。


「まだ、いぎだい……。いぎだい、でず……!」


 まだ、生きたいです。


 それが、彼女の選択だった。


 彼女の言葉に『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』はフッと笑いながら僅かな笑みを浮かべ、そして少女に背を向ける。


「そうか……」


 そう言い残し、彼は何もせずにその場から立ち去っていく。


「え……?」


 助けて、くれないの……?


 確かに、もう人を救うことなどできないとは言っていた。今更救う気にはならないとも言っていた。つまり、元々矛盾していた……?


 じゃあ……選ぶって、どいうこと?生きることを選んでも、結局私は死ぬしかないの……?


「ああ……」


 寒い……寒いなぁ……。それに、なんだか……とっても……眠く……なっ、て……。


 雪原地帯ルイヒネージュにて、仮面の騎士は地に倒れ、その妹はゆっくりと目を伏せていく。


 瞼の裏に映る絶望は、次第に彼女から寒さという感覚すらも奪っていくのだった。

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