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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第五章 ルイヒネージュの花束
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7、塔に響く……

 セトがシュネーケンを出た翌日。いばらの塔シピリカフルーフにて、レイナを含めた4名の塔攻略部隊は2の塔上層に辿り着いた。


「おいレイナ!どこ見てやがる!」


 対峙していた魔物の群れに対し、レイナは後方より〈エクスプロージョン〉を放つが、広範囲に及ぶその一撃は仲間の騎士をも巻き込んでしまう。


 それに対し、前衛に構えていた部隊員の一人が声を荒げた。


「これは塔攻略戦だぞ!!よそ見してんじゃねえ!!」

「あー……ごめーん……」

「舐めてんのかその返事は!!!てめえのそのよそ見が、仲間一人の命を奪うことになるんだぞ!!!分かってんのか!?」


 仲間一人の命……?ハッ、笑わせる……。今ここにいる仲間の生き死になんて、私にとっては世界の成り立ちと同じくらいどうでもいいことだ……。


「はーい……」

「次よそ見しやがったら、すぐに帰ってもらうからな!」


 次は、こいつを狙ってやろう……。この顔面に、私の法撃を叩き込んでやろう……ウフフッ……フフッ……。


 どこか異様な雰囲気を漂わせるレイナに、他三名の部隊員達は皆が彼女に対し不信感を抱き始めていた。


 何があったかは知らないが、とにかく今の彼女は危険だ。三人ともがそう思い、それを口にしようとしたのは、それからさらに塔を少しだけ登ったあたり。しかし時は既に遅かった。


「こいつが……」


 蒼の守護竜。


 突如として姿を現したのは、全長10mを軽く越す程の巨体。二足で立ちこちらを見下ろすその巨大なドラゴンは、全身にいばらの蔦が巻かれており、暗い蒼一色の鱗で覆われる顔、腕、足、背中。肩の辺りからは若干の毛を生やし、腹から首にかけては強靭な筋肉の鎧で覆われているのが見える。


「一旦体制を──」


 前衛の騎士が撤退を指示しようとするが、蒼の守護竜はそれを待たない。


 竜は口を大きく開き、侵入者めがけ凄まじい勢いで蒼色の炎を吐き出してきた。


 四人はそれぞれこれを避け、止むを得ず戦闘に入る。


「レイナ、お前は後方から支援だ!範囲攻撃は禁──」


 レイナに指示を出そうとするその騎士に、レイナの魔法撃が飛んだ。


「──フグッ……!」


 騎士が吹き飛ばされた先は、丁度竜の足元。


 竜は勝手に足元に転がってきたその騎士を鋭い鉤爪で簡単に串刺しにすると、騎士の体を引き裂いて放り捨てる。騎士は血を撒き散らしながら壁に激突し、そしてそのまま動かなくなった。


「アッヒャハハハハ!!!何あいつ!!!死んでやんの!!!ウヒヒヒヒヒ!!!ウケる!!!マジウケる!!!」


 塔の中に響き渡る笑い声。その声に、他二名の騎士達は絶望を覚えた。


 レイナはその後も仲間ばかりを狙い次々に魔法撃を放ち続け、竜との連携もありわずか数分で他二名の騎士も死亡。残されたレイナは、その場で一人狂気に満ちた笑い声を上げる。


「アッヒャヒャヒャ!!!みんな死んでやがる!!!ウッヒヒヒヒヒ!!!超ウケる!!!アッハハハ──」


 ゴキッ。と、そう音がしたように思えた。


 ただその次の瞬間にはもう何も感じず、何もできない。何が起きたか分からないが、その分からないという思考すらもはや消えている。


 そっか……私、死んだんだ……。


 と、そう思うまでもなく、彼女は既に死んでいた。


 三名の騎士が倒され残ったレイナに標的を絞った竜は、彼女の上半身をバクッと一口。強靭な歯でその体を噛みちぎったのだ。


 そして彼女の体をゴリゴリと噛み砕き、そのまま飲み込む。


 こうして塔の攻略戦は、あまりにも無残な形での失敗となった。


 白雪姫アンネローゼにその報告が届くのは、それから随分後のこととなる。

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