4、虚実の過去
ルヴェールへと戻った二人は、先ずシンデレラの元へ。彼女はとても心配そうな顔で二人を待っていた。
「ああ、セト。随分と遅かったな。何かあったのか?」
「あ……ええ、実は──」
話を切り出そうとするセトを、ココルが止める。
「わ、私が!私があとで報告しておくから!それで、セトさんに用ですよね?」
「ん、ああ。それより先にココロのことなんだが──」
「そ!それも!それも、私があとで一人で聞きますので!とりあえずセトさんへの用件を……!」
「そ、そうか……?まあいいが……。セト、悪いが明日からシュネーケンへ向かって欲しい。アンネローゼとの会議で近頃の塔攻略が全く進んでいないという話になってな。ここは一度勢力間で手を組んで、なんとか塔の難所を突破できないかと。それで保守派の代表として、お前をシュネーケンへ派遣することになった。まあ、代表といってもほとんどアンネローゼの指名だがな」
保守派の代表……。今の自分には到底務まらない。これは断るしかないだろう。
「あの、シンデレラ様……大変言いづらいのですが──」
「せ!セトさん!」
またしても口を挟むココル。
「あの、あの……ちょ、ちょっとだけ部屋で休んで来たら?その間に私が色々話しておくから」
「え……?」
「ね!ほら!いっぱい歩いたしさ!」
セトはそう言うココルの優しさに感謝し、彼女の言う通り一度部屋へ戻ることにした。
「分かりました……。本当にありがとうございます、ココルさん……」
「うん!じゃあまたね!……さて」
セトが立ち去ったところで、ココルは若干苛立ちさえ見せるシンデレラに向き直る。
「なんなんだココル。そんなにセトに言わせたくないのか?」
「ご、ごめんなさい……。でも、本当にセトさんには言わせたくなかったので……」
「そ、そうか……」
「はい……。それで、あの……ウォロペアーレでのことなんですが……」
それから彼女は、シンデレラにウォロペアーレで起きたことを伝える。
暴君グラゴーネの討伐と、その際に犠牲となった騎士達のこと。そしてその中の一人を、セト自身が殺めてしまったこと。それ故に今、彼が剣を振れないこと。全てを丁寧に、真剣に説明していく。
その話を聞き終えたシンデレラは、かなり複雑な表情を浮かべた。
「そうか……。剣を振れない、か……。しかし……セトは、何故騎士を殺めてしまったのだろうな……。当然何かしらの理由があったと思うのだが……」
「私も詳しくは分かりませんが……。恐らく、スキルの攻撃範囲を見誤ったのかと……」
「攻撃範囲を見誤った?いやいや、セトに限ってそれはないだろう」
「で、ですよね……。いえ、でも……そうとしか考えられないんです……。見た感じでは」
「そう、なのか……?いや、しかし……あのセトがか?」
「はい……。もしかしたら通常のスキルではなかったのかも……。討伐された魔物の傷も妙な感じでしたし、何より一撃でエリア一帯を一掃となると……。流石に普通のスキルじゃ無理かも……」
「つまり、セトは何らかの独自のスキルを放ち、その攻撃範囲が想定以上だったと……それで騎士すらも巻き込んでしまったと、そういうことか」
結論には達したが、しかしここでシンデレラは腕を組んでさらに悩む。
「ではその独自のスキルとは何だ?ウォロペアーレで開発し、それをすぐに実践で用いたのか?それとも強大な相手に追い詰められ、咄嗟に放ったのか?それとも……」
騎士狩りの兄『紅之大鎌』は、確か独自のスキルなど使ってはこなかった。セトからもそのような報告はなく、同時に彼らの過去を知る筈のアンネローゼすら何も語っていない。
しかしセトが使えるそれほど強力な独自のスキルを、『紅之大鎌』が使えないというのも……。
「それとも、過去のセトが開発したのか……。セトはすぐそこに居るわけだ。直接聞いてみればいいな。ココル、お前はここで──」
「あ!あの!その前に、一つだけ……」
「ん、なんだ?」
「お姉ちゃんのこと、聞いてもいいですか……?」
「ああ、そうだったな。ココロは……」
一旦話はセトからココロへ。シンデレラは少し間を置いてから、言いづらそうに告げた。
「……ココロは、騎士を辞めたよ」




