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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第五章 ルイヒネージュの花束
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4、選択─その証を胸に……

「あっ……アッ……!アガッ……!」


 仮面の騎士はメイスを放り捨て、必死に首を抑える。しかし、どう足掻いてももう遅かった。


 首から噴き出す血が止まることはなく、そのまま仮面の騎士はその場に倒れ動かなくなる。


「おいおい……」


 同時に聞こえてきたその声は、切ないような、寂しいような、なんとも言えない響きを持った。


「……随分と呆気ねえな。折角の新入りだったのによお」


 僅かに残る意識を頼りに、ココルはその声の方へ顔を向ける。


「ぐ……グリ……む……ザイ……」


 『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』。大鎌を背負った騎士狩りが、そこに居た。


「お前、ひでえ顔してるな……。そいつにやられたのか?」

「ゔ……イ、あ……」

「答えられねえか……。まあ、どうせ俺にはもう人を救うなんてことはできねえし、それに今更そんなことしようとも思わねえ。だがな、瀕死の少女──」


 彼は、騎士狩りの名を持つはずの彼は、仰向けに倒されたその少女に、何故か手を差し伸べる。


「──俺だって、別に鬼ってわけじゃねえ。最近になって、仲間ができて、ようやく分かったんだ。こんな俺にでも、ついてきてくれるような狂った奴の一人くらいは居るんだってな。だから、選ばしてやるくらいはできる。さあ、瀕死の少女──」


 そして彼は弟にも似た穏やかな笑みを僅かに浮かべ、その少女に選択肢を与えるのだった。


「──生きるか、死ぬか。選べ」


 その男の言葉に、少女は答える。


「も……もゔ……」


 目からは涙が零れ落ちた。最後の、涙が。


「もゔ、ごろじで……。ごろじで、ぐだざい……!」


 もう、殺して下さい。


 それが、彼女の選択だった。


 『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』はその言葉にフッと一度だけ笑い、そして大鎌を振りかざす。


「それもまた──」


 呟きながら振り下ろされたその大鎌は、ココルの首をその胴体から切り離していく。


「──英断」


 最後に彼は、倒れた仮面の騎士に近寄り、その仮面を外した。


「こっちは綺麗な顔してるじゃねえか……」


 そして呟きながら、その仮面を彼女の胸元に置き、それを彼女の手で抑える。


「証だ」


 それから『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』は、一人大空を見上げながらその場から離れていった。


 仮面は証。それがどれほど僅かな時間であったとしても──。


「──お前は俺に仕えてくれた。その、証だ」


 雪原地帯ルイヒネージュにて。


 かつてシンデレラに仕えた姉妹の騎士は、こうして深い眠りついた。

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