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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第二章 ルヴェールの影
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5、帰還

「カメ、ちゃん……?」


 彼女の言葉にセトはかなり戸惑っていたが、そんな彼をよそに彼女は再びその笑う仮面を被った。


「貴方は、なんというお名前ですか」


 そして全く口調を変えないまま、そう尋ねてくる。


「あ、っと……セト、といいます」

「ほうほう、貴方が……なるほど。では、うちはそろそろ帰りますル」


 異様な言葉遣いが気になるところではあるが、セトはその場から立ち去っていく彼女を一旦引き止めようと声をかけた。


「あ、あの!自分のことを知っているようですが、何故ですか?」


 その問いに彼女は、振り向きもせず一言「不答(こたえず)」と、そう呟きそのまま立ち去ってしまう。


 こたえず……?


「セトさん、あの人誰だか分かった?」


 そう言いながら近寄ってきたのはココルだ。


「誰かまでは分かりませんが……ただ、その……」

「ん、何?」


 ……自分のことを、知っているようでした。


「……いえ、なんでもありません」

「そう?じゃあ──」


 言いながらもココルは笑顔でセトの冷えた手を握り、元気よく引っ張った。


「──帰ろっか!お姉ちゃん、帰るよー」


 仲良く並んで歩く二人に、近寄ってきたココロは顔を赤くしてどこか慌てる。


「な、なんで、手、繋いで……!」

「フフフッ。羨ましい?」

「べ、別に、羨ましいというわけではッ……!羨ましいというわけではッ……!」

「ハハハハッ!そんなに羨ましいんだ!でもダメ!ルヴェールまで私が手繋いでいくから!」

「せ、せ、セトさんに迷惑でしょう!そうですよね、セトさん!」


 ココロに言い寄られ、セトは戸惑いつつも苦笑いで答えた。


「自分は構いませんよ。ココルさんの手、温かいですから」


 その言葉に今度はココルが頬を染め、握っていた手をさらにギュッと強く握り締める。


「じゃ、じゃあ、行こっか」


 そう言って歩き始めるココルに、どこか悔しそうな表情を見せるココロ。


 こうして三人は、仮面の彼女の協力もあり無事標的の魔物討伐を果たし、ルヴェールへと引き返していくのだった。




 帰りの道中、シェーンヴェントで小型の魔物に遭遇したため、流石にルヴェールまでココルと手を繋いでというわけにはいかなかった。


 そしてルイヒネージュから歩くこと数十分、ルヴェールへと帰った三人は、その足で武器を売る店の中へと入っていく。


「先にシンデレラ様に報告をした方がいいのではないですか?」

「セトさん真面目すぎー。報告なんて、別にいつでも──」


 店内に立つある女性の姿を見て、慌てて言葉を飲み込むココル。


「帰っていたのか、セト。その様子だと無事だったようだな。流石だよ」


 こちらに気づきそう声をかけてきたのは、一見ドレスのようにも見える派手な鎧を纏った女性、シンデレラだった。


 この街を収める姫が何故か武器屋の中に立ち、そして何故か、両腕に盾を装備している……?


「し、シンデレラ様……!ええと、その……実はルイヒネージュで見知らぬ騎士の協力がありました。魔物の討伐成功はその方のお陰とも言えます」

「見知らぬ騎士、か……その件は後で城へ戻ったら詳しく聞かせてくれ。それより──」


 ここで彼女は右腕に装備されていた、真っ白な盾を外し、それをセトに差し出す。


「──これを、お前に。すまないな、渡すのが遅れてしまって。以前来た時は真っ白な盾など無いと言われて……」


 差し出された盾を受け取りつつも、セトは少しだけ戸惑った。


「え、じゃあ、この盾はどうされたのですか……?」

「ああ、特別に造ってもらうように頼んでおいたんだ。それが今日ようやく完成したと連絡を受け、今取りに来たというわけだ。き、気に入らなかったか……?」


 戸惑うセトの姿を見て、不安そうにそう尋ねてくるシンデレラ。


 彼女の言葉にセトは笑顔を作ってみせた。


「いえ、とんでもありません。大切に、使わせていただきます」

「ああ、そうしてくれると嬉しいよ。それで……ココルにココロ。お前たちはそんなに体を震わせてどうかしたのか?ルイヒネージュがそんなにも寒かったか?」


 シンデレラの言葉に、ココロは無理やりの笑顔で答える。


「ハハハ……わ、私たちは、そろそろ帰りますね……。すみませんがセトさん、今回の詳細の報告についてはお願いします……」


 そう言い残し、彼女はココルの手を取ってトボトボ店を出て行った。


 セトは一人、罪悪感を感じながらも遠慮気味に手を振ってそんな二人を見送るのだった。

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