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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第三章 ウォロペアーレの涙
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8、心の震え

「今日は付き合って頂いて本当にありがとうございました」


 日が暮れた頃、コーンブルーメからウォロペアーレ城へと歩きながら、セトはルトに向かってそう口を開く。


 周囲にはもう魔物の姿はなく、彼女は兜を取りその素顔を見せていた。


「と、とんでもございません!私も、セト様の剣技をまた見ることができて本当に嬉しいです。今まで生きていてよかったです……」

「そ、そんなにですか……?」

「ええ……!セト様の強さはあの技だけじゃないということも分かりましたし、私、これまで以上にセト様のことが好きに……あ、いえ、その……憧れとしてといいますか……とにかく、今日一日本当にありがとうございました……!」


 ルトの言葉に、セトは穏やかに笑い「こちらこそ」と一言。それに対し彼女は顔を真っ赤にして恥ずかしそうに下を向く。


 〈瀬戸流技─白雷〉は結局のところまだ未完成だ。記憶を失う前の感触は確実に取り戻しつつあるのだが、しかし技の完成と呼べるところまでは到底達していない。


 日が沈みきる前に二人はコーンブルーメよりまた数分ほどでウォロペアーレ城へと帰還。セトはルトと別れ自分の部屋へと戻るのだった。




 翌日、丁度時刻が正午を回った頃、セトの部屋をルーツィアの姉ベアトリクスが訪ねる。


「セトさん、あの……一つお願いがあるのだけれど、聞いてくれないかしら」


 申し訳なさそうにそう言う彼女に対し、セトは快く応じた。


「はい、なんでしょうか」

「ごめんなさいね、お客様なのに。それでね、コーンブルーメから南に歩いた辺りに凄く大きな海底洞窟があるんだけど、知ってるかな?」

「いえ……すみませんが、分からないです」

「うん、そうだよね。私たちはそこのことをヴァングロットの穴っていう風に呼んでるんだけど、まだあまり騎士の手も入っていない危険な場所なの。今朝そこへの調査に四人の騎士がパーティーを組んで向かったんだけど……その、戻ってこなくて……」

「分かりました。コーンブルーメから南ですね。今からすぐに向かいます」


 セトの言葉にベアトリクスの表情はパッと明るくなった。


「ありがとう……!本当に……!でも危険な場所だから、なるべく一人で行くのは避けた方がいいわ」

「ええ。ココロさんとココルさんも一緒に来てくれると思います。それで一つ、聞きたいのですが……その四人の騎士の中に、ルトさんはいますか?」

「え……?うん、ルトちゃんも行ってるけど……」

「そうですか……分かりました」


 そう言い残し、セトはまずココルを呼びに彼女の部屋へと向かう。


 そして部屋の前でドアを叩こうとしたその時、中からはココルではなくココロの声が聞こえてきた。


『もしも貴女がそうしないのであれば、私は……』


 その声はどこか震えており、泣いているようにも聞こえる。


『……私は、騎士を辞めます』

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