2、花
セト、ココロ、ココルの三人がルヴェールの街を歩いていると、中心街でココルが立ち止まり口を開いた。
「あれ……お姉ちゃん、こんなとこに花屋なんてあった?」
彼女の視線の先には『花』という看板を掲げた一軒の店。外観は新しそうな雰囲気を漂わせている。
「え……?そうですね、最近できたのでしょうか……」
「いってみよー。セト、さん、ちょっと寄り道、いい、ですかね?」
若干ぎこちない彼女の言葉に、セトは穏やかな笑顔で答えた。
「構いませんよ、ココル先輩」
「せ、せ、先輩とかッ!冗談のつもりだったし!呼び捨てでいいから!普通に!」
顔を赤くして慌てる彼女に、その隣でクスクス笑うココロ。
そして三人は、花屋の中へと入っていった。
「いらっしゃいませ〜」
入るとすぐにそう声が聞こえ、一人の女性が三人の前に顔を出す。
肩くらいまであるクルクル巻かれた金髪に優しそうな笑顔が印象的なその女性は、ピンクのエプロンを付け手には軍手をはめていた。身長はココルと同程度……いや、さすがにそれよりは高いか。
「なに身長比べてんのよッ」
突然ココルにキッと睨まれ、セトは苦笑い。そんな二人の隣で、ココロが尋ねる。
「あの、この店初めて見かけたのですができたばかりなのでしょうか」
彼女の問いかけに、花屋の女性はニコニコと笑ったまま答えた。
「はい〜。突然思いついて、突然始めてしまいました〜。よかったら色々見ていって下さいね〜」
「は……はい。あの、お名前を伺ってもよろしいですか?」
ココロがそう尋ねると、彼女は以前のセトのように暫く考え込み、そしてその末に答えたのは本名ではなかった。
「う〜ん……じゃあ、お花を売っているので、ハナと、そう呼んで下さい〜」
「ハナさん……ですか、分かりました」
それから三人は少しだけ店内を回ってから外に出る。
「お姉ちゃん何難しそうな顔してるの?」
店を出てすぐに、ココルは姉の表情を伺ってそう言う。
「ええ……先ほどの方、なんとなく怪しいような気がして……」
「そう?普通に優しそうだったけど?」
「ですがその、名前を伏せているあたり……アッ、イエッ、セトさんを責めているわけではなくてですねッ……!」
「はいはい……」
二人の会話にまたしても苦笑いで見守るセト。
そして三人はルヴェールの街から外へと出ていった。