4、再生─瞼の裏に……
「あっ……アッ……!アガッ……!」
仮面の騎士はメイスを放り捨て、必死に首を抑える。しかし、どう足掻いてももう遅かった。
首から噴き出す血が止まることはなく、そのまま仮面の騎士はその場に倒れ動かなくなる。
「おいおい……」
同時に聞こえてきたその声は、切ないような、寂しいような、なんとも言えない響きを持った。
「……随分と呆気ねえな。折角の新入りだったのによお」
僅かに残る意識を頼りに、ココルはその声の方へ顔を向ける。
「ぐ……グリ……む……ザイ……」
『紅之大鎌』。大鎌を背負った騎士狩りが、そこに居た。
「お前、ひでえ顔してるな……。そいつにやられたのか?」
「ゔ……イ、あ……」
「答えられねえか……。まあ、どうせ俺にはもう人を救うなんてことはできねえし、それに今更そんなことしようとも思わねえ。だがな、瀕死の少女──」
彼は、騎士狩りの名を持つはずの彼は、仰向けに倒されたその少女に、何故か手を差し伸べる。
「──俺だって、別に鬼ってわけじゃねえ。最近になって、仲間ができて、ようやく分かったんだ。こんな俺にでも、ついてきてくれるような狂った奴の一人くらいは居るんだってな。だから、選ばしてやるくらいはできる。さあ、瀕死の少女──」
そして彼は弟にも似た穏やかな笑みを僅かに浮かべ、その少女に選択肢を与えるのだった。
「──生きるか、死ぬか。選べ」
選べ……?選んで、いいの……?私はまだ、生きることができるの……?もう一度、セトさんと会うことができるの……?だったら……。
「い、いぎ……」
この先生きていくことが許されるのなら、私は生きたい。生きてまた、セトさんに会いたい。
「まだ、いぎだい……。いぎだい、でず……!」
まだ、生きたいです。
それが、彼女の選択だった。
彼女の言葉に『紅之大鎌』はフッと笑いながら僅かな笑みを浮かべ、そして少女に背を向ける。
「そうか……」
そう言い残し、彼は何もせずにその場から立ち去っていく。
「え……?」
助けて、くれないの……?
確かに、もう人を救うことなどできないとは言っていた。今更救う気にはならないとも言っていた。つまり、元々矛盾していた……?
じゃあ……選ぶって、どいうこと?生きることを選んでも、結局私は死ぬしかないの……?
「ああ……」
寒い……寒いなぁ……。それに、なんだか……とっても……眠く……なっ、て……。
雪原地帯ルイヒネージュにて、仮面の騎士は地に倒れ、その妹はゆっくりと目を伏せていく。
瞼の裏に映る絶望は、次第に彼女から寒さという感覚すらも奪っていくのだった。




