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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第四章 シュネーケンの真実
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9、ただ紅色の大鎌と

「どういうつもりか説明してもらえるかしら」


 凄まじい威圧と共に放たれたアンネローゼの言葉に、レイナはただ体の震えが止まらない。


「あ、あ、アンネローゼ様……えっと、これは、その……」

「一体誰が!誰がセトの迎えなんて頼んだの!?勝手な行動をとって、その上余計なことまで喋って!挙げ句の果てには、セトのことをセーちゃんですって!?」

「ご、ごめんなさい!ごめんなさい……!ウッ……ううっ……」


 目に涙すら浮かべるレイナを見て、流石にかわいそうに思えたセトはここで間に入る。


「アンネローゼ様。レイナさんは自分が尋ねたことに答えて下さっただけです。彼女を責めないで頂けませんか」

「セト……」

「保守派の代表として、自分を指名して頂き本当にありがとうございます。ただ、自分がここへ来たのは保守派の代表としてだけではありません。貴女から、真実を聞くために来たのです」

「……そうね……全て話さなければいけないわね……。城へ来なさい」


 そしてセトとレイナは、アンネローゼについて城塞都市シュネーケンへ。




 アルトグレンツェからシュネーケンまでは本当に近く、三人は僅か数分でシュネーケン城まで辿り着く。


 シュネーケンは周囲が城壁に囲まれた軍事国家であり、ドワーフ達が作ったとされるセブンドワーフスという自警団が存在する。さらには製鉄、鉱石の加工といった技術も高度なものを持ち、武器や宝飾品なども有名だ。


「レイナ、お前はここで待っていなさい」


 アンネローゼはセトをシュネーケン城内へ招き入れると、一旦レイナを広間で待機させる。


 それからセトと二人で城内の一室へ。


「さて……何から話そうかしら」

「アンネローゼ様、その前に一つお礼を言わせてください」


 室内へ入るとセトはそう言って、話を切り出そうとするアンネローゼを止めた。


「え……私に?何かしら」

「剣のことです。遅くなってしまいましたが、本当にありがとうございます」

「あ、ああ……そんなこと……。それより、何が聞きたいの?」


 口ではそう言いつつも、若干頬を染めるアンネローゼ。


「ええ。あの……まず、先ほどレイナさんが言っていたことは本当なのですか?」

「本当よ。以前お前に嘘をついてしまったことは謝るわ。ごめんなさいね」

「何故、嘘を……?」

「お前にあの技を思い出して欲しくなかった。お前にとって、クリムゾン・サイスの存在は悪でなければならない。でなければ、クリムゾン・サイスは永遠に人を殺し続けてしまう……」

「え……?どういう、ことですか……?」

「かつてお前自身が言ったことよ。討伐作戦など無意味。エトを葬れるのは、自分だけだと」


 つまりセトしか『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』を倒すことはできず、倒さなければ『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』は人を殺し続けてしまう。それでセトにとって『紅之大鎌(クリムゾン・サイス)』は悪でなければならず、彼を肯定することになる独自のスキルについては話さなかったと、そういうことか。


「私はお前の言うことなど聞かずに作戦を実行しようとした。そしたらお前は一人でクリムゾン・サイスの元へ向かったの。それで一人でクリムゾン・サイスと戦闘し、彼の独自のスキルによって記憶を無くした」

「そう……だったのですか……」


 だから、彼女は作戦に巻き込まれたと嘘をつくことで独自のスキルの話を回避したわけか……。


 ん……まて、だったら──。


「──だったら何故、そもそも貴女はクリムゾン・サイスの討伐を計画したのですか?クリムゾン・サイスの騎士殺害が彼の見誤りだとしたら、それは自分と全く同じです!自分が許されて彼が許されないというのはおかしい!」

「頼まれたのよ……。自分を殺してくれと、そう頼まれたの……。それより、自分と同じというのはどういうことかしら」

「あ……あの、実は自分も──」


 そこからセトはアンネローゼにもウォロペアーレでのことを全て話した。


 話を聞き、彼女は悲しそうな顔で俯く。


「そうだったの……。それはお前も、辛かったでしょうね……」

「それであの……頼まれたというのは……?」

「ええ。エトはね、本当に自分のことをよく理解していたわ。彼は自分がこの世から消え失せるべき存在だと誰よりも分かっていた。だから私に頼んできたの。早急にこの俺を殺せ、と」

「断らなかったのですか……?」

「初めはもちろん断ったわよ。でもね、彼の話を聞くうちに……考えは変わっていった」

「それは、どのような話でしたか?」

「エトは……騎士を誤って殺害したことで、騎士と魔物の区別がつかなっていたの。どちらも同じ命だと、同等の価値でなければならないと、そう脳が判断するようになっていた。それは彼の意思とは関係なく、彼が望まなくとも脳が先に動いてしまう。魔物を排除しなければならないのであれば、それは騎士も同じ。もっと言うと、彼にとって生命そのものが排除の対象となった。それを聞いて、ただ危険だと思ったわ。そして同時に少しだけ安心してしまった。彼が自分自身の危険さを理解できているということにね」

「それで……貴女はクリムゾン・サイスの討伐を決めた……?」

「ええ。彼の討伐を決めたときに、エトと呼ぶのもやめたわ。彼はただ、クリムゾン・サイス。ただ、紅色の大鎌」


 彼はただ、クリムゾン・サイス……。ただ、紅色の大鎌……。


 つまり……そうか、彼は──。


「──彼は、自分と同じだったのですね……。自分と同じで、そして真逆だった……」


 彼が騎士と魔物の命を等価値と判断したのと同じように、セトもまた、現在騎士と魔物の命を等価値と判断している。


 そこまでは同じで、そしてそこからが真逆だった。


 騎士を魔物とするエトに対し、セトは魔物を騎士としたのだ。

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