3、白の騎士
「そういえば名前聞いてなかったね。なんていうの?」
ココル、ココロ、そしてエトの三人は、目的地シェーンヴェントへ向かいルヴェールから西へと歩いていた。
その途中、ココルが青年に尋ねる。
「自分のことはエトと呼んで下さい」
「エト、ね。了解ー。私のことは、ココル先輩って呼んでね!ウフフッ!」
彼女の言葉に姉ココロは、少し強めの口調で声をかける。
「ココル、初対面の方にその様な態度は失礼です。少しは大人になりなさい」
「むむ……」
ルヴェールから歩くこと十数分。三人はシェーンヴェントの平原に辿り着いた。
周囲を見渡してみると、異様な数の魔物が視界に入る。
「すごい数ですね……。ここは普段からこんなにも魔物が?」
エトのこの言葉には、ココロが厳しい顔で答える。
「いいえ、今日は異常に多いみたいです。何故でしょう……」
「考えても仕方ないよ、お姉ちゃん。一匹づつ片付けていこ!」
そう言って弓矢を構えるココルに続き、ココロはメイスと盾を、エトは剣と盾をそれぞれ構えた。
そしてココルは視界に捉えた一匹の魔物めがけて矢を引き絞る。
「二人とも、続いてね!」
その言葉とともに放った矢は、飛行する巨大な蜂型の魔物、ライトジャロビーの体に突き刺さる。
それを見て、エトはすかさず魔物との間合いを詰め剣を一振り。白色の剣は美しい軌道を描きながら、飛行するライトジャロビーの体に深い斬撃を与えた。
二人の攻撃に怯むライトジャロビーだが、さらに加えてココロの闇属性武器による魔法撃がヒット。弱点を突いたこの一撃にライトジャロビーは力無く地面に倒れる。
「よしっ、まずは一匹!今の感じ、凄くいいね!」
笑顔でそう言いながらも、既に次の標的を狙うココル。
そして彼女は、フレアゴンガという赤い巨体が特徴のゴリラ型の魔物に狙いを定め、矢を放つ。
「ココル、今日はエトさんもいるのですから、もう少し間を置いて……」
ココロはそう言うが、しかしエトは既にフレアゴンガの眼前に飛び出していた。
そこから彼は立て続けに二度の斬撃を叩き込む。
「え、凄っ……!何あのスピード……」
エトの攻撃にフレアゴンガの巨体は若干揺らぐが、しかし流石のタフさを誇る標的はすぐさま立ち直り、その強靭な拳をエトめがけ振りかぶる。
「エトさん!」
叫びながらココロはメイスによる援護魔法撃を放つが、炎属性の敵に対し先程のような効果は得られず、フレアゴンガの拳を止めることはできない。
「大丈夫です」
小さくそう答えたエトは、振り抜かれる拳に上手く盾を当てることで衝撃を受け流し、さらに流れるような動きで敵懐に潜り込むと、そこでコンパクトに剣を一振り。
これは〈シャープスラッシュ〉といい、剣士にとっては基本となるスキルの一つだ。
見た目に反しかなりの威力を持つこの一撃に、フレアゴンガの巨体は仰け反りそこにココルが矢を合わせる。
さらにトドメにもう一振りエトが斬撃を加え、ここでようやくフレアゴンガの巨体は倒れた。
「凄い強いじゃん!なんでなんで?」
「エトさん凄いです……!」
そう言いながら二人はエトの元へ駆け寄るが、しかし彼は何故か呆然と前方を眺めている。
「ん、どうしたの?」
ココルがそう尋ねると、エトは前を向いたまま口を開いた。
「あ、いえ……。あの方って……」
彼の視線の先には、黒と赤の派手なドレスに身を包んだ一人の女性。
改革派リーダー、白雪姫アンネローゼの姿がそこにあった。