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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第六章 ロゼシュタッヘルの終止符
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4、何も変えられなかった者達と──

 セトがロゼシュタッヘルの森へ辿り着くと、その男はすぐにセトを出迎えた。


「来たか……」


 その男、騎士狩りの『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』は、どこか以前とは違った雰囲気を漂わせているように思える。


 そんな彼に、セトはただ剣を向けた。


「残念ですが、話をしに来たのではありません」

「そうなのか。じゃあ、何をしに来た?」

「自分は──」


 次の瞬間、セトは凄まじい勢いで距離を詰め、鋭い斬撃を叩き込む。


「──貴方の墓を、用意しに来ました」


 セトの一撃を、『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』は背の大鎌を引き抜き軽く受け止める。


「ハッハッハッ、そうかよ。まあ別に──」


 そしてセトの剣を軽く押し返し、続けて大鎌を振り抜いた。


「──構わねえがな」


 セトはこれを盾で受け止め、それから少し距離をとる。


 距離を取ったところで、再び『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』に向けた剣は強力な白の魔力を宿した。


「お前……そうか……。いいぜ、どうせ最後だ」


 そう言うと、『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』もまたその大鎌に強力な紅の魔力を宿す。


「ええ、最後にしましょう」


 その言葉と同時に、セトは魔力を解放。セトの周囲に白色のバリアが展開され、同時に剣を横に振り抜く。


 〈瀬戸流技─白牢・薙払〉。


 振り抜かれた剣に合わせ、セトのバリアは彼の視界に映る全てを飲み込むように、急速に拡張していった。


 『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』もまた、セトの一撃に合わせ紅色の魔力を解放。大鎌を振り抜くと、同時に十字を描く紅色の斬撃が紅色の雷撃を纏わせ放たれる。


 〈江戸流技─紅哭・十字〉。


 二人のスキルはぶつかり合い凄まじい衝撃を生み、二人の体には一瞬の内に膨大な量の傷が刻まれるが、それでもなお武器を握った。


 衝撃を掻き分け、距離を詰めてくる『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』。彼は再び大鎌に宿らせた紅の魔力を、至近距離にて解放する。


「オルアアアァ!!!」


 〈江戸流技─紅閃・貫通〉。


 振り抜かれた大鎌から放たれた紅色の魔力は、まるでレーザーのように銃弾すら上回る速度で真っ直ぐに直線上を貫いていく。


 これに対し、セトは今度は盾に魔力を送り構える。


 〈瀬戸流技─白壁〉。


 凄まじい密度で放たれたレーザーだったが、セトが展開した白き壁を貫くことはできず軌道が逸れる。セトはさらに魔力を剣へと送り込み、距離を詰めてきた『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』へカウンターの一撃を放つ。


 〈瀬戸流技─白壊・武人〉。


 鋭く叩き込まれたのは、一点突破型の強力な一振り。『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』はこの一撃を大鎌で受けるが、しかしあまりの威力に刀身は耐えられず、粉々に砕け散る。


「ハッハッ、スゲえなおい……」


 大鎌の刀身を砕かれながらも、『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』は笑って余裕を見せた。


 そんな彼に、セトは再び魔力を解放した一撃を放つ。


「これで……!!!」


 〈瀬戸流技─白壊・銀河〉。


 強力な魔力を宿した剣は、武器を無くした『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』に再び鋭く叩き込まれ、同時に広範囲に及ぶ衝撃を散らすが、しかしその一撃は彼を擦りもしなかった。


「なっ……!」


 〈江戸流技─紅迅・剛脚〉。


 『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』は紅の魔力により凄まじい能力補正を行い、遥か上空へと跳躍することで回避したのだ。


 さらに上空より右拳を握りしめ、急降下することでセトめがけ叩き込む。


「死ねえええ!!!」


 〈江戸流技─紅迅・剛拳〉。


 紅の魔力を宿した拳は、かなりの勢いでセトを捉え、セト周囲の地面すら砕いていった。


「クッ……!」


 セトはすぐさま〈瀬戸流技─白壁〉を展開することで守りに徹するが、その威力に白壁にすらヒビが生える。


 ここで『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』は一旦後方へ跳躍。そこから〈江戸流技─紅迅・剛脚〉により弾丸のような速さでセトとの距離を詰め、勢いをそのままに再び〈江戸流技─紅迅・剛拳〉による拳を叩きつける。


 これに白壁はついに崩壊。盾自体も砕かれ、そのまま拳はセトの体すら貫通していった。


「ガハッ……!」


 口から血を吐きながらも、セトは右手の剣に魔力を送り、〈瀬戸流技─白壊・武人〉による突きを放つ。


「グハッ……!」


 これはさすがに『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』を捉え、その体を貫いていく。


 お互い腹に風穴を開けられた二人は、フラフラと後方によろけながらも呟いた。


「「流れる血は、力の象徴……」」



■■■



「なあ、セトよ……」


 いつかの夕暮れ。


 任務を終えシュネーケンへと帰る途中。小鹿の森キッツカシータに差し掛かった辺りで、エトはセトに声をかける。


「ん?何?」

「なんかこう……技打つ前にさ、呪文?というか……掛け声、というか……なんかそういうのあったらカッコよくね?」

「そう……?別に、いらないと思うけど」

「いやいや、いるだろ。例えば──」



■■■



「「……噴き上がる血は、生命力……」」


 いつかの夕暮、二人で考えたその言葉を口にすると、何故か不思議と力がみなぎる。



■■■



「──例えば魔導師は呪文を唱えるだろ?呪文を唱えて魔法を打つだろ?」

「うん、まあ……」

「あれって結局なんの為か、よく考えてみるとあやふやじゃねえかと思うんだよな」

「んー……自然から力を借りるため、とか?いや、自然というか……神、かな?」

「神なんてただの信仰だろ。実際に存在する訳じゃねえ。自然だって、きっとそんな一人の人間の訳わかんねえ言葉に付き合ってる暇ねえよ。そもそも、自然が人の言葉なんて理解できるとも思わねえしな」

「まあ……」

「じゃあなんで呪文なんてあるんだ?なんでその呪文を唱えることで、魔導師は力を宿すんだ?」

「さあ……」

「そう考えると、魔導師も本来は別に呪文なんて唱える必要ねえんじゃねえか。と、そう思うわけだ。呪文なんて必要ないが、それを唱えることでなんかこう……自分なりに喝が入るっていうか、気が高まるっていうか……そういうことなんじゃねえのか?」

「ふーん……なんか強引だけど……」

「細かいとこはいいんだよ。で、つまりだ。剣士である俺たちにだって呪文を唱える意味はある。どうせ暇な帰路だ。考えながら帰ろうぜ」

「確かにね。ああ、いいよ」



■■■



「「迸る血は、魂の咆哮……!!!」」


 セトは剣と盾を捨て、全身から膨大な白の魔力を解き放つ。


 『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』もまた、凄まじい紅の魔力を全身から解放した。



■■■



「俺たちは剣士だ。前衛に立って戦う者だ。だから傷を負うのは当たり前で、それをチャンスに変えられるようなのが理想だな──」



■■■



 〈瀬戸流技─白狼〉。


 〈江戸流技─紅龍〉。


 それは二人にとって最後の一撃。


 その衝突に、世界が揺れた。


 世界が揺れ、天が割れ、そして大地は唸りを上げた。


「白狼──」「紅龍──」


 いばらの森ロゼシュタッヘルにて。


 強大な力と共に産まれた二人の騎士は、こうして壮絶な最期を迎える。


 世界を何一つ変えることなく、彼らはこの世を去るのだった──。

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