2、姉妹
「ところで君、名はなんというんだ?」
シンデレラと共にルヴェール城を目指し街の中を歩いていると、隣を歩く彼女はふとそう問いかけてきた。
「名前……ですか」
「ん、どうした?」
名を聞かれただけだが、しかし彼は暫く答えることができずに考え込む。
「……エトと、そう呼んでください」
考えた末に絞り出したその名は、本名ではなかった。
「エト……か。そうか、わかった」
名を濁す青年に若干不審な目を向けるシンデレラだったが、ただ彼女がそれ以上何かを聞いてくることはなく、そのまま二人はルヴェール城に辿り着く。
「立派なお城ですね……」
繊細で美しいその巨大な城は、シンデレラがこの街で盛んだと言っていたガラスを思わせる造りだ。
「ああ。この城が私たちの拠点となる場所……あー、いや、まだ仕えると決めたわけではなかったか」
少しだけ頬を染める彼女の姿に、青年は苦笑いで答える。
そして二人は、街の中心、ルヴェール城の中へと足を踏み入れていった。
シンデレラに案内されながら城の中を歩いていると、彼女は少し悲しげな表情で口を開く。
「ここでは年に一度、舞踏会も開かれているんだ。今年もあと少しでその時期なのだが……やはり今回は厳しいかもしれないな」
「それは例の、騎士狩りの件があるからでしょうか」
「ああ、勿論それもあるが……もう一つ気になることがある」
「気になること……?」
「氷の女王ヴィルジナルについてだ。近頃この周辺で異様な冷気が噂になっていてな。これは恐らく、奴がルヴェールのすぐ近くまで来ていることを示すのだろう。舞踏会も確かに大切な行事ではあるが……この状況で準備に人手をとられるというのは危険すぎる」
彼女の言葉を聞き、青年は慣れない笑顔を作って言った。
「それでしたら、自分にできることがあれば言ってください。可能な限り力になります」
「本当か!それは助かる!じゃあそうだな、まずはお母様の……」
シンデレラが言いかけたところで、城の中にいた二人の騎士がこちらに近寄ってきた。
「シンデレラさん!その人って、もしかして新しく仕える騎士さんですか?」
元気な声でそう言ってきたのは、若干小柄な少女。全身赤色の軽装備を纏い、背には弓と矢を背負っている。
そんな彼女の後ろに立つのは、高身長で黒色のローブを纏った眼鏡の女性。背には盾、腰にはメイスを携えているので、恐らく回復が得意な魔導師だろう。
「ああ、ココルにココロか。彼はまだ正式に仕えると決まったわけではないよ」
その言葉に悲しげな表情を見せる少女だが、それを見てシンデレラは続けた。
「ただ丁度良かった。今から彼と一緒に魔物の討伐を頼んでもいいか?」
「は、はいっ!勿論ですっ!」
「では晴れの平原シェーンヴェントで魔物の数を減らしてきてくれ。グランツホルンでの騎士狩りの件もあるから、くれぐれも気をつけてな」
そこまで言うと、シンデレラは少し申し訳ないといった表情で青年に向き直る。
「彼女たちは私に仕えている姉妹の騎士だ。妹の方がココルで、後ろに立っている姉がココロ。突然ですまないが二人に同行してくれないか?」
「ええ、構いませんよ」
シンデレラの言葉にゆっくりと頷く青年。
こうして彼は、姉妹騎士ココル、ココロの二人と共に魔物の討伐へと向かうのだった。