3、帰路
「あの……ココルさん」
ウォロペアーレからルヴェールへの道中、セトはココルに声をかける。
「ん、何?」
「ええと……ココロさんは、あの後どうされましたか……?」
恐る恐るセトがそう尋ねると、ココルは怒ったような顔で答えた。
「先にルヴェールに戻ったんじゃない?別に知らないけど」
「そう、ですか……」
「うん……。あの、セトさん」
「はい……?」
「今言うことじゃないかもしれないけどさ……その、お姉ちゃんに……されたじゃん?」
そう言うと、ココルは突然顔を染めて俯く。
「え……?」
「いや……キスの、話……。別に怒ってるとかじゃなくてね、その……ほら、お姉ちゃんとはして、私とはしないっていうのも……ね。どうかと思うといいますか……」
「したいのですか?」
「へっ……!いや、まあ……うん。したいよ……」
「今、ですか?」
「いやだから……今じゃなくてもいいけど……。ていうか、セトさんはどうなの?少しくらいしたいとか思わないの?」
「自分は……」
セトは少しだけ彼女への返答に悩んだが、しかし正直に答えることにした。
「今は、罪を償うことで頭が一杯で、貴女のことを考える余裕がありません。本当にすみません……」
セトの言葉に、彼女は一瞬悲しげな表情を見せるが、しかしすぐに笑顔をつくる。
「そう、だよね……。私の方こそごめんね、いきなり変なこと聞いちゃって。今は貴方の言う通り、ゆっくり考える時だよね。でも……またいつか、貴方に余裕ができてきたら、その時は──」
彼女は、まるで以前のセトのような穏やかな笑顔で空を仰ぐ。
「──見て欲しいな……私のことも」
セトは彼女の姿にほんの少しの間だけ見惚れ、そしてゆっくりと頷いた。
「分かりました……約束します」
セトの返事に頬を染めるココル。そんな彼女に、セトは数日ぶりの笑顔を向ける。
彼女のお陰で、その瞬間だけは僅かながら和らいだような気がした。ただそれは決して犯した罪の重みがというわけではなくて、その罪に対する彼自身の気持ちがという話だ。
「い、急ごっか……」
「はい」
人を殺した罪が消えることはなく、永遠にそれを背負い生きていくことはもう変えられない。しかしそんな中でも、僅かな希望を感じるくらいなら許してもらえるような、そんな気がした。
ルヴェールまではあと少し。二人はシンデレラの待つ場所へと道を急ぐ。




