4、選択─その証を胸に……
「あっ……アッ……!アガッ……!」
仮面の騎士はメイスを放り捨て、必死に首を抑える。しかし、どう足掻いてももう遅かった。
首から噴き出す血が止まることはなく、そのまま仮面の騎士はその場に倒れ動かなくなる。
「おいおい……」
同時に聞こえてきたその声は、切ないような、寂しいような、なんとも言えない響きを持った。
「……随分と呆気ねえな。折角の新入りだったのによお」
僅かに残る意識を頼りに、ココルはその声の方へ顔を向ける。
「ぐ……グリ……む……ザイ……」
『紅之大鎌』。大鎌を背負った騎士狩りが、そこに居た。
「お前、ひでえ顔してるな……。そいつにやられたのか?」
「ゔ……イ、あ……」
「答えられねえか……。まあ、どうせ俺にはもう人を救うなんてことはできねえし、それに今更そんなことしようとも思わねえ。だがな、瀕死の少女──」
彼は、騎士狩りの名を持つはずの彼は、仰向けに倒されたその少女に、何故か手を差し伸べる。
「──俺だって、別に鬼ってわけじゃねえ。最近になって、仲間ができて、ようやく分かったんだ。こんな俺にでも、ついてきてくれるような狂った奴の一人くらいは居るんだってな。だから、選ばしてやるくらいはできる。さあ、瀕死の少女──」
そして彼は弟にも似た穏やかな笑みを僅かに浮かべ、その少女に選択肢を与えるのだった。
「──生きるか、死ぬか。選べ」
その男の言葉に、少女は答える。
「も……もゔ……」
目からは涙が零れ落ちた。最後の、涙が。
「もゔ、ごろじで……。ごろじで、ぐだざい……!」
もう、殺して下さい。
それが、彼女の選択だった。
『紅之大鎌』はその言葉にフッと一度だけ笑い、そして大鎌を振りかざす。
「それもまた──」
呟きながら振り下ろされたその大鎌は、ココルの首をその胴体から切り離していく。
「──英断」
最後に彼は、倒れた仮面の騎士に近寄り、その仮面を外した。
「こっちは綺麗な顔してるじゃねえか……」
そして呟きながら、その仮面を彼女の胸元に置き、それを彼女の手で抑える。
「証だ」
それから『紅之大鎌』は、一人大空を見上げながらその場から離れていった。
仮面は証。それがどれほど僅かな時間であったとしても──。
「──お前は俺に仕えてくれた。その、証だ」
雪原地帯ルイヒネージュにて。
かつてシンデレラに仕えた姉妹の騎士は、こうして深い眠りついた。




