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紅ノ月ガ沈ム迄 ーTHE TOWER OF PRINCESSー  作者: Sodius
第二章 ルヴェールの影
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4、雪原の灯火

「あれは……?」


 雪原地帯を進むこと数分。三人は標的と思われる魔物を発見した。


 ここが雪原地帯であるにも関わらず炎の力を宿したその魔物は、全身骨を剥き出しにした骨組みだけの人型魔物、カロルスケルトン。2.5m以上もある全長、両手に握られた剣と盾は全て赤く染まり、それらの装備もその魔物専用であるかのように巨大だ。


 しかし、セトが首をかしげるのはその魔物の容姿の事ではない。


「誰か、闘っている……?」


 そう、カロルスケルトンは今まさに一人の挑戦者との戦闘中だったのだ。


「誰ですかね……。恐らくですが、あの方はシンデレラ様に仕えている騎士ではないようです」

「ええ……そう、ですよね……」


 その騎士がシンデレラに仕える騎士ではないと、セトすらも見た目でそう判断していた。なぜなら──。


「あの仮面……少し、不気味です」


 その騎士は、不気味に笑う仮面で顔を隠していたのだ。その他の装備は全身軽装備、髪はオレンジ色で短め。手に持つ武器は、一対の短剣のようだ。


「共闘しましょう。あの方が誰であれ、目的は同じのようです」

「ええ、そうですね」


 そして三人は揃ってカロルスケルトンに接近、ココルは矢を引き絞り、ココロはメイスを構え、そしてセトは仮面の騎士の隣に並ぶ。


「ん、どなたですかね」


 仮面越しにそう問いかけてきたその声は、どうも女性のもののようだ。


「魔物の討伐に来ました。共闘しま──」


 話の最中だが、しかし敵は当然待ってはくれない。


 新たに参戦したセトめがけ振り下ろされた赤い剣に、彼は〈ディミニッシュブレイド〉を合わせることで弾きかえす。


「──っと。共闘しましょう」

「うむ、それはよいですね。助かりますル」


 ますル……?


 仮面の彼女はそう言って両手短剣を構えると、敵に向かって大きく跳躍。そのまま敵の腕部めがけ身体ごと突っ込んでいく。


 双剣スキル〈カンペテンスブレイク〉。


 彼女は敵の腕の関節部分に素早く双剣の刃を滑り込ませ、そのままカット。かなりの損傷を与えた。


 それを見てセトも敵との距離を詰め、足の関節部に剣をガリッと突き刺す。そこからさらに振り抜くことで、骨をガリガリと削っていった。


 二人の攻撃に加え、ココルの矢、ココロの魔法撃もそれぞれ敵身体の中心部にヒット。


 四人の総攻撃を受け、カロルスケルトンはその巨体を大きく揺らす。が、しかし大きく揺れるだけにとどまった。


「効いていない……?」


 一旦敵から距離をとりそう口を開くと、彼の隣に着地した仮面の彼女がそれに答える。


「さっきからこの調子でして。全然倒れてくれんのです」

「そうでしたか……」


 相手がただタフなだけならダメージを蓄積させていけばいいのだが、全く効いていないとなれば話は別だ。


 するとここてカロルスケルトンはギギギッと鳴き声のような音を上げ、それと同時に手の赤い剣が燃え上がった。


「おお、燃えましたナ」


 ナ……?


 仮面の彼女はどこか余裕そうな口調でそんな事を言っている。


「き、来ますよ!」


 カロルスケルトンは燃え上がった剣を前衛の二人めがけ横に一振り。


 強力な炎を纏ったこの一撃に、後方へ跳んで避けるセト。それに対し仮面の彼女は逆に敵に向かってジャンプ。肩に着地し、そこから首元に双剣を突き刺した。


「ほれ」


 かなり無茶な特攻に見えるが、彼女はどこか慣れた手つきで首に刺した短剣を捻り上げ、敵の頭部を丸ごと弾き飛ばす。そして肩の上から跳躍、セトの隣に着地した。


「凄いですね……」


 セトはそう言うが、しかし首を飛ばされてもやはりカロルスケルトンは倒れない。それどころか、飛ばされた頭部を拾いに向かっている。


「うむ。効いてない。どこか弱点でもあるんですかね」

「そうですね……」

「セトさん──」


 ここで聞こえてきたのは後衛ココロの声だ。


「──恐らくですが身体です!身体の中心かと思います!」


 身体の中心……?


「頭のよいお方がいるようで」


 仮面の彼女は一言だけそう言うと、頭部をくっ付けて戻ってきたカロルスケルトンに向かって跳躍。


 しかし流石に怒ったのか、カロルスケルトンはまたしても剣に炎を纏わせ空中の彼女を叩き落とすように剣を振り抜く。


 彼女は身を捻って直撃は避けるが、炎を帯びた風圧に吹き飛ばされ、そして同時に、彼女の被っていた仮面が外れた。


 彼女の素顔は気になるところだが、一先ずは目の前の魔物に集中。セトは敵の攻撃の隙を狙い剣を突き出すが、しかしこれは赤い盾で弾かれる。


「クッ……」


 それでももう一撃、今度はその盾に向かって範囲攻撃スキル〈ウィールドスラッシュ〉を放った。


 かなりの威力を秘めたその一撃に、剣ではなく盾の方が弾かれ、敵は大きく後ろに仰け反る。


「そこ!」


 そこへ、ココルの渾身の矢が飛んだ。


 弓スキル〈スナイピングショット〉。


 凄まじい勢いで放たれたその矢は、無防備となった敵身体の中心にヒット。そのまま矢は骨を貫通していき、直後、そこから赤い体液が噴き出した。


 そしてようやくカロルスケルトンは雪の積もった地に片膝をつく。


 これは流石に効いているようだが、しかしまだ片膝をついただけだ。


「セトさん!トドメを!」


 ココロの声を聞き、セトは再び〈ウィールドスラッシュ〉による刺突斬を放った。


「届かない……」


 片膝を地につきながらも、カロルスケルトンはセトの一撃を今度は盾で完全にガード。そこから体制を立て直し、いよいよ本気モードと言わんばかりに、その全身に強烈な炎を纏う。


「これでは近づけませヌ」


 ヌ……?


 ふと隣に視線を移すと、仮面の彼女が立っていた。


 既に仮面を装備し直しているのは残念だが、しかしここまできても彼女の口調は全くもって変わらない。


「貴女は……一体──」


 ──何者ですか。


「何者ですか。と、聞きたいようですね」


 セトの心を読んだようにそう言う彼女。


 そんな二人に向かって振り下ろされた炎の剣は、ココロのメイスから放たれたスキル〈ライトニング〉が一旦弾く。


「今は、やめておきます」

「賢明なご判断」


 しかし敵は全く怯むことなく、立て続けにもう一振り。


 それに対し二人は、ここにきて息ピッタリに同時に動いた。


 セトは〈シャープスラッシュ〉を、仮面の彼女は〈クイックスライサー〉を、それぞれ振り下ろされる剣に重ねてぶつけ、それにより敵の炎を纏う剣を遥か彼方まで弾き飛ばす。


 さらに二人は、怯んだ敵の懐へ向かって同時に跳躍。熱い炎を我慢して再びスキルを重ねた。


「「トドメ!」」


 セトの〈ディミニッシュブレイド〉、仮面の彼女の〈カンペテンスブレイク〉は、敵弱点に見事ヒット。


 敵の腹にかなり大きな風穴を開け、直後、赤い液体が勢いよく飛び散った。


 そして崩れていく人型の骨組み。


 セトは着地し一度フゥッと息を吐くと、仮面の彼女に向き直る。


「先程の質問、してもいいでしょうか」


 セトの言葉に彼女は案外素直に頷き、そしてゆっくりと顔に被された仮面をとっていく。


「うちは……そうですね、仮面のカメちゃんとでも呼んでください」


 そう言う彼女の顔には、大きな縫い目。


 その縫い目を隠すために、彼女は仮面を被っているのだろうと、そのときのセトはそう解釈していた。

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