4、騎士狩り
白雪姫アンネローゼの姿を確認し、三人は恐る恐る彼女に近づいていく。
しかし近づくにつれ現在の彼女の状態が異常であることを把握、すぐさま駆け寄った。
「あ、アンネローゼ様!?」
片手で脇腹を抑え片足を引きずるようにして歩く彼女は、ポタポタと血を滴らせながらもなんとか前進しているといった様子だ。
「お……お前たちは……?」
振り絞るよう発せられたその声は、すぐ近くの三人にすら届かない程掠れ、現在の彼女がかなり危険な状態であることを示していた。
ココロは即座に〈クイックヒール〉による癒しの力で彼女を包み、ココルが彼女に肩を貸す。
「大丈夫ですか!?すぐにルヴェールへ──」
ココルは必死にそう声をかけるが、しかし容赦ない魔物の攻撃が彼女達を襲う。
再び現れたのは赤い巨体を誇るフレアゴンガ。
四足による突進で突っ込んでくるその巨体を、エトの盾が受け止めた。
「行ってください。ここは自分がなんとかします」
「で、ですがエトさん……」
エトはフレアゴンガの巨体を押し返し、それと同時に剣を一振り。しかし敵の腕に与えたこの斬撃は浅く、さほどダメージは入らない。
「大丈夫ですから」
一瞬だけ彼女達に振り向いて笑顔を作り、一言だけ加えてそう言った。
彼の言葉にココロは頷き、再びアンネローゼに癒しの魔法をかける。
この場から離れていく三人を確認したエトは、即座にフレアゴンガに向き直るが、直後、敵の巨大な拳がエトの頭部めがけ振り抜かれた。
不意に放たれた筈のこの一撃を、エトはしゃがむことにより紙一重で回避。さらにその腕に向けて、今度は〈シャープスラッシュ〉を放ち深い傷を刻んだ。
腕に傷を負い怒るフレアゴンガは、両拳を合わせ頭上に大きく振りかぶる。そしてそのままエトの体を叩き潰す勢いで振り下ろすが、エトは若干後方へ跳躍することで簡単に回避。
そこから再びスキルを放とうと剣を構えるが、彼は一旦その剣を引く。代わりに構えたのは左腕の盾だ。
直後、その盾にぶつけられたのは魔物の鋭く尖った嘴。
「確か、ライトリールック……」
新たに現れたのは蛇の尾をもつ鳥型の魔物、ライトリールック。その嘴には強力な石化の力を秘めている。
さらに右手からももう一匹ライトリールックが現れ、同時に三匹の魔物がエトを囲む。
「フゥ……」
魔物の群れを前に、エトは一度大きく息を吐くことで集中力を高めた。
右──。
先ず飛びかかってきたのは一匹のライトリールック。流石にフレアゴンガよりは小柄だが、それでも全長2mを超えるその体を、エトは盾で受けつつ少しだけ後退。
──右、左──。
ライトリールックは盾で受け止められながらも嘴で追撃。その攻撃にエトは〈シャープスラッシュ〉で応じると、同時に素早く盾を左方向に切り替えた。
──左、正面、右。
エトが盾を向けた丁度そこに飛び込んできたのは、もう一匹のライトリールック。その体を押し返すと同時にエトが右手に転がると、ついさっきまでエトの立っていた場所にフレアゴンガの拳が叩きつけられる。
回避した先で待ち構えていた傷持ちのライトリールックに、エトは素早く〈ディミニッシュブレイド〉というスキルを放ち、さらに〈シャープスラッシュ〉で追撃。そこから流れるような動きでもう一振り斬撃を加え、ここで一匹を仕留めた。
「あと二匹……」
そう呟きながらも、エトは残りの魔物に向き直りつつバックステップ。距離を取り一旦体制を立て直す。
そして再びエトは剣を構えようとするが、しかしここで予想外のことが起きた。
「えっ……?」
残り二匹となった魔物は、エトの目の前で突如何者かの手によって消し飛ばされたのだ。
「例えば──」
同時に聞こえてきたその声は、何故かエトにとっては懐かしいものだった。
「──例えばだ。そこの青年」
『紅之大鎌』。
そう呼ばれる騎士狩りの男が、そこにいた。