10、定められた未来へ
「同じで真逆……?それはどういうことかしら」
セトの言葉に、アンネローゼは首を傾げた。
「自分は……剣で魔物を斬ることが、できなくなってしまったのです……。命を等価値と判断するまでは同じで、騎士を斬るか、魔物を斬らないか、そこが逆だった。自分と兄との違いは、きっとそれだけだったのです……」
今思えば、結局自分と『紅之大鎌』はかなり似ていたということだ。
これで疑問はかなり解消された。かなり解消はされたが、しかしまだ、分からないことがある。
「アンネローゼ様。クリムゾン・サイスは以前、シェーンヴェントで自分の過去を一部語っていましたが、あれは……」
「ああ……その直前に、私がクリムゾン・サイスと会っていたことは知ってるわね?そこで話を合わせておいたのよ。もしもセトと会ったら、作戦で記憶を無くしたことにしておいて、と」
「え……?ですが、武器を交えたのでは……」
「あいつはもう誰にでも鎌を向けるの。話を終えたら斬りかかってきたわ。愚かな人よね……」
「そうでしたか……。では、貴女はあの時点で自分が生きていたことを既に知っていた……?」
「そんなわけがないでしょう!貴方が生きていることも、貴方が記憶を無くしたことも、あの時知ったのよ。だから今思うと、私の嘘も穴だらけだったということね……」
「あ……本当ですね……」
自分が生きていることをあれだけ喜んでいたにもかかわらず、彼女は自分が記憶を無くした理由を知っていた。
改めて考えてみると、それは決してありえないことだ。
記憶を無くしたことを知っていたのなら、自分が生きていることも知っていた筈。逆に自分の生死を知らなかったとしたら、記憶を無くしたこと自体知らない筈なのだ。
「それで?もう日も暮れてしまったけど、まだ何かあるかしら?」
「あ、えっと……」
結局、『紅之大鎌』の語った平和の極みは全くの虚構というわけではなかった。それは本当に彼が望むことでもないのだが、しかし彼の脳内には確実に存在する考えだったのだ。そしてその考えの元、彼は鎌を振り続けているのだ。
「……いえ。もう、何もありません。全てを教えて頂き、本当にありがとうございました」
「ええ……。それで、貴方は今後どうするつもり?魔物を斬れない騎士なんて、正直必要ないわ」
「そう、ですよね……。自分は……クリムゾン・サイスを、討伐します。それから──」
それから、どうする?『紅之大鎌』を討伐できたとして、その後自分はどう生きていけばいい……?
……いや、それはもう考えるまでもないことだ。考えるまでもなく、決まっていることだ。もしも彼を討伐できたら──。
「──自分は、騎士を辞めます」
──それは嘘。自分も、彼と共にこの世から消え失せるでしょう。
「そう……。ええ、きっとそれがいいわ。貴方はまだ若いのだから、騎士以外にも道はたくさんある。シンデレラに捨てられたら、別に私が雇ってあげてもいい」
「それは助かります。その時は、宜しくお願い致します」
「ええ。それじゃあ、今日はこの城に泊めてあげるわ。部屋を案内するからついて来なさい」
「はい。ありがとうございます」
その後二人は部屋を出て行くが、アンネローゼはセトを別の部屋に案内した後、今度はレイナと共に再びその部屋へと入っていくのだった。




