4、人魚姫
三人が宮殿内へ踏み入れてすぐ、その美しい声は響き渡った。
「誰……?ルト……?」
ルト……?
「シンデレラ様に仕える者です。ルーツィア様に報告がありここまで来ました」
セトがその美しい声に応えると、彼女は泳いで此方へやってきた。
「シンディの騎士……?白い髪……もしかして、セトさん……?」
その美しい声の持ち主こそが、人魚姫ルーツィア。
頭の天辺で束ねられた長く美しい紫色の髪に貝殻の髪飾り。首には真珠のネックレスを付け、細い腕に細い体。非常に穏やかな表情は愛らしく、上半身だけを見ればまさに非の打ち所がないような美女。しかし、そんな彼女の下半身には足がなく、代わりにあるのは魚の尾ビレ。
「あ……はい。あの、何故自分のことを知っているのですか?」
「ウフフ……私の騎士、ルトがよく話しているから……。貴方のことを……」
ルーツィア様の騎士が、自分の事を話している……?
「え……?それはどういう……」
「本人に直接聞いてみたらどうかしら……?きっと喜ぶわ……」
「ええ、そうします。それで、そのルトさんは……今はどこにいるのですか?」
「えっと、地上で護衛をしていると思うわ……。ここへ来るときに会わなかったかしら……?」
もしかして先程の鎧の騎士……?
「あ……会ったかもしれません。後で話してみます。それで──」
そこからセトは本題に移る。
舞踏会の日にルヴェールで起きた襲撃事件のこと、仮面の騎士、縫い目の騎士のこと、そして『紅之大鎌』がかなりの脅威となりつつあること。セトはそれら全てをルーツィアに説明していった。
「そんなことが……。シンディ……大丈夫かしら……」
話を聞き終え、とても心配そうな顔をするルーツィア。シンデレラの事をシンディと呼ぶあたりからしても、恐らく彼女とシンデレラは本当に深い仲なのだろう。
「あら、その人達は?お客様?」
ここでもう一人、ブロンドに近い茶髪の人魚が泳いでその場へとやってくる。
「ええ……シンディの騎士さん……。よければおもてなしをしてあげて……」
「オッケー。空いてる部屋貸しちゃってもいいよね?」
「うん……もちろん……」
ルーツィアの返事を聞き、彼女はセト達三人の方を向いて口を開く。
「私はルーツィアの姉、ベアトリクスよ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「ルヴェールからだと、ここまで来るのにかなり歩いたんじゃない?宮殿内で空いてる部屋を貸してあげるから、今日はここに泊まって疲れを取っていってね」
「あ、ありがとうございます……!」
そして三人は、ルーツィアの姉ベアトリクスに案内され宮殿内の客室へと招かれる。
「えーっと、君はまずここね」
そう言われ、セトは一人宮殿内の一室へ。中へ入ると、そこはまるで水の中のように……いや、実際ここは水の中ではあるのだけれど、部屋全体が青を基調としており、一人部屋とは思えないほどに広かった。
「こんなに広い部屋……いいのですか?」
「もちろんいいよ。じゃあ、ゆっくりしててね」
そう言い残し、ベアトリクスはココロとココルの部屋を案内しに向かう。
「あ、はい……」
ゆっくりしていろと言われても……一体何をすればいいのか。部屋に居ても仕方ない。もう少ししたら先程のルトさんに会いに地上へ行くことにしよう。
地上へ……果たしてどう行けばいいのだろうか。




