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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第五章 ルイヒネージュの花束
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2、紅の雪

「うー……寒……」


 ルイヒネージュに辿り着いたココルは、雪を踏みしめ前進しながらも周囲を見渡しココロの姿を探す。


 それにしても寒い。以前来た時よりも格段に寒くなったように思える。


「あー、そっか……前は確かセトさんが……」


 セトさんがスキルで温めてくれたんだっけ……。無駄に寒く感じるのはそのせいか……。今頃セトさんはシュネーケンかな……。大丈夫かな……。


「……会いたいな……」


 そう呟いたその声は、突如雪と共に吹き付けてきた強風に掻き消され、あまりの寒さに凍えたココルの足は一旦そこで停止した。


 すると目の前に吹雪の中を走り抜ける一頭のフロストファングが視界に映り、その姿を完全に確認した時には既にココルめがけて飛びかかってきていた。


「やっ……!」


 凍えて動きを止めていたココルはどうも敵に対しての反応が遅れてしまい、フロストファングの鋭い爪が彼女の右足にヒット。真っ白な雪の上に真っ赤な血飛沫が散る。


 ココルはすぐに一旦敵との距離をとろうとするが、その敵が既に視界から吹雪の中に消えており、戸惑う内にまたしても死角から一撃を浴びる。


「イッ……たいな……!もう……!」


 敵の爪は脇腹を掠め、今度は先ほどよりも激しく血飛沫が散っていく。


 連撃を浴び傷口を押さえながらも、ココルは〈イーグルアイ〉、〈インスティクト〉と補正スキルを重ねて発動。敵の動きに対しこれまでとは比べものにならないほど集中力を高めた。


「そこ!」


 慣れた手つきで矢をつがえ、凄まじい瞬発力で敵の攻撃をヒラリと交わすと、ココルは流れるような動きで一回転しそのまま矢を放つ。


 〈スナイピングショット〉によるこの一撃は、見事にフロストファングの体を射抜き貫通。フロストファングはその場に倒れた。


「はぁ……痛い……痛いなぁ……」


 標的撃破を確認し弓を背負い直すココルだが、しかし彼女は脇腹を抑えその場に座り込んでしまう。


「もう……やだなぁ……ほんとに……」


 傷口からはまだ血がドクドク流れており、それを見てココルは持参していた回復役を一本飲み干す。


「ふぅ……もう……帰ろうかな……」


 回復役の効果はかなりのもので、傷口からの出血はすぐに止まり、同時に力も湧いてきた。ただ、これ以上この寒い中ココロを探す気にはなれない。


 数分間の後、ココルはようやくその場に立ち上がるが、その頃には既に血の香りにつられてやってきた三頭ものフロストファングが彼女を囲んでいた。


「嘘……」


 そんな彼女の呟きなど狼達には聞こえておらず、まず一頭がココルに飛びかかる。これはなんとか身をかわしたが、しかしその直後、同時に飛びかかってきた残りの二頭には対応しきれず、一頭の爪が腹にグサッと突き刺さり、もう一頭は先ほど負傷したばかりの右足に噛み付いてきた。


「アガッ……」


 それでもココルはなんとか一本の矢を握りしめると、右足の肉をそのまま引きちぎろうとするフロストファングめがけ振り下ろす。


「ガハッ……」


 矢はフロストファングの脳天に突き刺さり、その一頭はそこで倒れ同時に右足は解放された。しかしその間も腹に突き刺さった爪はどんどんめり込んでいき、ついには口から大量の血が吐き出される。


「ウグフッ……!ガハァッ……!イギギッ……」


 ココルはそのフロストファングの腕を掴みなんとか腹から引き抜くと、同時に瞬間的に二本の矢をつがえ、渾身の力で振り絞る。


 〈クイックショット〉。かなりの近距離で放たれた二本の矢は、フロストファングに重ねてヒット。その一頭も地に伏した。


 しかし初めに攻撃を外した残る一頭が体制を立て直し、ココルの背後から再び飛びかかる。


「えっ……?」


 完璧に死角となっていた場所からの一撃だったが、しかしそのフロストファングの爪がココルに届くことはなかった。


 逆に吹き飛ばされ宙を舞うフロストファング。


「そんな……」


 振り返ると、立っていたのは一人の騎士。


 恐らく女性とみられるその騎士は、仮面で顔を隠していた。

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