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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第二章 ルヴェールの影
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8、告白

 舞踏会当日、夜の8時にセトがルヴェール城内の広間へ行くと、そこには既に大勢の人達が集まっていた。


 女性は皆ネックレスやイヤリングといった装飾に真っ白なドレスを身に纏い、男性は燕尾服に蝶ネクタイといった舞踏会らしい服装をしている。その中にいつも通り騎士の格好のまま来ていたセトは少しだけ浮いていた。


「セト、来てくれたか」


 そんな彼に声をかけてきたのは、セトと同じくいつも通りの格好をしたシンデレラ。ただし、彼女の纏うドレスのような鎧は十分に舞踏会に見合う服装といえるだろう。


「あ、ええ……」

「フフッ、大丈夫。お前は全身真っ白な装備だからな、全然浮いていないよ。むしろ私の方が浮いているくらいだ」

「あの、シンデレラ様は何故いつも通りの格好なのですか?」

「ん、ああ……その、今日はいつもより冷気が強くてな……」

「ああ……そうでしたか……」


 つまり、舞踏会を狙ってヴィルジナルが攻めてくることを予感しているのだろう。それでいつでも戦えるようにと、彼女は鎧を纏っているのだ。


「それよりセト、もしパートナーがいないのであれば私が──」

「ちょ、ちょっと待った!」


 シンデレラの言葉を遮ったのは、慌ててその場に駆け寄る小さな女性。


「ん、ココルか。どうした?」

「わ、私、セトさんと約束していたので!ねっ!」


 必死そうにそう言う彼女は、もはやセトの知る人物ではなかった。


 特に装飾品はつけていないが、全身に纏う真っ白なドレスに、少しだけ化粧をしたその姿は、普段のココルとは全くの別人で驚くほど美しく見えたのだ。


「は……はい……」


 ココルは若干戸惑うセトの腕を掴んで元気よく引っ張る。


「ほら、いこ!」

「あ、ええ……」


 その場を離れていく二人に、シンデレラは残念そうな表情を浮かべながらも小さく手を振った。




 それから十数分後、セトとココルの二人は早くも城の外に出ていた。


「セトさんて、ほんとに全然踊れないんだね!ちょっとビックリした!」

「ええ……本当にすみません」

「全然いいよ。私も別に踊るの好きなわけじゃないから。それより、今日はなんかいつもより寒いね……」


 喋りながらも、二人はすぐ近くにあったベンチに並んで腰をかける。


「ええ……」

「雪でも降りそうじゃない?空も曇ってるし……」

「ええ……」

「……そ、そうだ!もっとくっつけばちょっとは温まれるかも!ほら、こっち来て!」

「ええ……」

「なっ……!じゃ、じゃあセトさん、前みたいに温かくなるスキルとか使ってくれない?……なんて」

「ええ……」


 何を言っても何故かほぼ無反応のセトに、ココルはついに怒ってベンチから立ち上がる。


「ねえ!そんなに私と居るのが嫌なの!?嫌ならはっきりそう言ってよ!」


 ココルの言葉に、セトは少しだけ頬を染めてゆっくりと首を横に振った。


「いえ……違います。ココルさんが、その……あまりにも綺麗で、見惚れていました……」

「ナっ……!べ、別に……そんなに……変わんないでしょ……」

「いいえ。初めに会ったときは別の方かと思ってしまいました。もちろん普段のココルさんも可愛らしいのですが、今日はその何倍も美しいと思います」

「や……やめてよ……そんな、褒めないでよ……」


 そうは言いながらも、ココルはいつも以上に顔を真っ赤にしてとても嬉しそうな表情を浮かべている。


 そんな彼女のことをセトは暫くの間眺めていたが、その後彼もまたベンチから立ち上がった。


「あの、自分はそろそろ護衛に向かおうかと思っています。ココルさんは、城内へ戻ってもっと舞踏会を楽しんできて下さい」

「へ……な、何それ……。護衛は別に人足りてると思うし……」

「いえ、ですが……あの、ココロさんは護衛に回っているんですよね。少し様子を見に行ってきます」

「嫌……」

「え……ですが──」

「嫌!行かないで!というか、お姉ちゃんの名前出さないでよ……!」

「あの……もしかして、ココロさんと喧嘩しているのですか?」

「だから!お姉ちゃんの名前出さないでって!別に喧嘩してるわけじゃないけど!今は……私と二人なんだから……」


 言いながら、ココルはセトの袖をぎゅっと掴む。


「そうでしたね……すみません」

「うん……。でさ、今日誘ったのは……実は、伝えたいことが……あるからで……」

「伝えたいこと……?自分にですか?」

「うん……えっと、聞いてくれる?」

「ええ。もちろんです」


 彼女はそれから一度だけ深呼吸をして、セトと目を合わせないように下を向き、そしてゆっくりと、その震えた口を開いていく。


「私、貴方の事が好き。私の、恋人になって欲しい」


 同時に空からは、雪が降り始めていた。

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