1、山積みの罪状
■■■
「俺が……やったのか……?」
小鹿の森キッツカシータにて、その男──エトは、倒された騎士達をただ呆然と眺める。
「……う……噓……噓、だろ……」
そんな彼の元へと駆け寄る白髪の騎士、セト。
「エト!?何があった!?」
「……なん、で……なぜ……俺が……」
頭を抱え、その場にうずくまるエト。
そんな彼の足元に溜まる血を踏みしめ、セトはどうにかエトの体を支えた。
「エト……その力……」
「ああ……ダメだったんだ……。ダメだったんだよ……!こんなクソみてえな……!クソみてえな力に頼ってたら……!!!」
「と、とにかく……帰ろう。シュネーケンへ戻ろう」
「もう二度と……」
二度と、この力は──。
■■■
目を覚ますと、すぐ隣で泣いているココルが視界に映った。
「せ、セトさん……!?大丈夫!?」
彼女の言葉に、セトはゆっくりと頷く。
「ここは……?」
「ウォロペアーレ城よ……。セトさん、体は大丈夫……?」
答えたのはその場にいた人魚姫ルーツィア。
現在セトはウォロペアーレ城内の一室に寝かされているようだ。
「ルーツィア様……ルーツィア様、申し訳ございません……自分は……」
自分は、ルトさんを殺めてしまいました。力に溺れ、周りが見えていませんでした。もはや自分は大鎌をかざすあの男と同等の存在。騎士殺しです。どうか、自分に罰を与えてください。どうか、どうかお願いです……。
「あまり自分を責めないで……。グラゴーネの討伐、本当にお疲れ様。今は何も考えないで、休んで欲しい……」
「自分は……自分はもう……」
もう、死んでしまいたい……。ルトさんのあの笑顔を思い返すと……そう思うことしかできません……。自分は……きっと、もうこの世からは消え失せるべき存在です……。
「大丈夫……大丈夫よ……。私はちゃんと分かっているから……」
ルーツィアはそう言うと、セトの手を握りしめた。
「ルーツィア様……どうか……」
どうかこんな自分の汚れた手など、握りしめないで下さい……。貴女の美しい手を、汚したくはありません……。
「大丈夫……大丈夫……」
ルーツィアはその後、何分間もの間セトの手を握り、ただ「大丈夫」と声をかけ続ける。
「うう……あ……ああ……」
気づくとセトの目からはボロボロと涙がこぼれ、そして声を出して泣いていた。
悲しい……それよりも、その何百倍も、ただ自分が憎い……。自分を憎み、それによってほんの少しでも罪滅ぼしをしようと考える思考が憎い……。とにかく今の自分を構成するもの全てが憎い……。憎い憎い憎い……!消えろ!消え失せろ!今すぐに!この世から!消えてしまえ!
「ココルさん、もう少しセトさんについていてあげてください……」
「も、もぢろんでず……!!!」
セトの様子を伺い、ルーツィアはあとをココルに任せ一旦部屋を出て行く。
セトと二人になったココルは、ルーツィアに代わり彼の手を必死で握る。
「ごめんなさい……ごめんなさい……本当に、ごめんなさい……」
彼女もまた、責任を感じていた。
自分があの時彼に付いて行っていれば……そもそも自分が姉と喧嘩などしなければ……自分が彼の隣にいてあけられたら……自分が……自分が……自分が……。
「ココルさん……。悪いのは、全て自分です……。貴女は、どうか謝らないで下さい……」
「でも……でも……私が、付いて行っていれば……」
「付いて来ないでくれてよかった……。貴女まで、失うところでした……。貴女まで、自分が殺めてしまうところでした……」
「そんな……!そんなこと……!そんなこと……ないよ……絶対に……」
叫んだ心は疲れ果て、流し続けた涙も枯れ果て、セトはただ静寂を感じ取る。
これから先、自分は一体どう生きていくのだろうか……。人殺しとして、自分はどう罪を償っていけばいいのだろうか……。
冷静になった心は、目の前に山積みとなった問題に少しずつとりかかっていった。
それは、今まで経験してきたどんなことよりも、辛く重い作業となる。




