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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第四章 シュネーケンの真実
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11、選択─悲痛

 部屋へ案内されてから数十分。室内にドアを叩く音が響く。


「セト、ここ?レイナだけど」

「あ、はい」


 セトの返事に、レイナは室内へ。彼女は入るなり、セトが腰掛けていたベッドに横になる。


「ふぅ……疲れちゃった。あんなに怒らなくてもいいのに……」

「また叱られたのですか?」

「敬語禁止!」

「あ、また叱られたの?」

「うん……アンネローゼ様ほんと怖すぎ。で、セーちゃん少しは私のこと思い出してくれた?」

「あ……まだ、何も……」

「はぁ……。そっか……。私達ね、今までずっとアンネローゼ様には内緒で付き合ってたんだよ。さっきのでバレちゃったけど」

「さっきの……?」

「セーちゃんって呼んでたの聞かれちゃったじゃん。それで問い詰められて喋っちゃった。ごめんね」

「あ……いや……」

「そうだよね。今のセーちゃんにとってはどうでもいいもんね、そんなこと。それでさ、塔攻略のことなんだけど……セーちゃん部隊から外されたんだってね。また一緒に戦えるの楽しみだったのにな……」

「それは、ごめん……本当に……」

「いいよ。それで、いつルヴェールに帰っちゃうの?」

「近い内には帰るつもり。ほんと何しに来たんだろう……」

「近い内っていつ?一人で大丈夫?」

「明日か明後日か、遅くても三日後には。魔物からは逃げながら帰るから、一人でも大丈夫」

「そっか……じゃあ、今しかないね。あのさ、セト──」


 彼女はベッドから体を起こし、セトの隣に並んで腰をかける。


「──私と、もう一度やり直さない?貴方の記憶が戻らないのは、それはもう仕方がないことだと思う。だからもう一度、最初からやり直そうよ。正直言うと、私はそんなの嫌なんだけどさ……。貴方が今までに私と過ごした時間、全部忘れちゃったんだって思うと、本当に苦しくなる……。でも、また一からやり直していく内に思い出してくれればいいかなって。今はもう、それしかないかなって思うんだよね」


 彼女の言葉に、セトは何も返すことができない。できるはずがなかった。


「いいでしょ?というか、断るなんてありえないからね。私からすれば、つい最近まで貴方とずっと一緒に過ごしてきたんだから。毎日すっごく楽しくて、もう貴方以外ありえないなって、ずっとそう思ってきたんだから。貴方の方からも、そう言ってくれてたんだから」


 何も言えない……。そんな過去、自分は知らない……。


「また一緒に、いろんな場所を旅しようよ。また一緒にいろんな事で笑おうよ。今後のこととかも、またいっぱい話そ?いつから同棲して、いつ結婚して、いつ子供産んでとか……ね?全部決めてたじゃん。……ねえ、なんで黙ってるの?」

「そ、それは……」


 ……ダメだ、言えない。少なくとも、今言うのは間違っている。彼女は近々塔の攻略へ向かうのだから、その妨げになるようなことはできない……。


「ねえ……その顔は、何?」

「い、今は……何も言えない。次に会った時──」

「今言えないっていうのは……それはもう答えになってるよね。つまりお断りってことだよね。どうして?」

「言えない」

「それもほとんど、答えになってる……。別の人が、もういるってことでいい?」

「……」

「そっか、そうなんだね……。じゃあさ──」


 彼女の目から、涙がこぼれる。セトはそんな彼女の顔を、直視することができなかった。


「──早く別れてね、その人と。だって私の方が先なんだから。全然先だったんだから。寧ろ今でも私が貴方の恋人なんだから……。浮気とか、やめてよね……」

「……」

「フフッ……別にそんな顔しなくていいよ。今回は……今回だけは、特別に許してあげるから。記憶のこととか色々あったと思うし。だから、今回だけ特別ね。次浮気したら……絶対に……許さないんだから……」

「……」

「ねえ、どうしたの……?許してあげるって言ってるんだけど。ほら、もっと喜んでよ。ねえ、喜んでって……いってるのに……」

「自分は──」

「ねえ!!!私でしょ!?当然私を選ぶよね!?このローブも、杖も、全部お揃いにしたじゃん!愛の印だって!忘れるわけないよね!?髪も白にするって言ったら、それはやりすぎって貴方が止めたんだよ!?覚えてるでしょ!?」

「……」

「ねえ……早くやり直すって言ってよ……。不安になっちゃうよ……ウッ……」


 彼女が少しだけ落ち着いたところで、セトは静かに口を開く。


「時間を下さい。今は、何も言えません」

「ウッ……なんで……なんでよ……」

「本当に、すみません……」

「嫌……嫌だよ……そんなの……酷すぎるよ……」

「すみません……」


 それから何時間もの間、彼女は説得を続けるが、しかしセトがそれに応じることはなく、彼は決して首を縦には振らなかった。


 そしてそのまま日は昇り、セトはその日の内にシュネーケンを出ていくことを決める。

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