8、教会の街
「あれが……」
夕方、セトとレイナの二人はシュネーケンに隣接する街、アルトグレンツェに辿り着く。
この街は教会の街とも呼ばれ、いばらの塔が聳える世界の中心ともいえる場所だ。ただ現在は街の建物のほとんどがいばらの蔦に覆われてしまっており、一つの街としての機能はあまり果たしていない。
「うん。あれがいばらの塔、シピリカフルーフ。ルクレティア様が眠っている場所よ」
「塔というよりも、お城のようですね……あ、お城みたい、ダネ」
「フフフッ。そうね。そのカタコトはどうにかならないの?」
「ご、ごめんネ……」
いばらの塔はシピリカフルーフとも呼ばれ、それは複数の塔の集合体を総称したもの。なので外見は塔というよりまるで巨大な城なのだ。
「でさ、セーちゃん。ここまで全部空振りだけど……やっぱり何かあったんだよね?」
「あ、アア……」
「教えて。何があったの?」
「あの……実は以前、ウォロペアーレで……」
それからセトは、あった事実を全てレイナに告げた。
誤って味方の騎士を殺めてしまったという話を聞き、レイナは初め会ったときのように表情が硬くなる。
「そっ、か……。うん、分かった。教えてくれてありがと。でも……その独自のスキルっていうのは……私にも分からないかな……」
「そう……だよネ。じゃあ、その……クリムゾン・サイスのことは、何か知らない?」
「エト、だよね……。うーん……あいつのことは、なんとも……。討伐作戦の話を聞いたのも、私にとっては本当に突然だったし……」
「討伐作戦の話を、聞いた……?作戦はアンネローゼ様に仕える騎士全体に伝えられたの?」
「いいえ?私はその作戦の部隊に選ばれていたから……」
「そう……なんだ……」
レイナが、エト討伐作戦の部隊に選ばれた一人……。なんとなくだが、引っかかる……。
彼女がその部隊の一人なら、自分が記憶を失くした原因の一人であるとも言える。自分に記憶を飛ばす程の致命傷を与えた部隊の一人なら……再開してすぐに謝罪があってもおかしくはない……。というか、これまで見てきた彼女の性格からして、なくてはおかしいとまでいえるだろう。
遠回しに聞いてみるか……。
「あの、討伐作戦は……何故失敗したと思う?」
セトがそう尋ねると、彼女は想定外の返答をしてきた。
「え……?失敗というか……エトの討伐作戦は、直前で中止になったよ?」
なっ……中止……!?『紅之大鎌』の討伐作戦は、そもそも行われていなかった……!?
「そ、それは……どうして……」
「え、だって直前になってセーちゃんが作戦の範囲内にいるかもしれないって──」
「レイナ!!!」
レイナの言葉を掻き消したその言葉には、これ以上ない程の怒りが込められていた。
突然名を呼ばれ、レイナはビクッと体を震わせる。
そして恐る恐る後ろを振り返ると、そこには白雪姫アンネローゼの姿があった。




